ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

電子自治体と行政法体系―導入部的・試論的な考察―

2024年09月30日 00時00分00秒 | 川崎高津公法研究室(ホームページ)掲載記事

 1.行政手続の電子化の意味

 政府が進めている構想の重要な一環として、電子政府の構築をあげることができる。また、これに伴う形で、電子自治体への取り組みも進められているところである。既に多くの論考において示されているように、電子自治体により、様々な手続が簡略化および迅速化し、ワンストップ・サービスあるいはノンストップ・サービスが可能になるなど、行政スタイルを一新する可能性ないし期待が語られている。

 しかし、これまで、電子自治体については、技術的な側面から、あるいは行政改革の視点などからトピックとして取り上げられることは多いものの、法的な、とくに行政法学的な視点から検討を試みた研究は、管見の限りではほとんど存在しない(電子政府についても同様である)。一方、電子政府・電子自治体の実現に向けての法整備は着々と進んでいる。このとき、電子自治体は、行政法理論といかなる関係に立つのであろうか。

 まず、情報伝達手段が電子化されたとしても、意思の伝達のあり方などの根本的な要素がすべて変更される訳ではない、ということを念頭に置かなければならない。例えば、電子商取引が活発化しているからといって、民法に定められる法律行為のあり方が完全に変わることはない。意思表示の方法が変わるのである。勿論、従来の法律では口頭あるいは書面しか想定されていないから、電子的手段による表示方法については、新たに規定を置かなければならない〔既に、「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(証券取引法、保険業法、割賦販売法などの改正に関わる)などが存在する。また、商業登記法も改正され、電子公証制度が創設されている)。

 行政手続についても、同様のことが言える。例えば、ここで申請を考える。従来は紙(書面)による申請が通例であった。これが電子的な手段による申請に置き換えられる。たしかに、見た目は大きい変化かもしれない。しかし、行政手続(あるいは、一連の過程)としては、根本的に同じ構造を保っている。そのため、行政手続法・行政手続条例などにおいて定義される申請、届出、処分などの用語に変化はないし、その必要もない。

 但し、これまでの法制度では、電子申請などに十分な対応をとることが出来ない。現在の行政手続法・行政手続条例など、行政手続に関連する法規は、そもそも、行政手続、とくに処分について必ずしも書面によることを求めない場合もある(行政手続法第8条などを参照)。また、要式行為である場合は、書面主義である。この場合の書面は紙を指すのであって、電子的伝送手段は想定されていない。

 そこで、法令による一定の修正などが必要となる。従来のままでは、オンラインによる行政手続を実現することができないからである。また、電子申請などを実現するためには、当然のことながら、基盤整備が必要であり、そのための法令の整備をも要する。

 

2.現在進められている法整備の体系的理解(試論)

 現在、政府は、電子政府および電子自治体の構築を進めるための法整備を進めている。これは、まだ完了した訳ではないが、現段階において、電子政府・電子自治体を構成する(すべき)法体系について、若干ではあるが私見を述べる。なお、紙数の関係もあるので、本格的な検討は機会を改めて行うこととしたい。

 まず、電子申請に着目した場合、第1段階として、基盤整備の段階における法令が存在する。その例として、住民基本台帳ネットワークの根拠となる住民基本台帳法(改正後のもの)をあげることができる。また、電子署名法は、電子自治体に限られたものではないが、基盤整備の段階を規律する法律としてあげることができよう。

 次に、第2段階として、行政手続法を根幹としつつも、オンラインによる行政手続(電子申請など)を実現するために、同法に修正を加える法律が必要となる。本稿執筆段階においてはまだ法律として成立していないが、行政手続法に修正を施すべき法律として「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」案が、今年の6月、国会に提出されている。この法律(案)によれば、「書面等」(第2条第3号)による行政手続について「電子情報処理組織」を用いた場合については、他の法律の文言に関わりなく「書面等により行われたものとみな」す(第3条ないし第6条)ことにより、申請、処分の通知などのオンライン化が図られることとなる。

 立法技術的には、行政手続法自体に同様の条文を追加することも可能であったと考えられる(1)。しかし、日本において個別分野の法律の存在を念頭に置いた場合、行政手続法の適用を除外する規定が多く、しかも「第○章の規定」というように包括的な除外規定も少なくないことからすれば、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」案のような特別法を置くほうが容易であろう。各都道府県および各市町村の行政手続条例も、基本的には行政手続法と同様の構造を持っている。このため、今後、電子自治体の整備のための条例を整備する際にも、同様の条例を制定することになると思われる。

 上記の法律(案)を受けて各分野の法律に修正(変更)を加えるべきものとして「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」案も同時に提出されている。これにより、先行法令との調整が図られることになる。また、71の法律が改正されることになり、主務省令、手数料の納付方法、手続の簡素化などに関する規定が整備されることとなる。地方自治体についても、同種の条例を制定し、整備する必要が生じる。

 そして、第3段階として、電子申請を発端とする行政手続を円滑にするために必要な法令が必要となる。主なものとして、やはり今年の6月に国会に提出された「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」案(本稿執筆段階)があげられる。これを受けて、印鑑条例などの改正が必要となるであろう。

 さらに、第4段階である。これは、電子申請に限られない、関連法としての位置づけである。個人情報保護法・条例、情報公開法・条例などの整備が求められる。この段階で、地方自治体の行政スタイルが問われることとなろう。これとの関連において、現在の電子政府・電子自治体への取り組みは、主に行政手続の電子化が中心となっているのであるが、電子自治体を推進するには、行政情報の公開、行政情報の利用促進を欠かすことはできない。そうでなければ、電子自治体を構築しても低い利用率に留まるという結末に陥りかねない。幾つかの地方自治体のホームページ設けられている電子会議室が、住民の意見、さらにニーズを知るためにも有用であろう(2)

 

3.電子申請の一般的課題―若干の例について―

 電子自治体を構築し、行政手続を電子化する場合、いくつかの一般的な課題がある。本稿では、若干のものを取り上げ、指摘しておきたい(法的問題に限られない)。

 (1)申請の書式

 あまり注意されていないことであるが、電子申請が可能になると言っても、一般国民・住民から度々主張される「書式」のわかりにくさ、あるいは面倒さが電子申請にも引き継がれるならば、申請の電子化の意義を半減させる。冒頭にも示したように、電子自治体の推進は行政サービスの改善を要請するものである。

 (2)文書の原本性の問題

 行政手続の電子化に伴い、文書管理規程に電子文書に関する規定を置かなければならない。しかし、電子文書は、紙文書に比して原本性を確保する必要性が格段に高い。容易にコピーすることができるうえ、原本性の確認が紙媒体よりも困難になるからである。

 このことを念頭に置いた上で、文書管理規程に盛り込むべき内容は、主なものだけをあげるならば、①電子署名電子認証(作成者による電子署名など)、②改変履歴の記録など、改竄の防止策、アクセスの制限、アクセスの記録(機密性の確保)、④記録媒体(文書の消失などを防ぐためである)、そして⑤保存管理期間(記録媒体とも関連する)、ということになるであろう。

 (3)業務改善(市町村合併との関係において)

 電子自治体構想を進めるとしても、現在の市町村の規模には大きな格差が存在する。そもそも、規模によっては電子自治体の構築ないし運営が困難だという市町村も存在するであろう。この点を念頭においてであろうか、総務省は「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」において、複数の自治体が業務を共同化し、その上でアウトソーシングを図ることにより、コストの削減と民活の活用を実現するとしている。このことにより、①住民サービスの向上、②地方自治体の業務改革、③雇用の創出による地域経済の活性化、この3点が実現するという。果たして確実にそのようになるのであろうか。

 この点については、市町村合併の動向を注視しなければならない。合併が進み、市町村の広域化によって役所(役場)が遠くなって行政サービスが不便になるという懸念が、少なからぬ国民の間に存在する(3)。これに対し、電子自治体の構築により、住民へのサービスをインターネットに提供することによって利便性を維持ないし拡大させる可能性も存在する。そもそも、財政面などの問題もあり、現在の規模では電子自治体の構築ないし運営が難しいという場合もある。サービス低下の懸念を払拭するためにも、合併協議の際には、電子自治体の構築を重要な課題としなければならない。

 この他、電子署名をはじめ、行政手続の電子化などによって生じうる法的問題には様々なものがありうるのであるが、紙数の関係もあり、機会を改めて論じることとしたい。

 (1)  租税行政手続に関してではあるが、ドイツにおける法令整備などについて、拙稿「ドイツの電子申告制度における現状と課題」(税務弘報2001年1月号所収)も参照。

 (2)  拙稿「インターネットによる広報を考える―地方自治の視点から―」(広報2002年2月号 所収)も参照。

 (3)  拙稿「地方分権下の市町村合併」〔大分大学教育福祉科学部研究紀要24巻1号(2002年) 所収〕も参照。

 

 (付記)

 この論文は、2002年9月30日、大分県市町村会館にて行われた「第37回ハイパーフォーラム」(「市町村電子自治体研修」)で、私が行った報告「電子自治体と法について」の内容に、若干の修正を加えたものである。大分県発行(財団法人ハイパーネットワーク社会研究所編集)の雑誌「ハイパーフラッシュ」第25号(2002年11月)6~7頁に掲載されている。なお、雑誌掲載時には「第37回ハイパーフォーラム」の際の顔写真が載せられていたが、省略した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京都交通局6500形6507F

2024年09月29日 00時00分00秒 | 写真

西台駅(I24)で、各駅停車日吉行きの東京都交通局6500形6507Fを撮影しました。

 2022年5月14日から営業運転を行っている6500形は、現在、8両編成13本が西台駅の真裏にある志村車両検修場に所属しています。都営三田線はもとより、東急目黒線および東急新横浜線においても運用されています。現在は相鉄新横浜線、相鉄本線および相鉄いずみ野線に直通運転していませんが、そのための準備はなされているとのことです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2002年に公表されたもの  「インターネットによる広報を考える—地方自治の視点から—」

2024年09月28日 00時00分00秒 | 川崎高津公法研究室(ホームページ)掲載記事

 昨今の情報技術の発展により、国、地方を問わず、行政のあり方は多少なりとも変化を余儀なくされている。電子納税申告制度の導入、さらに電子政府の構築により、行政手続の簡易迅速化が図られると考えられている。行政法学の立場からしても、行政手続法などにいかなる変化が生じるのかについて検討が求められており、電子政府などに対応した理論の構築が必要となっている(もちろん、私自身の研究課題でもある)。

 一方、最近では、大学教育において学生の理解度を高めるため、講義の工夫など、改善を求められることが多い。そればかりでなく、大学(およびその教員)には、地域に密着した教育、生涯教育なども求められる。

 これらを実現するための一手段として情報技術の活用が考えられる。私が「大分発法制・行財政研究」というホームページ(HP)を開設したのも、元来、日本国憲法(大分大学の教養科目)や行政法総論の講義ノート(または職員研修の草稿)などを公開するとともに、行政のあり方や人権などについて多くの方からご意見をいただき、議論や考察を深めるためである。開設以来、学生はもちろん、公務員、弁護士など様々な職業の方に利用していただいている。

 

広報の一手段としての地方自治体HPの意義

 

 広報の専門家でない私にとって、インターネットによる広報の課題について検討することは決して容易な作業ではないが、行政法学を専攻し、地方自治などを研究する者の立場から意見を述べてみたい。

 昨今、都道府県はもちろん、ほとんどの自治体がHPを運営している。いまや広報の重要な手段になりつつあることは言うまでもない。しかし、自治体HPを参照すると、その自治体の活動や政策、基本理念などが明確に示されているものから、単なる観光情報などにとどまっているものまで、千差万別である。

 このところ、電子政府構想に対応する形で電子自治体への取組が進められている。電子自治体は、端的に言えば行政手続の電子化による簡易化および迅速化を目指すものであるが、その場合、自治体のHPがいわば窓口となる。あるいは仮想的な役所と考えてもよい。しかもHPは、単なる窓口でもなければ、広報紙の代用品にとどまるものでもない。行政のあり方に関する住民などからの意見を集約する場、政策などに関して行政と住民とが議論をする場、そして住民同士の交流の場ともなりうる。

 このため、電子自治体には、情報公開と住民参加を確保し、いっそうの促進をなすことが求められることになる。もちろん、HPが広報の重要な一手段であることに変わりはない。というより、電子自治体が各地で実現されることで、広報の手段としての意義は高まることになるであろう。

 ここで、自治体HPの意義を述べてみたい。

 広報紙は、一地方自治体の行政活動、政策などに関する情報を、その地域の住民に分かりやすい形で提供するものである。HPも、基本的な役割としては広報紙と変わらない。しかし、広報紙が原則として一自治体の領域内にとどまるものであるのに対し、HPは、その領域にとどまらず、日本全国(さらには全世界)を対象とするものである。

 すなわち、HPを広報の一手段としてとらえた場合、対内的側面と対外的側面とが常に並存するということになる。したがって、HPを自治体の広報の手段として用いるには、両方の側面を高度な次元において調和させる必要性がある。これまで、多くのHPには対外的側面のみを重視する傾向があったと思われるが、対内的側面を軽視し、行政情報の提供に消極的な自治体HPは、内容に乏しく、その結果としてすぐに飽きられることとなろう。また、住民にとって有益な情報が少ないので、広報としての意味がない。広報は行政サービスの一環としてなされるはずであり、他の行政サービスに結びつかないようなものであるとすれば、十分な役割を果しているとは言い難いからである。

 

インターネットによる広報の課題

 

 インターネット網を活用して広報活動を行う場合、目的と対象が重要な問題となる。

 私は、大分県にある財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の共同研究員として電子自治体構想に取り組んでおり、すべてではないが多くの自治体HPを参照している。電子自治体が現実のものになろうとしている現在、HPのレベルは、確かに上がっている。しかし、広報として何を目的とするのか、だれを対象とするのか、必ずしも明確になっていないものがある。特に、行政情報の公開や提供については、十分とはいえない。

 例えば、住民が生活する上で必要な情報が掲載されていないという例もある。救急病院の所在地や電話番号、ごみの収集日や捨て方などは、掲載してほしい情報の一つであると思われるが、こうした基本的なものさえ掲載されていないような例が多い。また、定住促進条例のあらましを掲載している自治体もいくつか散見されるが、実際に移住しようと考える人が参照しても、必要かつ十分な情報が提供されているとは言い難いように思われる。

 さらに、広報と深い関係を持つものとして、情報公開条例に関する情報がある。HPを参照しても、制度の存在自体は理解できるが、具体的な手続きや非公開(不開示)情報の類型など、肝心なことが、住民から見て分かりやすいとは思えないものが多い。そもそも情報公開条例が掲載されていない自治体もある。これでは制度自体の意味が半減するし、制度に対する自治体の態度、さらには行政の基本的姿勢に簸問を抱かせるようなものである。

