( 朝、静けさの中 )
僕は朝1番のスタートが大好きです。朝の静けさは格別です。プレーヤー自身もまだ、饒舌になる時間ではありません。そして冷たい空気と露を帯びた地面は、僕たちにポケットに手を入れ、あまり音をたてずに歩くことを促します。
靴の底が芝生の上を擦る音が聞こえるのは、朝だけです。ゴルフバッグの中のアイアンがガチャガチャぶつかる音が、木々の間でこだまし、遠くまで響くような気がするのも朝だけです。また、150ヤード離れたグリーンにボールが落ちた音が、あたかもすぐそばにボトッと落ちたかのように聞こえるのも、朝だけです。
これらのめったに聞こえない音を聞かせてもらえる時、孤独を大切にするという、ゴルフ特有のよさが実感できます。
( 旗竿のガチャッという音 )
誰でも経験があると思います。グリーン周りで、どこまで飛んでいくか分からないほど、スピードがつき過ぎたボールを打ってしまうことがあります。ところが顔を上げてみると、それが旗竿に当たり、カップに入ってしまったり、そのすぐそばにこぼれたり、ということがあります。
そんな時はガチャッという音がします。旗の鳴る音がしばしの間、空中を漂います。そしてその2,3秒の間に、私達はそのガチャッが、救済の音だということに気づきます。何ら明白な理由もなく、そのホールでの新しい命を与えられたのです。
( 夕暮れの音楽 )
ゴルフコースにおいては、たそがれ時もミュージックタイムです。プレーをしている人の数がだんだん減ってきます。自然光がもっとも豊かになり、僕達を取り囲む全ての色が、最も輝かしい色になります。
影が地上の風景の上をずっと長く伸びて、凹凸をくっきりと定義します。そして、これ以上の風景はないと思った瞬間に、自然のオーケストラが開演します。
コオロギや沢山の秋の虫。季節によってはカエルたち、ミュージシャン達の登場です。この演奏を聞くと、ゴルフは自然と共存することで成り立っていること、そして僕達は、その事実に敬意を払うべきであることを、改めて思い起こさせてくれます。