ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第208回国会衆議院議員提出法律案第59号

2022年08月04日 22時00分00秒 | 国際・政治

 第209回国会は、2022年8月3日に召集されたと思っていたら、同月5日まで、僅か3日間の会期です。目下の情勢を考えるならば、これでよいのかという気もしますが、議案を見ると、内閣提出法律案および参議院議員提出法律案は一つもなく、衆議院議員提出法律案、承諾および決算については第209回国会において新たに提出されたものがありません。一件の決議のみ、第209回国会に提出されています。

 さて、第208回国会衆議院議員提出法律案第59号「消費税の減税そのたの税制の見直しに関する法律案」が第209回国会にも提出されています。おそらく、可決・成立することはないでしょうが、取り上げてみます。

 第1条は「趣旨」という見出しの下に「この法律は、現下の物価の高騰による国民生活及び国民経済への悪影響を緩和するとともに、税負担の公平の確保、経済的格差の是正、経済の活性化等を図る観点から、消費税の減税その他の税制の見直しについて定めるものとする」となっています。

 第2条の見出しは「消費税の減税等」となっています。インボイス方式の導入を見ていると、私がこのブログで何度か記しているように、つくづく、日本人には消費税に関する能力がない(少なくとも、乏しい)と思うのですが、とりあえずは減税ということで、次のとおりとなっています。

 第1項:「令和五年四月一日以後の消費税率(地方消費税率を含む。)については、当分の間、軽減税率を含めて百分の五と一律にする特例を設けるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を速やかに講ずるものとする。」

 第2項:「消費税の仕入税額控除に関する適格請求書等保存方式に係る制度は廃止するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を速やかに講ずるものとする。」

 第⒊項:「政府は、前二項の措置を講ずるに当たっては、地方公共団体の財政に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。」

 税率の引き下げは、或る意味で妥当な方向性かもしれません。ただ、第1項で「当分の間、軽減税率を含めて百分の五と一律にする特例を設ける」とする点には疑問があります。軽減税率を廃止して一本化すべきでしょう。また、第2項のインボイス方式(適格請求書等保存方式)を廃止するという内容に対しては、これでますます日本の税制が世界から取り残されるという声が聞かれることでしょう。ちなみに、アメリカ合衆国には連邦レヴェルでの消費税がありません。

 続いて第3条です。「個人所得課税の累進性の強化」という見出しの下に「個人所得課税については、最高税率の引上げ等により累進性を強化するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」となっています。方向性は妥当ですが、分離課税となっているものについての見直しも必要でしょう(その一部は第5条の内容でもあります)。

 次に第4条です。「法人課税に関する措置」となっています。第1項は「法人課税については、税制全体の見直しにより、所得の高い法人に対し、その所得に見合う税負担を求めるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」、第2項は「法人税に係る交際費等の損金不算入制度については、損金に算入することができる額を引き上げるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする」となっています。

 法人税率は引き下げられてきていますが、内部留保が増えるばかりで日本企業の体力を増強したものと評価することは到底できず、税制と日本企業の競争力とは無関係であることが実証されつつあると思われるのですが、いかがでしょうか。法律案は、妥当な方向性を示していると評価してもよいでしょうが具体性に乏しく、求められる内容の実現可能性は高くないものと思われます。

 そして第5条です。「金融所得課税に関する検討」という見出しの下に「政府は、金融所得課税を総合課税に移行することについて検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする」となっています。ここは多少なりとも具体的な方向性を示すべきでしょう。

 総じて、税制に関する議員提出法律案のほとんどは、政府に何らかの措置を求めるものでしかなく、税制改正基本法の断片という程度の性格をもっています。これでは多くの納税義務者、とくに個人事業者および法人の理解なり納得なり支援なりを得ることができないでしょう。


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