 自治体によっては、教育や福祉の面などで注目に値する制度をつくり、運用しているところもある。しかし、こうした制度がその自治体のHPに紹介されていない場合が多い。マスコミによって全国的に紹介される機会が多いとはいえず、地域の新開や放送、あるいは専門誌で紹介されるにすぎないこともあるため、行政実務担当者や行政法学者などを除けば、地域住民にすら十分に知られないということも起こりうる。これでは、せっかくの新しい制度が住民に利用されない、あるいは評価されないという結果が生じても当然であろう。

 逆に、新条例を制定する際に、条例案の段階からHPで公開し、その自治体の住民、さらには全国から意見を聴取したという例もある。これは、HPによる広報の対内的側面と対外的側面とを上手く両立させたものである。また、首長の交際費をHPで公開し、交際費に対する住民の理解を得ようとする努力をしているところもある。ある自治体がいかなる政策に取り組んでいるのか、可能な限り積極的に公開する必要があるのではなかろうか。

 いくつかの自治体HPでは、独自の政策が積極的に公開されている。直接的にはその自治体の住民に向けられた情報である。例えば、バランスシートの公開。これは、住民に対して地方自治体自身の経営努力を積極的に示すものである。このほか、環境対策、入札情報、都市計画を公開する自治体もあり、こういうところほど、外部からの利用者も多く、自治体自身の活性化にもつながる可能性を高めている。

 行政改革などに率先して取り組み、情報公開にも積極的な自治体のHPは、そうでないところのHPよりも全体的に魅力がある。行政に関する情報が多く、国民・住民にとって使いやすいHPほど、利用者が多い。情報化は、必然的に情報公開を要請する。秘密主義は通用しない。逆に、情報量が少ないページは、利用者も減る。HPの利用者数が多いから直ちに観光など経済面においてプラスの影響が現れる、というわけではないが、長期的視点に立てば、その自治体の評価を高めることになるであろう。市町村合併の関係もあり、一概に言えないかもしれないが、地方分権改革においては、各自治体間における行政サービスの競争による住民生活の向上が予定されている。この点も念頭に置くべきである。

 もう一つの課題は、更新の頻度である(どの程度が適切かは、一概に言うことができない)。広報紙と異なり、HPには随時新しい情報を盛り込むことが可能である。そのため、住民にとって重要な情報を速く伝えることができるし、それが行政能力の一つとしてとらえられることにもなる。

 また、広報と表裏一体の関係にある、住民などからの質問や意見などへの対応について述べておきたい。

 自治体HPを利用する人の側から指摘されるのが、対応の遅さである(私自身、半年も待たされたことがある)。住民は、迅速かつ的確な回答を求めている。的確さが重要であることは当然であるが、電子情報化により、迅速さの価値がこれまで以上に高まる。遅い回答、さらに無回答は、対応の誠実さなどが窺われる原因にもなるし、さらには利用者が減る可能性が高い。結局、HP全体の評価や利用率を下げることになり、広報としての意義を損なわせる。

 

インターネットによる広報の可能性

 

 今後、電子自治体の実現との関係により、インターネットによる広報は、行政サービスの拡充(量のみならず、質が重要である)と同一の方向にあるものと思われる。もちろん、広報担当者などの技術力や関心度に依存する部分もある。

 既にいくつかの自治体において、インターネットを活用した先進的な試みがなされている。紙数の関係もあるので詳細な検討は避けるが、既に述べた対内的側面と対外的側面の高度なバランスを追求するための手段として、若干のものを挙げたい。 

まず、メールマガジン(メール配信サービス)である。各家庭に配布される広報紙に最も近い電子的手段であり、HPの更新状況を示すとともに、広報紙に代わりうる手段としても活用可能である。既にいくつかの自治体が、メルマガまたはメール配信サービスを活用している。もっとも、送信される内容については、まだ不十分なところが多く、課題も多い。しかし、広報の一環、そして情報公開・情報提供の一環として、活用の意義は十分にある。

 次に、電子掲示板(BBS)である。これからの地方自治において、住民自治の側面が強化されなければならないことについては、おそらく異論はあるまい。今後、電子自治体を構築する上で重要なものとして、住民参加の機会の提供がある。これを実現するにも様々な手段がありうるが、電子掲示板は最も有力なものであると考えられる。

 電子掲示板は、住民、その地域の出身者などの交流の場であり、意見表明の場、情報交換の場でもある。また、住民の需要を知る手段としても活用できる。さらに、直接的・主体的な広報活動ではないが、補助的手段として活用することが可能である(例えば、比較的費用のかからない観光向けの宣伝手段として利用できる。もちろん、電子掲示板に特有の課題もあることに注意しなければならない)。

 自治体HPで電子掲示板を設けている例は少ない。しかも、その電子掲示板に行政(役所)側も参加し、事務や政策などについて住民と議論をする、あるいは住民が提言を行うという例は稀である。しかし、パブリック・コメント制度など、応用の可能性は高い。電子掲示板のシステムなどにもよるが、その地方自治体の住民のみならず、幅広く意見を聴取することができるし、特定の政策などについての住民の理解を得やすくなるであろう。日本の行政手続法制度においては、行政による計画策定や行政立法などの手続きに関する規定が存在せず、これらに国民あるいは住民の意見を反映させることも予定されていないが、電子掲示板により、こうした手続きに住民が参加する機会を保障することも可能となる。

 このほか、情報技術の発展などにより、インターネット網を利用する広報には、更なる可能性が生まれるものと思われる。もちろん、技術上、あるいは法制度上の課題も少なくない。しかし、その点を克服した上で、積極的な活用が望まれる。将来的に構築されるべき電子自治体の一部として、いかに広報を通じて積極的な情報公開ないし情報提供を、そして住民参加の促進をなしうるかが、自治体の行政能力の重要な一要素となるであろう。

 

 

 あとがき1:この論文は、社団法人日本広報協会が刊行する月刊誌「広報」の2002年2月号(通巻第597号)40~43頁に、「広報論壇」というコーナーの論考として掲載されたものです。同協会編集部の中城貴之氏に、この場を借りて改めて御礼を申し上げます。

 あとがき2:私が大分大学教育福祉科学部の助教授になったのが2002年4月1日であり、その1か月程前の2002年3月10日に、私のホームページ「川崎高津公法研究室」(当時は「大分発法制・行財政研究」)に掲載しました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地方創生についての興味深い発言

2024年09月27日 00時00分00秒 | 国際・政治

 朝日新聞社のサイトを見ていたら、2024年9月25日10時45分付で「『経済、雇用が地方を救うは神話』 地方創生考える講演会」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASS9S4FGMS9SUZOB001M.html)が掲載されていました。興味深い記事であったので、ここで取り上げておきます。

 9月21日に、山梨県立大学飯田キャンパスで「地方創生フォーラム」が開かれました。そこで、哲学者の内山節氏が「『地方創生』をリセットする」という基調講演を行いました。

 記事に取り上げられており、私が注目したのは「内山さんは『「地方創生」をリセットする』と題した基調講演で『経済発展で雇用が生まれれば、地域は衰退から免れるというのは神話だ。地方でも東京でも、地域は崩壊している』と従来の地方振興策を批判」したという部分です。

 元々、行政法学や租税法学を専攻している私にとっても、地方創生という言葉には意味不明な部分が多いと思われるものでした。結局は経済発展につながるとはいえ、地方自治との関係、地方分権との関係が見えにくいからです。その意味において、内山氏の発言は核心を突くものではないかと考えられるのです。

 何かの折に、内山氏の講演の全文を拝読したいものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

改名しました

2024年09月26日 11時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

 本日(2024年9月26日)より、本ブログの名称を「ひろば 研究室別室」から「ひろば 川崎高津公法研究室別室」に改めました。

 今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2001年に公表されたもの 「インターネットを使った地方自治体の広報活動」

2024年09月26日 00時00分00秒 | 川崎高津公法研究室(ホームページ)掲載記事

 現在、多くの自治体が自らのホームページを運用し、情報を発信している。ここで、ホームページは広報の一環(あるいは一手段)として位置づけられるはずである。しかし、多くの市町村(場合によっては都道府県も)のホームページからは、自治体の姿が、あるいは、自治体がいかなる行政活動を展開しているのか、見えてこない。観光協会か旅館のものと見紛うような内容のものが多く、住民に対する広報活動としては不十分にすぎる。大分県内でも、教育や福祉の面などで注目に値する制度を運用する自治体があるのに、こうしたことがホームページに掲載されていない。

 一方、自治体によっては、申請書をダウンロードできるようにするなど、サービスの向上に努めている所もある。しかし、それ以上に、自治体のホームページの評価を左右するのは、行政情報の多さ、そして国民・住民にとっての使い易さであろう。

 また、情報化は、必然的に情報公開を要請する。秘密主義は通用しない。情報量が少ないページでは、利用者も減る。ホームページの利用者数が多いということから、直ちに観光など経済面においてプラスの影響が現れる訳でもないが、長期的視点に立てば、自治体の評価を高めることになるであろう。市町村合併の関係もあり、一概に言えないのであるが、地方分権改革においては、各自治体間における行政サービスの競争による住民生活の向上が予定されている。この点も、念頭に置いてよいであろう。

 東京都は、外形標準課税導入の際、ホームページでかなり詳細な情報を公開した。ここで示された条例案の概要などには批判が寄せられたが、それだけ注目を浴びたのであり、或る意味では良い宣伝になった。また、北海道ニセコ町の場合、逢坂誠二氏(北海道ニセコ町長)のホームページにおいてまちづくり基本条例案が公開されていた。しかも、改訂される度に情報が追加され、意見が寄せられたのである。この他、千葉県市川市のように、市長の交際費をホームページで公開することによって、交際費に対する住民の理解を得ようとする努力をしているところもある。或る自治体がいかなる政策に取り組んでいるのか、可能な限り積極的に公開する必要性があるのではなかろうか。

 また、広報と表裏一体にあるのが、住民などからの質問や意見などへの対応である。利用者の側から指摘されるのが、対応の遅さである。住民が求めるものは、迅速かつ的確な回答である。的確さが重要であることは当然であるが、電子情報化により、迅速さの価値がこれまで以上に高まってくる。自治体によっては、掲示板システムを利用した「質問コーナー」を置いていることもあるが、遅い回答、さらに無回答は、対応の誠実さなどが疑われる原因にもなるし、さらには利用者が減る可能性が高い。結局、ホームページ全体の評価や利用率を下げることになり、広報としての意義を損なわせる。

 さらに、広報活動としては、ホームページのみならず、メールマガジン(メール配信サービス)の活用、そして電子掲示板の活用(これは直接的な広報活動ではない)があげられる。

 とくに、メール配信サービスは、形態的にも広報誌に最も近い。既に、三重県や川崎市がこれを活用している。また、電子掲示板の活用としては、「藤沢市市民電子会議室」が参考となる。これは、電子自治体構想の在るべき姿を示すものとしても重要な意味を持っている。地方自治における住民参加を進展させる意味においても、電子掲示板システムの(さらなる)活用が検討されてもよい。

 

 〔付記1〕この論文は、大分県発行(財団法人ハイパーネットワーク社会研究所編集)の雑誌「ハイパーフラッシュ」第20号(2001年8月)9頁に掲載されたものである。お読みいただければおわかりかもしれないが、この論文は、「インターネット広報」「平成13年度大分県広報広聴研修会」(2001年6月29日、地方職員共済組合別府保養所「つるみ荘」)第2部会「インターネットを使った広報」の草稿〕を大幅に短縮したものであり、論文「インターネットによる広報を考える—地方自治の観点から—」〔社団法人日本広報協会刊行・月刊誌「広報」2002年2月号(通巻第597号)4043頁(「広報論壇」)〕の基になったものでもある。

 〔付記2〕私は、まだ大分大学教育福祉科学部の講師であった2001年4月より、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の共同研究員として、電子自治体研究プロジェクトに参加していました。今回掲載した論文は、共同研究員となって間もない頃に書いたものです。その後、2002年4月1日に大分大学教育福祉科学部助教授、2004年4月1日に大東文化大学法学部の助教授となり、2007年4月1日に教授となりましたが、同研究所の共同研究員であったのは教授昇進の前日までです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2001年に作成した草稿 「インターネット広報」

2024年09月25日 05時00分00秒 | 川崎高津公法研究室(ホームページ)掲載記事

 はじめに:これは、2001年6月29日、地方職員共済組合別府保養所「つるみ荘」において行われた「平成13年度大分県広報広聴研修会」第2部会「インターネットを使った広報」において行った講演の草稿です。時間的余裕がなかったこともあり、途中、メモ程度のままという箇所もあります。

 

 予定項目など

  Ⅰ  はじめに

 Ⅱ  インターネットによる広報の意義

    (1)e-Japan構想との関連

      電子政府・電子自治体構想→電子行政手続(電子申請、電子申告)

    (2)情報公開との関連

      ホームページを使った積極的な情報公開→自治体の外部的評価

    (3)行政改革との関連

    (4)住民参加、他地域住民との交流

      北海道ニセコ町町長・逢坂町長のホームページ:ニセコ町総合計画など

  Ⅲ  何を目的とするのか、誰を対象とするのか

    これまでのホームページ:観光協会のホームページ?(自治体の姿が見えない)

    観光だけの内容では、積極的な評価を受けない?(誰を対象にしているのか)

    自治体の取り組みを積極的に示す必要性

    (例)行政改革、環境対策、入札情報、都市計画

    住民に向けた自治体サービスの広報→利用手続の簡便化など

  Ⅳ  メールマガジン(メール配信サービス)の活用

    例.財務省、川崎市、三重県、臼杵市長のホームページ

    ホームページの更新状況を示すとともに、広報誌に代わり得る手段としても活用可能

    課題:予算、技術

  Ⅴ  電子掲示板の活用

    直接的な広報活動ではないが、補助的手段としての活用

    住民、出身者などとの交流の場、意見表明の場

    住民のニーズを知る手段(電子メールを送るよりも、掲示板への書き込みのほうが楽)

    観光向けの宣伝手段としても活用できる

    パブリック・コメント制度の活用へ(発展段階)

 

Ⅰ  はじめに

  この度、大分県企画文化部広報広聴課の西本泉氏より、当研修会に関する御依頼を受けた。その趣旨として、インターネット網を利用した自治体の広報活動、その一般的潮流や傾向の解説があげられていた。私は、広告プランナーでもなければデザイナーでもない。自らのホームページを運用しているとはいえ、技術的なことについては全くの素人である。単に、行政法学を専攻し、大分大学に勤務して法律学関係の講義を担当するという立場にあるにすぎない。しかし、仕事柄、国の省庁をはじめ、行政関係のホームページを利用する者として、一般人的な観点に立って電子的広報活動に関する意見を述べることはできる。

