遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

芝山細工花鳥図飾額

2023年01月20日 | 漆器・木製品

先に木に陶器を埋め込んで滝百合を表した笠翁細工の盆を紹介しました。

似たような品がもう一つありました。

縦 59.2㎝、横 38.5㎝、厚(木) 1.5㎝、厚(脚込) 3.4㎝。明治。

芝山細工とよばれる品です。

貝や骨の象嵌で花鳥図がレリーフ状に表されています。

江戸後期になると、繊細かつ大胆な象嵌細工の工芸品が流行し始めました。そして、幕末から明治にかけて、海外で、このような工芸品の人気が沸騰し、数多くの製品が輸出されました。

その中でも、芝山細工は特に海外で評判となりました。今回の品は、そのうちの一つです。

桜の幹と花、そして鳥(たぶん、尾長)が繊細に象嵌されています。

特に、鳥の表現が見事です。

鳥の羽の虹色に光る部分は、夜光貝(or 鮑)が使われています。様々に彫られた貝を寄せ集めて立体感を出す技法は、寄せ貝と呼ばれています。顔、脚、尾羽はおそらく獣骨でできていて、非常に細かく彫られています。

桜の幹、枝、葉は獣骨、

花びらには白蝶貝を使っています。

よく見ると、小さな蜂も飛んでいます。素材は、透明感のある貝(白蝶貝?)です。

ところどころ、花びらが抜け落ちています(鳥の右の枝も脱落(^^;)。

そのおかげで、象嵌時の彫りの深さ(1.5-2㎜)がわかります(ケガの功名(^^;)

桜にオナガドリのモチーフや貝寄せ技法などからすると、この品は、芝山細工のうちでも、明治時代、横浜で生産され、輸出された横浜芝山細工と思われます。

この額を横から見ると、

芝山細工を満載した船が横浜港から出航し、広い太平洋を渡っていくかのようです(花びらが抜けた所は沈没船?(^^;)

 

陶胎七宝の棗を置いてみました。

マットな深い青色(勝手に明治ブルーと命名(^^;)に時代の息吹を感じます。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

笠翁細工滝百合図四方盆

2023年01月16日 | 漆器・木製品

今回の品は、変わった盆です。

古い桐箱に入っていました。

箱には、「笠翁埋物盆」とあります。

横 25.6㎝、縦 23.4㎝、高 3.4㎝。江戸後期ー明治。

木の厚さは、0.4㎝、周囲に2.8㎝の縁がついています。

華奢な造りの盆で、軽い(170g)です。

この品の見どころは、盛り上がった百合の花。

漆黒(実際は濃茶)の海に、一輪の百合が浮かんでいるかのようです。

花弁は盛り上がっています。一方、おしべ、めしべは漆絵で描かれ、平たんです。

葉や茎も盛り上がっています。

葉には穴が開いていて、病葉が表されています。

葉を拡大すると、表面にジカンが多数見られます。また、大嵌入が葉脈が彫られた方向に走っています。これは、どうやら焼き物のようですね。磁器ではなく軟陶です。

病葉の穴の付近を拡大すると周囲が融けていて、焼成時にできた穴であることがわかります。が、意図的なものか偶然にできた穴かはわかりません。いずれにしろ、良い味をだしています。

茎の先には、茶色の部分がのぞいています。茎の他の部分にも所々に同じような茶色部が見えます。どうやら、茎は、盆を彫って、別の木を埋め込んであるようです。木象嵌ですね。

この盆は、百合の形に木を彫り、そこへ彩色した陶器の花弁や葉、そして木の茎を埋め込んだ物だったのです。

漆器に、陶片、貝、牙、鉛、堆朱などを象嵌したこのような品は、芭蕉の弟子であった小川破笠(寛文三(1663)年ー 延享四(1747)年)創案による工芸品で、笠翁細工、あるいは、破笠細工と呼ばれています。小川破笠は、俳句だけでなく、絵画、そして、工芸品作りにも才能を発揮したのです。彼は、江戸中期以降、キラ星のように現れたマルチ人間(世にいう奇人変人)の一人だったのですね。

また、彼は、作品に自分の印を象嵌で入れました。工芸品に作者の銘を入れるのは、当時としては非常に珍しく、尾形光琳を思わせます。しかし、印のある品を含め、破笠の作品は非常に少なく、その品が私の所へ来ることなどはあり得ません(^^; 

幕末から明治初期にかけて、日本の工芸品が高く評価されるようになりました。柴田是真や小川破笠は、日本より海外で先に人気が急騰したのです。当然、破笠風の品が国内で多く作られるようになりました。

今回の品は、そのような物の一つと考えるのが順当でしょう(^.^)

【追記】

くりまんじゅうさんから、この花は、土佐の夏を彩るタキユリ(滝百合)ではないか、とのコメントをいただきました。早速ネットで調べてみると、絶滅が危惧されるタキユリにそっくりです。花弁に赤い点がちりばめられた鹿の子ユリから派生し、崖に下向きに咲く珍しい百合とのことです。

鹿の子百合(Wikipediaより)

盆を180度回転させて、上下を逆にするとまさにタキユリ(滝百合)。

私も、最初にこの盆の写真を撮るときは、この向きにしました。自然とそうなりました。この向きの方が、盆全体としてなぜか落ち着きがあるからです。ところが、その後、これでは生えている百合の逆向きではないかと思い、写真を取り直してブログにアップしました。それがなんと、最初の向きが正解だったのですね。ファーストインスピレーションを大切にしなければいけないという教訓をまた得ました。

くりまんじゅうさん、ありがとうございました。

 

 

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆絵萩図長方盆

2023年01月14日 | 漆器・木製品

正月用の品物を出し入れしていた時に、これまでに紹介していない盆がいくつか出てきました。

今回はその一つ、琳派風の漆絵が描かれた盆です。

縦 35.6㎝、横 23.9㎝、厚 0.5㎝。江戸後期ー明治。

透き漆処理した木地に漆絵が描かれた盆です。四方は、幅1㎝、厚さ0.6㎝ほどの朱漆木で縁になっています。

萩と思われる秋草が情緒豊かに描かれています。

朱で、「基壱」とあるのは、琳派の絵師、鈴木基一のことでしょうか。もちろん、本人が描いたとは考えられませんので、基一風の絵を描いた品ということでしょう。

裏側に符丁があります。

どこでどのような人が使っていたか興味深いところです。

秋の夜長、この盆に置いて茶をいただくのも風流かと(^.^)

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鉄筆彫文人図竹製筆筒

2022年12月05日 | 漆器・木製品

先回のブログで、竹製の盆を紹介しました。盆の表には、硬い竹を彫り込んで模様が施されていました。

ん!竹に細密彫り!? 例によって、どこかにあったかはずと、あちこちひっくり返して探し当てたのが今回の品です。

 

長径 5.4㎝、短径 4.1㎝、高 12.1㎝。明治―戦前。

竹製の筆筒です。漢詩と絵が彫られています。

 

文人が、怪石を見ながら文をしたためています。

上部には、小さな字で漢詩が彫られています。

文字の大きさは、横1.5㎜、縦2.0㎜ほどです。

拡大して見ると、鋭く彫られている事がわかります。筆がはねるところまで彫りで表されています。

文人の髪と耳。

髭と肩部。

微細でありながら鋭い彫りを、どうやって硬い竹に施すのでしょうか。

「月交閑人鉄筆」とあります。

このような彫りは、鉄筆彫とよばれ、篆刻用の小刀を用いて、竹や金属に細かな絵や文字を彫り込む技法です。九谷の細字陶磁器は有名ですが、今回の品は書いたのではなく彫ってあるので、極小文字を表すのはさらに難しいと思われます。

月交閑人なる人物の詳細は不明ですが、微細彫刻の技には驚かされます。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

竹製香盆

2022年12月03日 | 漆器・木製品

最近のブログでは、堅い陶磁器に続いて、柔らかい紙物、そして極軟(^^;)の好色本と来ましたので、ここらで少し話を中庸に戻し、木製品の紹介に移ります。

 

22.1cmx28.7㎝、高 2.2㎝、厚 3㎜。明治ー戦前。

竹製と思われる盆です。

蒸気をあてながら開いた竹を平らに成形したのでしょう。盆の周囲は緩く湾曲しています。

表面は比較的滑らか、裏は竹の繊維がごつごつしています。おそらく、竹を開いて圧縮成形し、竹の表面が表側、内が裏側になったのでしょう。

表面には、周囲をグルッと囲んだ中に、水車のような模様があります。

これも、てっきりプレス模様だと思ったのですが、

よく見てみると・・・・

凹部には、竹の繊維が見えません。

これは、プレスではなく、鋭い刃で竹を削ってできた模様ですね。

四角く囲んだ部分も含めれば、かなり手間のかかる作業です。

せっかくですから、香炉を置いてみました。

陶磁器よりも、鉄製の香炉の方が合いますね。

 

 

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする