晴れ。最低気温-7.4℃、最高気温2.3℃。
日差しが明るさを増して、春を感じさせる日となった。散歩の途中、橋を渡ろうとすると川のせせらぎが聞こえてきた。雪解けが進んで、覆っていた雪を割るように、まばゆい光を放ちながら川が流れていた。目を凝らすと水は川底の石まで見えるほど透き通っていた。川がこれほと澄んでいて美しいとは何と嬉しいことだろう。故郷の川がおおむね変わりなく美しい水を湛えて流れ続けることは、この国にあっても今や幸運なことかもしれないのだから・・・。
今、手元にある『庭仕事の愉しみ』(ヘルマン・ヘッセ著 V・ミヒェルス編 岡田朝雄訳))にはヘッセの書簡も収められている。その書簡集に次のようなものがあった。
世界はもう私たちにはほとんど何も与えてくれません。世界はもう喧騒と不安とから成り立っているとしか思えないことがよくあります。けれど、草や樹木は変わりなく成長しています。そしていつの日か地上が完全にコンクリートの箱でおおいつくされうようなことになっても、雲のたわむれは依然としてあり続けるでしょうし、人間は芸術の助けをかりてそこかしこに、神々しいものへと通じるひとつの扉をあけておくでしょう。
(一九四九年一月、クルト・ヴィートヴァルト宛)
変わりなくあり続ける自然を美しいと感じ、安心感を持つ瞬間は、しばし人を正気にもどす還元装置のスイッチとなるのかもしれない。