典型的な古伊万里のそば猪口です。
故玩館で、そば猪口でございます、と言えるのはこれくらい(^^;
しかも、無疵完品5客は、例外中の例外(^^;
2種類の幾何学紋が、ペアーで3つ、ぐるっと回っています。
径 7.0㎝、底径 4.7㎝、高 5.9㎝。江戸中後期。
少々小ぶりで、薄作り。底も全体に釉掛け。
てらいのない造りです。たしかに、標準的なそば猪口と言えるかも知れません。
伊万里のそば猪口には、ほとんど興味がなかったのですが、まあ話しの種に1組おいておいてもいいか、と求めました・・・・というのは表向き、
実は値段が安かったのです(^^;
古い着物を主とする女主人の店で、確か8K。伊万里物が値崩れし始めた頃とはいえ、かなりお値打ちでした。
もう一度、この猪口を眺めてみます。
いかにもありふれた幾何学紋です。
でも、考えてみれば、こういう模様も、伊万里の陶工たちがあみ出したものであることは間違いありません。現代にも通用するセンスのこんな模様をどうやって??
素朴な疑問です。
手元の骨董本をひっくり返しても、そんなことを書いているものなどあるはずがありません。
ところが、一度も開いていなかったそば猪口の本の中に、興味深い記述をみつけました。
料治熊太『そば猪口』河出書房新社、1993年
まだ誰も注目していなかった頃に、庶民の雑器や民芸品を蒐集した古コレクターです。
この本では、膨大な量のそば猪口を整理し、様々な角度から光を当てています。
その一つが幾何学紋です。彼によれば、幾何学紋を中心とした図案の多くは、「寒暖」を象徴しているのだそうです。
たとえば、氷裂紋は「寒」、花紋は「暖」です。そして、斜線つぶしは、氷裂紋が簡略されたデザイン、四ツ割花菱紋は四弁花をもとにしたデザインと考えられ、それぞれ、「寒」と「暖」を表しているというのです。
この説に従えば、私のそば猪口は、斜線つぶし紋と四ツ割花菱紋が交互に配置され、まさに、「寒暖」を表しています。
また、斜線つぶし紋を小さく切り取ったような丸紋が点々と4個描かれています。これを花の形とみなせば、斜線つぶしの「寒」と花の「暖」が同居して、「寒暖」を表すとみなせます。
このような考えは、荒唐無稽な妄想にすぎない、と一刀両断されそうです。
しかし、「寒暖」を「陰陽」と置き換えてみたらどうでしょうか。
江戸時代には、安倍晴明以来の陰陽道の精神があちこちにいきていました。しかも、「陰陽」は、物事のバランスをとるのにきわめて有効です。
これを機会に、月なみな幾何学デザインの器を、もう一度見直してみることにします(^.^)