面白古文書『吾妻美屋稀』も15回目となりました。今回は、「しんはん 生類せり合問答見立て 初編」です。「しんはん 生類せり合問答見立て」は、この後、二編、三編と続きます。
生き物をネタにした競り合い問答が続きます。これまでの問答とは異なり、横に対となっていますので、ブログではそのまま横書きで表します。
四つに分けて載せます。
しんはん 生類せり合問答見立て 初編
・いなにうすあれども粉をバ引もせず(イナに臼あれども粉をば引きもせず) ・・・イナ(ボラ)の胃は、臼、そろばん玉などと呼ばれ、食される。
・すきくわがあれども鯛ハ土ほれず(鋤鍬があれども鯛は土掘れず) 【鋤鍬】鯛の頭骨
・目八ッのうなぎハ見るも四人前・・・八ツ目ウナギ
・あるく事五十人前むかでなり(歩く事五十人前ムカデなり)
・まな板にのせる鯉ハさむらいよ(まな板にのせる鯉は士よ)・・・まな板にのった鯉は暴れず、武士のように最期が潔いとされた。
・白鷺ハ五位のくらゐのおくげさま(白鷺は五位の位のお公家様)・・・官位の五位とゴイサギをかけた。
・井の内の鮒ハ世間をみずにすむ(井の内の鮒は世間を見ずにすむ) 【井の鮒】世間知らず
・井の元のかハづ大海しらずなり(井の元の蛙は大海知らずなり)
・蜂の巣ハはいたの妙とこヽろえよ(蜂の巣は歯痛の妙と心得よ) ・・歯痛には、蜂の巣を粉状にしてごま油にひたし、それを噛み締めた。
・赤がいるかんのくすりの極最上(赤蛙癇の薬の極最上)・・・ 赤蛙を焼いて、子供の癇の薬とした。
・四ッ脚をもみぢ鳥とハなぜいふぞ(四つ脚を、紅葉鳥とはなぜ言ふぞ) 【紅葉鳥】鹿
・知らざるや猿のかへ名ハよぶこどり(知らざるや猿の替名は呼子鳥) 【呼子鳥】猿。鳴き声が人を呼ぶように聞こえる。
・ほね斗くらふている犬のかひしよなし(骨ばかり喰らうている犬の甲斐性無し)
・鰹かけめしくふ猫ハおごりもの(鰹掛け飯食う猫は奢り者)
・雁がさと人がいやがる名をつけし(雁傘と人が厭がる名を付けし) 【雁傘】湿疹、痒疹。
・なまづとハからだきたなきかこだらけ(なまずとは体汚き鹿子だらけ)
【なまず】 癜風(デンプウ)のこと。癜風菌により、米粒から豆ほどの斑点が多く出る皮膚病。 【鹿子】鹿の子模様
・くものすハ灸のふたにはりてよい(蜘蛛の巣は灸の蓋に貼りて良い)・・・灸のあとには膏薬などを塗った紙を貼った。
・ほうそうに柳の虫のきヽめしれ(疱瘡に柳の虫の効目知れ) ・・・柳の虫は、痘の毒を肌の外へ出すとされていた。
・龍車でもあとへ引した蟷螂よ
【龍車】天子の車 【蟷螂の斧】 カマキリが前脚をあげて龍車にたちむかうが如く、 弱者が、自分の力をかえりみないで、強者に立ち向かうこと。無謀な事のたとえ、その逆に、大敵に立ち向かう気概をたたえる場合も。
・鳳凰ハとりの中でも王さまよ(鳳凰は鳥の中でも王様よ)
・手伝ハせねどつばめハ土はこぶ(手伝いはせねどツバメは土運ぶ)
・山雀ハ人とおなじう芸をする(山雀は人と同じう芸をする)・・山雀(ヤマガラ)を飼い慣らし、いろんな芸を仕込み見世物とした。
・いしかけの亀ハつんぼがあわれ也(石垣の亀はツンボが哀れなり)
・鳥目とてくれたら盲どうぜんよ(鳥目とて暮れたら盲同然よ)
・ものごとにおどろく馬のおく病もの(物事に驚く馬の臆病者)
・大きうて牛ハいつでもよだれくり(大きうて牛はいつでも涎繰)【涎繰】涎をたらすこと
・一命のおハるもしらぬ火とりむし(一命の終わるも知らぬ火取虫)【火取虫】夏の夜、灯火に集まってくる蛾などの虫。
・生きながらぢごくへおつるあれ鼠(生きながら地獄へ落つる荒れ鼠)・・・「比叡の山 経を喰ひ裂く 荒れ鼠 地獄落しも 恐れざりけり」(狂歌)
・はぢをしれあほう烏と人がよぶ(恥を知れ阿呆烏と人が呼ぶ)【阿呆烏】カラスを卑しめていう語。 愚か者。
・ぶさいくな魚とへハふぐの横とびよ(不細工な魚問へば河豚の横飛びよ) 【河豚の横飛び】ふくれた顔、腹の出ばった姿などをあざけていう語。
・鶯のうたハさだめて梅の題
・蛙がよむ歌ハやなぎの題ならん(蛙が詠む歌は柳の題ならん)
・千疋の馬のくるうも一疋から(千疋の馬の狂うも一疋から)・・ 「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」、群集心理を表す諺。
・千丈のつヽミくだけるありの穴(千丈の堤砕ける蟻の穴)
・花見すて帰る雁がね北をさし(花見捨て帰る雁金北をさし)
・磁石にもあらねど河豚の北をむく・・・ キタマクラとは死亡した人を北向きに寝かせることから、猛毒のフグの別名。
・すくな世を横にゆくのハすかぬ蟹(直くな世を横に行くのは好かぬ蟹)
・不孝ものおやをくらふたふくろ鳥(不孝者、親を喰らうたフクロ鳥)・・ フクロウは成長した雛が母鳥を食べるという言い伝えがあり、転じて「親不孝者」の象徴とされている。
・公治長すゞめの聲をききわける
【公冶長】孔子の門人で、女婿。鳥の語を理解したという。
・晴明ハからすのこへをさとるなり(晴明は、烏の声を悟るなり)・・ 安部晴明は、烏(八咫烏)の鳴き声で物事を占なったと言う。