漆器の菓子箪笥です。
時代は、江戸後期~明治だと思われます。
全体の形は、先回の長崎螺鈿手元箪笥とよく似ていますが、大きさは1回り以上小型です。
このタイプが一番小さい実用箪笥でしょう。
古い菓子箪笥には、ハッとするような洗練されたデザインの物があります。
今回の品は、その一つです。
13.5㎝x13.5㎝x18.5㎝
菓子をとるための箸もついています。
菓子箪笥のルーツについては、「衣装箪笥に倣って、菓子を入れる箪笥ができた」との説明が多くなされていますが、日本で衣装箪笥が一般化したのは明治以降です。衣服はそれまで、長持ちに入れていました。抽斗式の箪笥は、船箪笥、帳場箪笥、印籠箪笥、鍔箪笥など、貴重品や小物を収納するための物だったのです。そして、小型になるに従い、上部に持ち運びのための金具がつくようになりました。先回のブログの長崎螺鈿手元箪笥がその例です。
今回の菓子箪笥は、形態や装飾など、こういった江戸時代の箪笥の一部であることは間違いないでしょう。
菓子箪笥は、今も、茶席で使われることがあり、抽斗から菓子をとる作法も決まっているそうです。但し、当初から茶道具を目的として作られたかどうかは定かではありません。
抽斗は4段です。すべての面に燕の絵が描かれています。
扉は、前面のみ。
拡大してみると、
びっしりと線と点で描かれたのは・・・・
枝垂れ柳の細枝です。
点々は、柳の葉です。
窓と窓の間の細い部分にまで、枝が描かれています。気が遠くなるほどの仕事です。
枝垂れ柳の枝の間を、燕が飛んでいるのです。
上面には、柳の幹が・・・・そこから、四方に枝が伸び、垂れています。
右面
背面
左面
四面とも、同じ形に窓が開いていますが、飛んでいる燕の形は、すべて異なっています。
このような品は、やはり、京都で作られたのでしょうか。
故玩館の展示物には、おどろおどろしい古面や武骨な高札など、お世辞にもカワイイと言われる物はないのですが、この品は例外です。
御婦人方を惹きつけてやまないセンスのよさ、古人の世界はみやびだったのですね。