97~98年、 検察は5つの事件で、
無期懲役の判決を量刑不当として 異例の連続上告を行ないました。
83年に 永山基準で示された 9つの判断基準のうち、
「被害者の数」 を 特に重く捉える傾向が、 当時の下級審にありましたが、
検察はそれに 一石を投じようとしたのです。
92年に起きた 主婦殺害事件もそのひとつです。
岡敏明被告 (52) は、 主婦を強姦したうえ 千枚通しや牛刀で刺殺。
10歳と6歳の姉弟が、 血の海に倒れている 母親を最初に発見しました。
一審 東京地裁の判決は死刑。
けれども 二審の東京高裁は、 永山基準を根拠に 無期懲役に減刑しました。
上告を受けた最高裁は 合議を重ね、 上告を棄却します。
ただし判決には、 「 殺害された被害者が1人でも、
極刑がやむを得ない場合が あることはいうまでもない 」
という文言が 盛り込まれました。
検察が連続上告した もうひとつの事件があります。
強盗殺人罪で 無期懲役の判決を受け、
仮釈放中だった 西山省三被告 (56) が、
一人暮らしの女性を殺害し、 現金を奪った事件。
一審, 二審とも 無期懲役でした。
合議に当たった 最高裁のある判事は、 こう明かします。
「 無期懲役を破棄するのは、 断崖絶壁を跳び越えるようなもの。
判断に悩む、 本当にしんどい事件だった 」
けれども 被告の反社会性は軽視できず、
99年最高裁は 高裁に差し戻して、
07年に 西山被告の死刑が確定しました。
検察が連続上告した 事件のうち、
結論が死刑に変わったのは この事件だけでした。
しかしこれ以降、 極刑に慎重な流れが 変わります。
永山基準以後、 死刑判決は 年間4~15人。
2000年以降は 8年連続で20人を超えています。
〔 読売新聞より 〕