遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

源氏物語『早蕨』四方盆と源氏絵「早蕨」

2021年07月25日 | 漆器・木製品

『源氏物語』第48帖「早蕨」の和歌を刻んだ輪島塗沈金四方盆です。

21.6 x 21.5 ㎝、高 2.2㎝。明治ー戦前。

和歌と蕨が入った籠が沈金技法で描かれています。

      みねの
            さわらひ

  このはるハ
       たれ
          にか
            みせん
かたみに       なき人の
  つめる

「この春は たれにか見せむ 亡き人の かたみに摘める 峰の早蕨 」

 

『源氏物語』第48帖「早蕨」は、源氏の子、薫、源氏の外孫、匂宮と宇治八の宮の娘、中君の間の微妙な関係のお話しです。この和歌は、48帖の冒頭の部分、中君の父の師、阿闍梨からの早蕨に添えられた和歌を巡る部分です。
時は早春。父八宮と姉大君の両方(母は幼少時に死亡)を亡くした中君のもとへ、阿闍梨から例年通り、蕨と土筆が送られてきました。傷心の中君を慰めようとの心遣いです。
添えられた歌は、
「君にとて あまたの春を つみしかば 常を忘れぬ 初蕨なり」
(八宮の君のためにと、年毎の春に摘んできました。今年も例年通りの初蕨です)
この歌に対する中君の返歌が、今回の盆に刻まれた和歌です。
 「この春は たれにか見せむ 亡き人の かたみに摘める 峰の早蕨 」
(この春は、誰に見せましょうか。亡き人の形見に摘んだ峰の早蕨を)

 

 この場面を描いたのが次の源氏絵です。

源氏絵「早蕨」:22.0 x 25.7 ㎝。江戸中期。

 

中君、脇に女房が座っています。その前には、蕨の入った籠が置かれています。
中君は、文を読んでいます。籠に入っていた蕨、土筆に添えられた阿闍梨からの手紙です。慰みの言葉とともに、「君にとて」の歌が 添えられていました。中君は、阿闍梨に返事を書きます。この時に添えられた歌が、「この春は たれにか見せむ 亡き人の かたみに摘める 峰の早蕨 」です。

このように、静かな宇治の里で傷ついた心を癒していた中君ですが、都へ出て匂宮と結婚します。そして、匂宮の後見人、薫と・・・・・例によっての展開となるわけです(^^;

第48帖「早蕨」の冒頭部は、そんなどろどろとした物語を予感させない静かな展開です(^.^)

 

コメント (3)
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