もちろんフテブテくんもいた。
そして驚くことに、僕の好きな女の子までいた。
バカな。
テストの結果に成績表まで見せてもらったが、優等生そのものだったハズ。
「あれ?どうしたの?まさか補習じゃないよね?」
と聞いてみると、
「部活までの暇潰しよ。夏休みの宿題やろうと思って」
と彼女は答えた。
暇潰しに学校へ・・・
頭の良い人の考えることは分からない。
彼女の名前はNさんと言う。
成績優秀、スポーツ万能、真面目だけど明るくて、
よく笑う女の子だった。
彼女が教科書を忘れたので見せて欲しいと言ってきたのが最初の会話だった。
中学まで男女の席はピッタリとくっついてたから隣の席の子と同じ教科書を見ることが出来たのだが、高校は何故か隣の席が離れていたので、一冊の教科書を一緒に見るというのが難しかった。
かと言って、わざわざ机をくっつけるのも恥ずかしいので、僕の教科書をそっくり貸した。
その行為に対して彼女は戸惑っていたが、授業が始まってしまった。
上手くやり過ごせると思っていたが、そういう時に限って余計な注目を浴びてしまったりするものである。
僕が教科書も開いてないことに教師が気づいて怒られた。忘れました、と言ったら更に怒られた。
「忘れたなら隣に見せてもらえ!」
と一喝され、結局は彼女に見せてもらうことになってしまうというカッコ悪いパターンになってしまった。
授業が終わったあと、彼女は僕に謝った。
貸したのは僕なのだから、別に気にすることはないのだが。
かえって彼女を困らせたのではないかと内心モヤモヤしていた。
「怒られに学校来てるようなもんだから」みたいなことを僕は言った。
Nさんは笑った。
「もっと怖い人かと思った」とNさんは言った。
は?
「いつも怖い顔してるから」
すみません、こういう顔なんです。
彼女と仲良くなったキッカケは、そんな経緯であった。
それから少しずつ話し始め、気づいたら好きになっていた。
補習ということもあり、
座る席は自由だった。
彼女がいつもの席に座っていたので、僕もいつもの席に座った。
来なくていいのに、
フテブテくんが後ろの席に来た。
Nさんに余計なこと言わないでくれよ、と願うのみ。
そして担任の女教師が入って来て、授業を始めた。
授業の内容は1学期の授業の復讐で、最後には小テストが行われた。
補習は昼前には終わった。
そして補習が終わると、
Nさんは部活へ行ってしまった。
フテブテくんが一緒に帰ろうぜ、と言ってきた。
フテブテくんの横には女の子がいた。確かフテブテくんの好きな子だったハズ。
「俺達つきあってんだよ」とフテブテくんが言った。
マジでか!
なななんという行動の早さ。
お前に「迷い」という期間はないのか?
そうして2対1で帰ることになった。
フテブテくんの彼女はIさんと言う名で、明るく気さくな女の子だった。
Iさん「いつもムッとしてるから、もっと怖い人かと思った」
すいません、こういう顔なんです。
Iさんは地元らしく、駅前で別れた。
「俺んち来ない?ギター買ったんだよ」とフテブテくんが言った。
おお、ギター弾いてみたい。
という理由でフテブテくんの家に遊び行くことにした。
駅から歩いてすぐの所に
フテブ邸はあった。
で、でかッ!
家、でかッ!
えっ、もしかして金持ち?
複雑な思いでフテブテくんの後について室内を歩いていると、左横に扉が空いてる部屋があったので、チラッと中を見てしまった。
すると、そこにパンチパーマを掛け、室内なのに茶色いサングラスをして新聞を読んでるデカイおっさんがいた。
ヤクザが現れた!
たたかう
→にげる
じゅもん
どうぐ
逃げる間もなく、そのヤクザが僕の気配に気づいて、こちらに顔を向けた。
「おう、帰ったのか!」
え?何が?
帰ったというか、今すぐ帰りたい気分ですけど。
「あれ?お父さん帰ってたんだ。早いね」とフテブテくん。
何故か普段のフテブテしい態度は微塵もなく、なんか素直な感じ。
いや、まあ、この親父さんなら素直にならざるを得ないが。
フテブテくんが小声で耳打ちした。「うちの親父厳しいから、ちゃんと挨拶してくれ」
そんなの聞いてない。
くそう、失敗したら海に沈むのか。
僕はどこで聞いたんだが、どこで覚えたんだかよく分からない丁寧語を駆使して挨拶した。
「いやいや、こちらこそ息子がお世話になってます。どうですか、息子は人様に迷惑かけてないかね?」
少し。
「こいつはあまり物を考えずに行動するところがあってね」
だいぶ。
「それで中学の時はだいぶ辛い思いをしたようです」
イジメの話か。
知ってたのか。
「お父さん、もういいでしょ!恥ずかしいよ」とフテブテくんが慌てて制止する。
恥ずかしいのは、お前の言葉使いだ。
「そうかそうか、寿司でも食いに行くか!」
なんで!?
今の会話で寿司にたどり着く要素あったか?