  また、今年度、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所からのお誘いを受け、共同研究員として、電子自治体構想に関する研究に取り組むこととなった。

  昨今、国の省庁が運営するホームページを参照すると、内容の充実度に驚かされることがある。審議会の議事録、法令などの資料が幅広く公開されるようになっており、政府の政策・取り組みの一端を知ることができるようになっている(しかし、日本は遅れているほうである)。また、経済産業省は、既に電子的行政手続(電子申請)に着手しており、国税庁も、試験段階を経て、ようやく電子納税申告を来年度からスタートさせる。

  それに対し、自治体のホームページを参照すると、自治体の活動、政策、基本理念が明確に示されているものから、単なる観光情報などに終わっているものもあり、千差万別である。しかし、広報という点からすれば、多くの市町村のホームページが住民向けの広報という要素を持ち合わせているとは言えないのが実情である。少なくとも、私が大分県内の市町村のホームページを参照する限り、そのように思われる。あるいは、住民に向けて発信していると思われるページがあったとしても、構造上、参照しにくいという難点を抱えているものもある。

 しかし、後に述べるように、国は、e-Japan戦略を打ち立て、電子政府構想を前面に出している。ここには、「電子商取引」や「教育及び学習の振興並びに人材の育成」などとともに、「行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の促進」があげられている。これには行政改革、さらには構造改革との関連もあるが、行政情報化の先進国であるアメリカ、スウェーデン、シンガポールの例を見ていると、行政サーヴィスに一層の(と記しておく)利便性が求められているからであると言いうる〔IT戦略研究会編『「eジャパン戦略」で日本はこう変わる!』(2001年、オーエス出版社)43頁にも、「行政サービスのIT化は、情報公開、国民や住民の利便性が行政機構の合理化から強く求められているものです」と記されている〕。ホームページなどを利用する自治体の広報活動のあり方を検討する場合、電子政府構想を念頭に置かなければならない。国だけの問題ではないからである。地方自治体についても、電子自治体構想の導入が求められている。これからの広報活動は、電子政府・電子自治体と無関係ではありえない。しかし、多くの自治体のホームページを見る限り、「住民サイドからみると役所のIT化の利便性は感じられません。窓口業務や我々がインターネットを通じて役所の連絡や何らかの申し込みができるかというと、そうした具体的なインターネット活用は行われていません。インターネットの活用で積極的な市長さんが市長宛の電子メールを受け付けているくらいです」という指摘には、同感せざるをえない〔IT戦略研究会編・前掲書44頁〕。勿論、この点については、法律的な整備も必要である。そうであるとは言え、地方分権改革が曲がりなりにも進展している現在、インターネット広報についても、単に法律の整備を待つばかりでなく、積極的な、かつ独自の取り組みが求められると思われる。

  そこで、拙いながらも、インターネットを利用した広報活動について、私なりの意見を述べて参りたい、と考える次第である。

 

Ⅱ インターネットによる広報の意義

  (1)e-Japan構想との関連

  電子政府・電子自治体構想→電子行政手続(電子申請、電子申告)

  (2)情報公開との関連

  ホームページを使った積極的な情報公開→自治体の外部的評価

  (3)行政改革との関連

  (4)住民参加、他地域住民との交流

  北海道ニセコ町町長・逢坂町長のホームページ:ニセコ町総合計画など

 

Ⅲ 何を目的とするのか、誰を対象とするのか

  行政法学を専攻し、地方自治などの研究をする者の立場から見ても、そして一住民の立場からしても、インターネット網を活用する広報活動という場合、目的と対象が重要な問題となる。しかし、先にも述べたように、多くの市町村のホームページ(場合によっては都道府県のものを含む)からは、自治体の姿が見えてこない。もっと記すならば、自治体が誰に対していかなる情報を発信しようとしているのか、見えてこないのである。

  このことと関連して、私は、昨年(2000年)12152139分付で、岐阜県が主宰する「全国地域情報化懇談会」のホームページ〔http://mmcf.softopia.pref.gifu.jp/〕にある「自治体ホームページ品評会」のコーナーに「市町村ホームページの意義は?」という題で投稿した。私の問題意識などを示しておく意味で、以下、抜粋しておく。

  「『自治体ホームページ研究の理論的基礎』と関連するかどうか自信がないのですが、以前から気になっていることを記します。/仕事柄、大分県内市町村のホームページを参照する機会が多いのですが、若干の例外を除いて、判で押したように観光案内しかなく、失望しています。/市町村がホームページを公開しているのですから、やはり、住民向けの情報、統計、市町村政の方向が見えるものを作って欲しいと思っています。人口統計が載っていればましなほうかもしれません。/また、条例を掲載しているホームページが少ないのも考え物です(大分県内で条例のページを設けている市町村はありません)。川崎市、京都市などが条規集ホームページを持っておりますが、せめて情報公開条例くらいは載せて欲しいものです。/やはり、ホームページは市町村の「顔」になるのですから、観光案内だけでなく、市町村の取り組みや姿勢などを積極的に見せるような内容を期待します。」(/は、原文改行箇所)

  上記コーナーは、「ほとんどの地方自治体がホームページを開設する今日、分かりやすい行政情報の提供の手法はどのようなものがあるのか。魅力ある自治体ページを紹介しながら、よりよい情報提供のあり方を検証します」ということを目的にしているが、その後の投稿がないことから、魅力ある自治体のページが僅少である(あるいは、皆無である?)ことを示しているのかもしれない。そうであるとすれば残念なことである。

  とくに過疎地域と言われる市町村にとって、ホームページの内容が観光協会と見紛うようなものとなることは、或る意味においてやむをえないかもしれない。しかし、広報という点から考えるならば、むしろマイナスである。「この自治体には行政能力がない」という偏見を助長する結果に終わる危険性が高くなるからである。実際、大分県内でも、教育や福祉の面などで注目に値する制度を運用する自治体があるのに、こうしたことがホームページに掲載されていない。これでは、住民に利用されない、評価されないという結果が生じても当然であろう。

  それどころか、自治体の住民が生活する上で必要な情報、例えば救急病院の位置、電話番号などが掲載されていないというような例もある。ごみの収集日や捨て方など、掲載して欲しいものの一つであると思われるが、こうしたものも掲載されていないような例が多い。

  東京都は、外形標準課税導入の際、ホームページでかなり詳細な情報を公開した。ここで示された条例案の概要などには批判が寄せられたが、逆にいえばそれだけ注目を浴びたのであり、或る意味では良い宣伝になった。また、北海道ニセコ町の場合、後にも取り上げるが、逢坂誠二氏(北海道ニセコ町長)のホームページにおいて条例案が公開されていた。しかも、改訂される度に情報が追加され、意見が寄せられたのである。この他、千葉県市川市のように、市長の交際費をホームページで公開することによって、交際費に対する住民の理解を得ようとする努力をしているところもある。或る自治体がいかなる政策に取り組んでいるのか、可能な限り積極的に公開する必要性があるのではなかろうか。

  また、定住促進条例のあらましを掲載している自治体もいくつか散見されるが、実際に移住しようと考える者が参照しても、必要かつ十分な情報が提供されているとは言い難いように思われる。もう一つあげるならば、情報公開条例である。ホームページを参照しても、制度の存在自体は理解できるとは言え、具体的にどのような手続をとる必要があるのか、ということなど、肝心なことが、住民から見てわかりやすいとは思えない。そもそも、情報公開条例が掲載されていない場合が多い。これでは情報公開制度自体の意味が半減する。この他の点についても同様である。

 川崎市や京都市などの場合、条規集のページがあり、これを上手く利用することにより、あらゆる行政機関の、少なくとも基礎的な部分を得ることができる。勿論、住民の全員が条規集を使いこなせるとは言いえない。しかし、将来的には電子自治体構想などの役に立つ。

 断っておくが、私は、自治体ホームページで観光情報を一切扱うな、と主張している訳ではない。しかし、このような話は、住民にとってはどうでもよいようなものである。少なくとも、利用者は観光情報だけを仕入れたいがためにホームページを参照しているのではない。要は、ホームページというものが多面的かつ双方向的なものであり、それを活かさない手はない、ということである。住民は、行政の側が思っている以上に進んでいる、と考えておいたほうがよい。そうでないと、手痛い目に遭うかもしれない。

 いくつかの自治体のホームページにおいては、独自の政策が積極的に公開されている。直接的にはその自治体の住民に向けられた情報である。例えば、臼杵市のバランスシートの公開である。細かいことを言うならば、バランスシートの内容に批判があろうが、住民に対して自治体自身の経営努力を積極的に示すものとして、大分県外からも高い評価が与えられている。この他、環境対策、入札情報、都市計画などが公開されているという自治体が存在するが、こういうところほど、外部からの利用者も多く、自治体自身の活性化にもつながっている。

 行政改革に率先して取り組んでいる自治体のホームページは、そうでないホームページよりも全体的な魅力が高い。行政に関する情報が多く、国民・住民にとって使いやすいホームページほど、利用者が多い。情報化は、必然的に情報公開を要請する。秘密主義は通用しない。情報量が少ないページは、利用者も減る。ホームページの利用者数が多いからといって、直ちに観光など経済面においてプラスの影響が現れる訳でもないが、長期的視点に立てば、自治体の評価を高めることになるであろう。市町村合併の関係もあり、一概に言えないのであるが、地方分権改革においては、各自治体間における行政サービスの競争による住民生活の向上が予定されている。この点も、念頭に置いてよいであろう。

 多くの自治体がホームページを開設する場合、広報の一環として、あるいは一手段として位置づけているはずである。そうであるとするならば、インターネットという、基本的には全世界に開放されている空間であるとは言え、まず対象とされるのはその自治体の住民である。この点において、従来の広報誌と変わるところはない。相違があるとすれば、住民だけではなく、その自治体に居住しない者からも絶えず利用なり監視なりがなされるということである。広報は行政サービスの一環としてなされるはずであるから、他の行政サービスにむすびつかないようなものであるとすれば、十分な役割を果しているとは言い難い。

 現在、多くの自治体がホームページを開設している。しかし、これは第一段階にすぎない。とりあえず開設したというだけのことである〔白井均=城野敬子=石井恭子『電子政府』(2000年、東洋経済新報社)259頁も参照〕。例えば、公民館の予約などをホームページから行えるようにする、役所・役場から遠い所に住んでいる住民のために、可能な限り役所・役場に出向かなくても行政手続を行えるようにする。これは電子自治体の目標であるが、いきなりここまで行かなくても、申請書をダウンロードできるようにするなど、住民に向けての自治体サービスの広報が充実する必要があると思われる。

 また、後の問題とも関連するが、広報と表裏一体にあるのが、住民などからの質問や意見などへの対応である。利用者の側から指摘されるのが、対応の遅さである。住民が求めるものは、迅速かつ的確な回答である。的確さが重要であることは当然であるが、電子情報化により、迅速さの価値がこれまで以上に高まってくる。自治体によっては、掲示板システムを利用した「質問コーナー」を置いていることもあるが、遅い回答、さらに無回答は、対応の誠実さなどが疑われる原因にもなるし、さらには利用者が減る可能性が高い〔別府競輪場のホームページにある「質問コーナー」が典型的である。なお、この注は、講演の時には読み上げていない〕。結局、ホームページ全体の評価や利用率を下げることになり、広報としての意義を損なわせる。

 

Ⅳ  メールマガジン(メール配信サービス)の活用

 或る論者によれば、「ゆりかごから墓場までノンストップ・ワンストップのサービス提供」が電子政府・電子自治体の目標の一つである〔詳細は、白井=城野=石井・前掲書257頁を参照〕。これには5段階がある。第一段階は、先に記したホームページの開設である。それから「双方向のコミュニケーションの開始」→「掲載情報量やサービスの質向上」→「ワンストップ・ノンストップ化」→「届け出や申請手続きの受付け」となる。電子政府・電子自治体構想は、この5段階を短期間で達成しようとするものであるが、意外に見落とされやすいのが第二段階の「双方向のコミュニケーションの開始」ではないか、と思われる。しかし、広報という点からすれば、この第二段階こそ、避けて通れないものである。双方向性というところに注目していただきたい。

 広報の手段として、メールマガジン(メーリングリストのシステムを用いることが多い)またはメール配信サービスの活用も考えられる。というより、各家庭に配布される広報誌に最も近い電子的手段は、メールマガジンまたはメール配信サービスである。これらは、ホームページの更新状況を示すとともに、広報誌に代わり得る手段としても活用可能である。勿論、ホームページとの連携が必要である。

 既に、私の知る限り、財務省、川崎市、三重県、臼杵市長のホームページが、メールマガジンまたはメール配信サービスを行っている。財務省の場合は、大臣会見の概要、様々な統計資料などの新たな情報が、ほぼ毎日のように配信される〔メールで送信できる容量には限りがある。また、受信者側にとっても、あまりにバイト数の多いメールは、無駄な時間を必要とするなど、望ましいものではない。そこで、全ての資料をメールで送付するのではなく、多くの場合は追加された情報が掲載されているページのアドレスが記載される。そのアドレスをクリックすることにより、情報を得ることができる〕。

 川崎市の場合は、審議会の情報、入札情報など、かなり多くの内容が配信される(現在は1か月に1回の割合)。三重県の場合は、民間のメールマガジン「まぐまぐ」を利用したものであるが、川崎市と比べれば情報量が少ない。また、臼杵市長のホームページの場合は「週間うすき市長」として、原則として毎週月曜日に配信される。こちらは、「コアラ大分」のシステムを利用しており、トップページそのものが配信される。

 課題は、予算と技術、そして頻度であろう。まず、予算についてであるが、メールマガジンまたはメール配信サービスについては、無料とするのが望ましいであろう。広報の一環、情報公開・情報提供の一環なのであるから、当然である。現に、財務省、川崎市、三重県、臼杵市長のホームページは、いずれも無料である。そのため、自治体側は一定の負担を覚悟しなければならない。もっとも、一定の機材さえあれば、印刷などの手間を省けるので、費用の問題はそれほど大きいものでもないものかもしれない。また、技術については、三重県のように民間のサービスを用いるという手もある。さらに、頻度であるが、ホームページ自体の更新との関係からしても、情報の新鮮さが鍵である。

 

Ⅴ 電子掲示板の活用

 電子掲示板は、住民、出身者などの交流の場であり、意見表明の場、情報交換の場でもある。また、住民のニーズを知る手段としても活用できるであろう。また、自治体の側による直接的・主体的な広報活動ではないが、補助的手段として活用でき、比較的費用のかからない観光向けの宣伝手段としても活用できる。

 多くの自治体ホームページには、意見募集として電子メールのアドレスを記し、電子メールソフトを起動して意見を聴取する方法が採用されている。また、大分県庁、大分市、日田市のように、電子メール送信用のページによるアンケート方式を採用しているところもある。この方法であれば、電子メールソフトを起動する時間などが不要となるために、意見聴取には都合がよい。基本的には電子掲示板と同様のシステムを用いるため、CGIスクリプトなど、設定に問題があるが、単にメールアドレスを記入し、利用者のパソコンでメールソフトを起動させるよりはよいサービスと言いうる(電子メールを送るよりも、掲示板への書き込みのほうが楽だからである)。また、電子メール送信用のページによるアンケート方式は、パブリック・コメント制度の活用にも発展させることができる。

 自治体のホームページで掲示板を設けている例は少ない。大分県内では中津市と日田市、臼杵市長のホームページだけであるし、他の都道府県をみても、岐阜県の全国地域情報化懇談会のような例を除けば、逢坂氏のホームページ、鹿児島県名瀬市などしかない。

 この意味において、神奈川県藤沢市役所が財団法人藤沢市産業振興財団などと共同で運営している「電縁都市ふじさわ」〔http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/〕は、注目に値する。このホームページには、市報「広報ふじさわ」や「図書館蔵書検索」、「診療情報案内」など、市民生活に必要な情報を盛り込んだコンテンツが存在する他、「藤沢市市民電子会議室」が存在し、市役所側が提示した政策などについて市民が意見を述べ、市側と意見交換をしたり、提言を行ったりすることができる。発言するためには登録が必要であるが、藤沢市民に限定されていないので、誰でも参加できる。

 この市民電子会議室が、「藤沢市地域IT基本計画」〔http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/~denshi/〕の策定にも関与していることは、特筆に価する。

 また、もう一つの例として、逢坂誠二氏のホームページをあげておく。ニセコ町は、町長、行政職員、そして住民の協力が協力し合うことにより、画期的とも言いうるまちづくり基本条例を作り上げた。この条例が制定されるまでの間、逢坂氏が自身のホームページにおいて条例案の作成状況などを公開していたことを忘れてはならない。これは、住民、さらには外部の者からも積極的に意見を聴取し、交換していたということを意味する。このホームページには実名投稿を原則とする掲示板が備えられており、観光客による町営施設への苦情なども書き込まれる。また、ニセコ町総合基本計画の策定に関しても専用の掲示板を設け、住民や行政、さらに外部の者と意見交換をしている。このような姿勢が、先進的な行政を推進するのに役立っているとともに、外部からの評価を高くし、例えば観光の促進にも役立っているということを記しておきたい。

 大分県では、やや形を異にするが、日田市のホームページにある掲示板が同様の役割をしている。サテライト日田問題で俄然注目を浴びた同市の掲示板であるが、同市を訪れようと考えている者もこの掲示板を利用している。ここで、市民などが意見を記し、観光客が帰宅後などに印象を書くことによって、他の利用者にも宣伝的な効果をもたらすのである。勿論、行政上の問題を論議するのでもよい。場合によっては、住民でない者からも意見などを聴くことができるであろう。

 また、最近、旧自治省が市町村合併に関して行っていたように、パブリック・コメント制度が注目されている。これについても、電子掲示板システムの応用により、比較的容易に導入しうることを指摘しておきたい。

 但し、掲示板には、幾つかの問題点があることも否定できない。

 最も大きな問題は、いわゆる荒らし行為など、悪質な投稿であろう。これについては、あらかじめ、削除基準などを或る程度明確に示すとともに、管理者による断固たる措置が求められる。しかし、基準の策定には困難が伴う場合がある。投稿に対する削除行為が法的にどのようなものであるのかという点も問題となりえよう。しかし、掲示板利用者にとって、よほどの例外を除けば、悪質な投稿を除外することは、必要である。藤沢市市民電子会議室や全国地域情報化懇談会〔ここの掲示板に書き込まれた内容は、メーリングリストの形態で登録者全員に送付される〕のように、閲覧は自由であるが発言の際には登録をしておくという制度、実名記入を義務づけておき、ハンドルネームの使用については内容の如何に関わらず削除するという制度も一法である。ただ、これらの方式を採用すると投稿数が減少することも否めない。

 また、CGIなどの技術的側面である。この設定については、少々の技術的知識を要する。また、サーバーによってはCGIの使用が制限されている場合もある。掲示板の様式によっては、かえって使いにくく、逆効果ということもある。

 さらに、過去ログの問題もある。サーバーの容量、保存の手間などである。実際、電子掲示板は、一定の投稿数を超えると、古いものから自動的に削除されていくので、掲示板への書き込みの頻度に応じて、絶えず過去ログを保存しなければならない。しかし、これは或る意味でやむをえないことである。

 

 あとがき:これは、2001年7月4日に、私のホームページ「川崎高津公法研究室」(当時は「大分発法制・行財政研究」)に掲載したものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東急5000系5111F

2024年09月24日 00時00分00秒 | 写真

高津駅(DT09)で撮影しました。各駅停車南栗橋行きです(渋谷駅で種別が変わります)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南武線のE233系8500番台 鎌倉車両センター中原支所(旧中原電車区)N36編成

2024年09月22日 00時00分00秒 | 写真

 国鉄時代には数少ない黒字路線の一つでもあり、現在でも混雑率の高いことで知られる南武線の川崎駅から立川駅までの区間では、E233系8000番台が運用されています。しかし、見た目だけではわかりにくいとは言え、1編成だけ、8000番台ではないものがあります。それが、下の写真にある鎌倉車両センター中原支所N36編成です。

 分倍河原駅に、各駅停車立川行きの8500番台が到着するところです。外見は8000番台と同一と言ってもよいかもしれません。私も区別がつかなかったのでした。しかし、番台が違うということは、細かい所に差異があるということです。

 まず、上の写真ではLEDのためにわかりにくくなっていますが、前面の行先表示が異なっています。8500番台では、行先表示の左側に列車番号が表示され、ほぼ中央に種別が、右側に行き先が表示されます。これに対し、8000番台では、列車番号が行先表示の箇所ではなく、下の写真(武蔵新城駅で撮影)でおわかりの通り、正面窓の左側下にあります。

よく見ると連結器の形も異なります。8500番台には電気連結器が備えられているのに対し、8000番台には装備されていません。

 側面を見ると、ドアのそばにボタンが付けられています。これも南武線では8500番台のこの編成のみです。このボタンは半自動ドアのスイッチになっておりますが、南武線では使われておりません。最近ではこのような半自動ドアのスイッチが付けられている電車も増えているようで、私がよく利用する都営三田線で運用される相鉄21000系、東急東横線や東京メトロ副都心線で運用される相鉄20000系にも取り付けられています。

 これに対し、E233系の8000番台には半自動ドアのスイッチが付けられていません。私が知る限りでは京浜東北線用の1000番台、常磐線各駅停車用の2000番台、横浜線用の6000番台にも装備されていません。

 8000番台は、南武線用の新車として投入されました。これに対し、8500番台は、元々、中央本線、青梅線および五日市線のための車両である0番台であり、南武線に残っていた209系の置き換えのために同線に移ってきた車両です。勿論、南武線で運用されるにあたって改造を受けています。

 ここで、1編成しかない8500番台がどのような車両によって構成されているのか、編成図(?)を示しておきましょう。左側が川崎方面で、右側が立川方面です。

 クハE233-8570(1号車)・モハE233-8570(2号車)・モハE232-8570(3号車)・モハE233-8770(4号車)・モハE232-8770(5号車)・クハE232-8528(6号車)

 6号車のみ車両番号が8528となっており、8000番台と異なって編成において番号が揃っていないことがわかります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京地下鉄株式会社(東京メトロ) 10月23日に上場する

2024年09月21日 06時00分00秒 | 社会・経済

 朝日新聞社のサイトに、2024年9月20日19時4分付で「東京メトロ、来月23日上場へ 時価総額6400億円規模」(https://www.asahi.com/articles/ASS9N35PGS9NULFA01PM.html?iref=comtop_Business_04)という記事が掲載されていました。

 この話はかなり前から気になっていたので、どうなるのかと思って見ていました。何せ、帝都高速度交通営団から東京メトロに変わったことにより、それまでの東京急行電鉄を抜いて資本金、輸送人員数などがトップという大手私鉄になったのですから。

 東京メトロ(正式には東京地下鉄株式会社です)は、東京証券取引所に対し、プライム市場への上場を申請していました。東京証券取引所が承認したのが9月20日であったということです。その上で、上場予定日が10月23日になるとのことです。

 東京メトロの株式上場は予定路線でした。東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)附則第2条は「国及び附則第11条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成13年法律第58号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めていますし、2021年には東京地下鉄株式会社法附則第11条によって帝都高速度交通営団から国および東京都に無償譲渡された東京メトロの株の一部について売却の準備をすることが国と東京都との間で合意されていたからです。

 現在、東京メトロの発行済み株式の保有割合は、国が53.4%、東京都が46.6%となっています。株式上場によって国および東京都が株式を売却することにより、保有割合は国が26.7%、東京都が23.3%になるとのことです(国および東京都が保有する株式が全て売却される訳ではないので、東京地下鉄株式会社法が廃止されるのはまだ先のことでしょう)。また、売却による収入のうち、国の分については「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下、記事に合わせて復興財源確保法と記します)第72条第3項により、東日本大震災に関連する償還費用に充てられることとなります(上記記事には「国の売却分は東日本大震災の復興財源に充てられる」と書かれていますが、不正確です)。参考までに、規定を引用しておきましょう(漢数字の一部を算用数字に替えました)。

 

 (復興特別税の収入の使途等)

 第72条 平成24年度から令和19年度までの間における復興特別税の収入は、復興費用及び償還費用(復興債(当該復興債に係る借換国債を含む。次条、第74条第1項及び附則第18条において同じ。)の償還に要する費用(借換国債を発行した場合においては、当該借換国債の収入をもって充てられる部分を除く。)をいう。以下同じ。)の財源に充てるものとする。

2 平成24年度から平成27年度までの間における第3条の規定による財政投融資特別会計財政融資資金勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金及び平成28年度から令和4年度までの間における第三条の二の規定による財政投融資特別会計投資勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金は、償還費用の財源に充てるものとする。

3 次に掲げる株式の処分により令和9年度までに生じた収入は、償還費用の財源に充てるものとする。

 一 第4条第1項の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本たばこ産業株式会社の株式

 二 特別会計法附則第208条第4項の規定により国債整理基金特別会計に帰属した東京地下鉄株式会社の株式

 三 第5条の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした東京地下鉄株式会社の株式

 四 第5条の2及び特別会計法附則第12条の2の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

 五 特別会計法附則第12条の3の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

4 前3項に規定する収入のほか、平成23年度から令和9年度までの各年度において、国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するものは、復興費用及び償還費用の財源に充てるものとする。

 

 既に、財務省は国の売却収入が1700億円程度になるという見通しを、2024年度予算の編成時に示していました。想定売り出し価格が1株につき1100円で、上場時の時価総額がおよそ6400億円程度になるとも記事に書かれています。

 ここで、現段階で思い付いたことを記しておきましょう。

 第一に、おそらく上場初日は御祝儀相場ということになると思われますが、このところの平均株価の動きを見ていると、想定通りの売却収入になるか否かという懸念があるかもしれません。それよりも、上場以後の株価の推移が問題になるかもしれません。

 第二に、東京メトロの株式上場により、東京の地下鉄網の統一は完全に夢物語で終わるということです(東京都が筆頭株主になれば話は変わってくるかもしれませんが)。

 元々、帝都高速度交通営団は、当時の東京市にあった東京地下鉄道および東京高速鉄道の地下鉄路線(いずれも現在の銀座線の前身)を一体的に経営するために、昭和16年、西暦に直せば1941年に作られた特殊法人です。この年号からおわかりのように、帝都高速度交通営団は、戦時体制に入っていた日本の経済統制の産物でもありました。戦後、各種の営団は解散しましたが、帝都高速度交通営団のみは存続します。この際に帝都高速度交通営団が解散していたならば、東京の地下鉄は全て東京都交通局が経営することになっていたかもしれませんが、様々な理由なり思惑なりがあって実現しなかったのでした。その後、東京都交通局は自ら1号線(浅草線)などを建設し、運行します。

 このように帝都高速度交通営団と東京都交通局という複数の主体によって地下鉄網が作られていった理由については、今後調べてみたいと考えていますが、私のように東京メトロ線と都営地下鉄の双方を利用する者にとっては、運賃だの何だのが面倒なことになります(もっとも、複数の鉄道会社を利用することによる運賃などの問題は、別に東京の地下鉄に限った話ではないのですが)。東京以外の都市、例えば大阪市、名古屋市などにおいては地下鉄と言えば公営でしたが(現在、大阪市の地下鉄は大阪市高速電気軌道によって運営されています)、他の都市と違い、東京の場合は山手線の中に限定すれば地下鉄網は帝都高速度交通営団、東京都交通局のいずれかに統一しやすかったはずです(現に、路線バスはほぼ都営バスに統一されています)。東京の地下鉄が東京メトロと都営地下鉄に分かれている点は、鉄道に詳しい人を除けば首都圏以外の場所に住む人にとって、あるいは首都圏に住む人にとってもわかりにくいものです。私も何度か他のお客さんに尋ねられたことがあります。外国人観光客にとってはもっとわかりにくいでしょう。やはり、私も何度か尋ねられましたし、駅の運賃表を怪訝な顔つきで眺めている観光客を見たこともあります。

 第二の話が長くなりましたので、第三に移ります。東京地下鉄株式会社法の廃止、すなわち(とは言えないかもしれませんが)完全民営化が実現するかどうかです。あるいは、完全民営化が望ましいかどうかと考えたほうがよいかもしれません。東京メトロの株式上場は、帝都高速度交通営団の解散と東京メトロの発足が行政改革の一環であったことを想起すれば、完全民営化は望ましいことでしょう。しかし、それが交通政策にとって良いことであったということは、全く別の話となります。東京メトロも、御多分に漏れず、COVID-19による極端な乗客減に苦しめられましたが、そのようなことが二度と発生しないとは考えないほうがよいですし、そうでなくとも今後は緩やかながらも乗客は減少していきます。公共交通を誰が支えるかが久しく問われていますが、東京の地下鉄についても妥当する日が来る可能性はあると言えるでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする