「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「重ね着症候群」

2011年05月15日 19時53分27秒 | ボーダーに関して
 
 主に境界性パーソナリティ障害と 診断された人の中に、

 その背景に 高機能発達障害を持っている人の存在が 注目されています。

 衣笠隆幸氏は、 これを 「重ね着症候群」 と呼んでいます。

 青年期に 種々のBPD様の精神症状を 訴えて受診し、

 問診していくうち 高機能発達障害が発見されるといいます。

 発達障害は軽度で、 高機能 (知能が平均以上) の人なので、

 物事の達成能力があり、 それまで見過ごされてきてしまったのです。

 高機能発達障害には 精神分析的精神療法が適用されますが、

 BPDはそれはかえって 患者の衝動性を刺激し、 自己感が混乱してしまうので、

 支持的なアプローチや 薬物療法が適切です。

 小児・ 児童期に、 不登校や神経症が 見られることがありますが、

 発達障害を疑われたことはありません。

 思春期・ 青年期には、 様々な精神症状を呈します。

 対人恐怖, 強迫, 摂食障害, 人格障害, 抑うつ, 反社会的な逸脱行為など,

 統合失調症, 躁うつ病, 摂食障害, 神経症,

 パーソナリティー障害などの 症状をきたします。

 精神科を受診し、 自己理解を促進する (精神分析的) 治療を受けると、

 かえって悪化してしまいます。

 治療者が混乱すれば、 治療困難事例になってしまうでしょう。

 支持的・ 療育的な関わりをすると、 安定していきます。

 面接場面では、 情緒的交流の困難さ, 激しい感情の変化や平板化,

 自己感の喪失を訴えます。

 いじめや孤立など コミュニケーションの問題や、

 攻撃性・ 衝動性・ 性衝動の問題が 浮き彫りになってきます。

 家族からは、 発達の異常 (早熟・遅滞) の存在, 言語障害の存在,

 協調運動障害の存在, 強い拘りの存在が聞かれます。

 いずれにしても、 発達障害のために 周りと合わなくて、 理解されず、

 不安や無力感, 反抗や攻撃, 自暴自棄などに陥り、

 BPDのような行動化を してしまうというものです。

〔「outlandos d’amour」:

 http://outlandos.blog.eonet.jp/outlandos_damour/2009/04/layered-cloths-.html

 他より〕
 
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自閉症スペクトラム

2011年05月14日 20時40分56秒 | ボーダーに関して
 
 広汎性発達障害の色々な困難を、 子供の性格や 親のしつけのせいにせず、

 障害に基づいて 理解した上で 対応することが大切です。

 子供自身が 自分の障害を 理解することも重要です。


 (1) 対人関係の障害, (2)  言葉などのコミュニケーションの障害,

 (3) こだわり 或いは想像力の障害の、 3つの障害の程度によって、

 「自閉症」, 「アスペルガー障害 (アスペルガー症候群)」,

 「特定不能の広汎性発達障害」 (PDD-NOS) などと 診断されます。

 「アスペルガー障害」とは、

 言葉の遅れがなく、 対人関係以外の困難が 目立たない人達です。

 (1), (2), (3)のいずれもが 典型的に当てはまるものを

 「自閉性障害 (自閉症)」 と呼び、

 (1), (3)  のみのものを  「アスペルガー障害」 と呼びます。

 以前 「自閉症」 と言われていたものは  「自閉性障害」 で、

 「カナータイプの自閉症」 (古典的自閉症) といいます。

 それぞれに、 知的障害のあるものと ないものがあります。

 自閉症, アスペルガー症候群, PDD-NOSなどは、

 それぞれの境界が 明確でデジタルなものではなく、

 ひとつの連続体として 考えられています。

 それを  「自閉症スペクトラム (自閉症連続体)」 と呼んでいます。

 ちょうど虹のように、

 色が別れているけれど 境目は曖昧で つながっているのと同じです。

 広汎性発達障害 (PDD) のなかで 知的障害を伴わないものを、

 高機能広汎性発達障害 (HF-PDD) と言います。

 アスペルガー障害のほとんどと、 自閉性障害や

 特定不能の広汎性発達障害の 一部が含まれ、 自閉症の軽症例と言えます。

 ただし、 社会性の障害が 軽いわけではありません。

 子供の200人に 1人位いると言われています。

 障害として認知されないと、 わがままや性格の 問題として扱われ、

 不適切な対応によって 不登校や様々な不適応行動に 発展してしまいます。
 

〔「ほっぷ・ すてっぷクラブ」 http://www.hopstepclub.jp/archives/hf-pdd.html

 「広汎性発達障害とは」 http://www2k.biglobe.ne.jp/~motoi/lecture/pdd1.html

 「Wikipedia」 より〕
 
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広汎性発達障害 (PDD)

2011年05月13日 20時51分41秒 | ボーダーに関して
 
 発達障害には、

 ADHD (注意性多動性発達障害) や LD (学習障害) などの他に、

 自閉症やアスペルガー症候群を含む  「広汎性発達障害」 があります。

 広汎性発達障害は、 自閉症に近い特徴を持つ 発達障害の総称です。

 先天的な脳の障害によるもので、 成育歴や環境が 原因ではありません。

 軽い人から重い人まで、 人口の0.5% ~ 0.9%いると 言われています。

 その特徴は 次のようなものです。

(1) 対人関係の障害 (場面に応じた 適切な行動がとれない)

  母親に甘えたり、母親と遊んだりしない

  視線が合わない

  1人遊びが好きで、 人との関わりを好まない

  感情が伝わらない

(2) 言葉などの コミュニケーションの障害

  言葉が遅れていたり、 一問一答になってしまったりして 会話にならない

  オウム返しと言われるような 特有の応答をする

  遊びのルールや役割を 理解できない

(3)こだわり, あるいは想像力の障害

  興味を持っているものが 限られている

  服や靴などは 特定の物しか身に着けない

  コップなどが いつもの所に置かれていないと、 気にして直す

  同じものに執着して 集めたりする

  くるくると体を軸にして周る などの常同行動がある
 

 その他にも 様々な特徴があります。

・ 人の表情や感情を 読み取るのが苦手、 その場に合った 行動ができない

・ 人が何を考えているのか 推し測れない

・ 特に年少時は 多動であることが多い

・ 得意なことと不得意なこととの ギャップが著しいことが多い

・ 一度に多くの情報が与えられると 混乱する

・ 不安になると なかなか収まらない

・ 真似をするのが苦手で、 教えるのに工夫が必要

・ 特定の音に対して 敏感すぎたり、 逆に鈍感だったりする

・ 不安な体験や 嫌な体験を、 ずっと後になって思い出して 落着かなくなる

・ かんしゃく発作や、 自傷行為・ 危険行為
 

〔「ほっぷ・ すてっぷクラブ」 http://www.hopstepclub.jp/archives/hf-pdd.html

「広汎性発達障害とは」 http://www2k.biglobe.ne.jp/~motoi/lecture/pdd1.html

「発達障害アスペルガー症候群」http://asperger.blog.so-net.ne.jp/archive/200910-1

 より〕
 
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境界性パーソナリティ障害と発達障害

2011年05月12日 20時57分28秒 | ボーダーに関して
 
 境界性パーソナリティ障害と発達障害の関連性を よく耳にします。

 境界性パーソナリティ障害は発達障害の一種ではないかと、 自説を述べる人もいます。

 BPDは 心の成長が未熟な人なので、 そのような考え方もできるのかもしれません。

 発達障害のひとつである 「アスペルガー症候群」 の  “二次障害” として、

 境界性パーソナリティ障害が生じる とも言われます。

 アスペルガーの人は 場にそぐわない言動をしたりするため、 周囲から誤解され、

 その結果として 感情が不安定になったり、

 BPDに似た症状を 示すことはあります。

 両者の区別は難しいようですが、 全く別のもので、 治療法も異なります。

 精神医療の現場では 一時期、 何でもBPDと 診断されていたことがありましたが、

 最近は何でも アスペルガーと言われる傾向が あるとも聞きました。

 問診で、 発達段階に兆候がなかったかと、 小さい頃の様子を 聞かれるそうです。

 「重ね着症候群」 という 概念も唱えられています。

 BPDなどの精神症状の背景に 発達障害があるものを言い、

 パーソナリティ障害だけ、 発達障害だけという人は少ない とも言われます。

 BPDとアスペルガーの 両方を持っているという人が いる一方、

 両者の併発は0に等しい と言う人もいました。

 この機に、 アスペルガーや自閉症を含む  「広汎性発達障害」 について、

 簡単に説明してみたいと思います。

(次の記事に続く)
 
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「DSM-Ⅳ」 の多軸評定 (2)

2011年05月08日 19時37分22秒 | ボーダーに関して
 
(前の記事からの続き)

○ 第3軸 : 患者の精神症状の 理解や管理に関連する 身体疾患。

 例えば、 認知症の病因となる脳疾患などが、 それに当たるのではないかと思います。

 他に 以下のような例があります。

・ 感染症および 寄生虫疾患

・ 内分泌, 栄養, 代謝疾患, 免疫疾患

・ 神経系および 感覚器の疾患

 第3軸も 診断に関与することがあるようですが、

 第4軸以下は、 予後の予想や 研究のために用いられるということです。
 

○ 第4軸 : 第1軸・ 第2軸の診断・ 治療・ 予後に影響する、

 心理的・ 社会的・ 環境的問題。

・ 人生の不幸な出来事

・ 対人関係などのストレス

・ 職業上・ 教育上の問題

・ 環境的な困難や欠如など
 

○ 第5軸 : 機能の全体的評定。

 その人の機能や 症状がどの程度であるか、 0~100ポイントで評定します。

 91~100 全く健常で、 不適応な症状はない。

 81~90  日々のありふれた心配程度。

 71~80  軽微な症状。 一過性。

 61~70  軽度の症状。 社会生活に若干の障害。

 51~60  中程度の症状と不適応。

 41~50  重度の症状と障害。

 31~40  判断思考気分の欠損。

 21~30  一日中床についている。

 11~20  清潔維持不可能。

 1~10   重大な自傷他害の危険。 自殺行為。
 
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「DSM-Ⅳ」 の多軸評定 (1)

2011年05月07日 20時03分04秒 | ボーダーに関して
 
(前の記事からの続き)

 「DSM-Ⅳ」 第1軸~第5軸の説明です。

○ 第1軸 : 第2軸に含まれる障害以外の、 種々の障害や疾患の 全てが対象です。

 以下の障害、 その他が含まれます。

・ 統合失調症

・ 気分障害 (うつ病など)

・ 不安障害 (パニック障害, 強迫性障害, PTSDなど)

・ 発達障害 (自閉症, アスペルガー症候群, LD, ADHDなど)

・ 薬物関連障害 (アルコール依存, 薬物依存など)

・ 認知障害 (認知症, せん妄など)

・ 解離性障害 (解離性同一性障害, 離人症性障害など)

・ 性障害および性同一性障害

・ 摂食障害

・ 睡眠障害

・ 適応障害

 ひとりの患者が 複数の障害を持つこともあります。
 

○ 第2軸 : 10種類のパーソナリティ障害と、 精神遅滞(知的障害)です。

 (「DSM-Ⅳ」 の改訂版となる 「DSM-5」 では、

 パーソナリティ障害は 第1軸になるという話もあります。)

 顕著な不適応性の 人格特徴がある場合も 記載します。

 複数の障害が該当することもあり、 第1軸の障害と 重複することもあります。

 精神科の診断には 第1軸と2軸までが用いられます。

(次の記事に続く)
 
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「DSM-Ⅳ」 (アメリカ精神医学界 「精神障害の診断・ 統計マニュアル」 )

2011年05月06日 20時59分03秒 | ボーダーに関して
 
 境界性パーソナリティ障害はじめ、

 精神障害の診断基準として 世界的に広く使われている  「DSM-Ⅳ」 です。

 DSM-Ⅳでは、 表に現れている 「症状」 を基に 障害を診断します。

 身体的な疾患は、 その 「原因(病因)」 を基に 診断するのに対し、

 精神疾患は 原因の特定が難しいため、 このような診断基準を採用しています。

 また、 症状のチェック項目に照らし合わせて、

 患者が幾つ以上 当てはまっているかで 判断をします。

 治療者の主観や 経験による差異を できるだけ少なくし、

 統一した診断が 下せるようにしたものです。

 そのとき大切なのは  「除外診断」 です。

 ある診断名に 単純に当てはめるのではなく、

 「~ではない」 と絞り込んでいくことです。

 ただ  「~ではない」 と断定することは 難しいものです。

 DSM-Ⅳのもうひとつの特徴は、

 「多軸評定(多軸診断)」 というシステムです。

 第1軸から第5軸までの 観点があり、

 患者を多面的に 観察することが求められます。

 それを記録する 書式のサンプルも示されています。

第1軸 : 臨床的症状に基づく精神障害

第2軸 : 人格障害・ 精神遅滞(知的障害)

第3軸 : 身体疾患

第4軸 : 心理的, 社会的, 環境的問題

第5軸 : 機能の全体的評定

 それぞれの軸についての説明を、 次の記事に記します。

(次の記事に続く)
 

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ひきこもりの家族支援

2010年11月12日 20時05分27秒 | ボーダーに関して
 
 先日の「BPD家族の会」では、

 「心理臨床としての家族援助」 下坂幸三 (金剛出版) の中の

 「ひきこもりの家族支援」 も紹介されました。

 -------------------------------------

 ひきこもり治療の 道のりは長い。

 それゆえ、 本人を 「信じつつ待つ」 という 基本姿勢が重要になる。

 治療において  「待つ」 ことは 能動的かつ積極的な行為であり、

 それは 慎重に練られた戦略と 強靱な意志を必要とする。

 多くの親は  「待つ」 ことを 「放任」 と取り違える。

 放置しておいても  「自然治癒」 は期待できない。

 まず  「干渉せずに見守る」、

 次に 本人にとって ストレスの少ない環境を 作ることである。

 プレッシャーを高めていく  「北風」 のような対応は、

 本人をかたくなにし、 引きこもりの殻を厚くする。

 むしろ 「太陽」 のように、 共感によって 本人と周囲の温度差を小さくし、

 殻を溶かしてしまうことだ。

 このとき しばしば 「愛情」 が障害になる。

 愛情ゆえに抱え込み、 叱咤激励するが、 愛情は共感を妨げる。

 心がけるべきは、 当たり前の 「親切」 である。

 素朴な親切は、 愛ほど押しつけがましくなく、 見返りを期待せず、

 愛よりも穏やかで 副作用が少なく、 所有欲につながりにくい。

 親切は、 害をなさないこと、 孤立させないこと、 相手に執着しすぎないこと、

 相手の出方によっては いつでもやめられることである。

 要するに、 一定の 「距離感」 が必要なのだ。

 本人への共感に基づいた、 親切な対応を基本とすべきだ。

 即効性を期待すべきでない。

 何ヶ月、 何年か後に 実を実らせる覚悟で、

 今は丁寧に  「種まき」 に徹する姿勢。

 しつこさは禁物だが、 まめさ、 粘り強さは欠かせない。

〔 「心理臨床としての家族援助」 下坂幸三 (金剛出版) より 〕
 
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「生まれ」 と 「育ち」 の相互関係

2010年11月11日 20時02分08秒 | ボーダーに関して

 精神療法は伝統的に

 「生まれ」 よりも 「育ち」 の問題を 重視する傾向があった。

 境界性パーソナリティ障害も、

 早期の母子関係の 分離不安や共感不全に 関したことが、

 原因として重視されていた 時期があった。

 しかし 現在は、 患者の生得的な脆弱性と、

 早期の対人関係 (両親との関わり方) にも 共感不全などの問題があり、

 それらが組み合わさって 病像を形成していると 考えられている。

 「生まれ」 と 「育ち」 を 完全に切り離して 議論することはしない。

 これらは相互に関係している。

 「生まれ」 によって方向づけられた 一定の性格傾向や行動パターンは、

 「育ち」 による経験の中で 刺激を受けて初めて現れる。

 同様に、 その人がどのように  「育ち」 の経験をしていくかは、

 「生まれ」 による 遺伝的な気質や行動パターンに 影響されるものでもある。

 例えば うつ病では、

 ストレスを受けたときに 心が折れやすいという 脆弱性だけでなく、

 そもそも ストレス的な経験をしやすい 行動パターンを 性格的に生まれ持っている。

 遺伝的要因で方向づけられる 行動パターンによって、

 本人が身を置く環境が 方向づけられるために、 環境要因に影響を与えてくる。

 もし 生まれつき折れやすい心を 持っていたとしても、

 嫌な体験をする 環境要因がなければ、

 遺伝的な脆弱性は 発現することは少ないのだから、

 環境要因は遺伝的要因に 影響を与えているとも言える。

 このような意味で、 遺伝的要因と環境要因は 切り離せないものである。

 境界性パーソナリティ障害においても、 同様のことが言えると 類推できる。

 境界性パーソナリティ障害になりやすい人は、

 早期親子関係でも、 その後の対人関係の環境でも、

 遺伝的に方向づけられた 情緒の反応性や 行動パターンによって、

 両親から不適切な養育行動を 引き起こしがちだったり、

 不都合なできごとに 出会いやすかったりするのである。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 みすず書房 (小羽俊士) より 〕

関連記事: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/57801589.html
 
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境界性パーソナリティ障害の 生物学的側面 (2)

2010年11月10日 18時27分10秒 | ボーダーに関して
 
(前の記事からの続き)

 普段は冷静に 現実検討もしっかりした 思考ができるのに、

 情緒的に負荷がかかると 一気に現実検討が低下し、

 「妄想的」 とも呼べる 混乱しやすい状態になってしまう。

 扁桃核など 辺縁系の活動が 過剰な状態になり、

 前頭前野が圧倒されて 機能低下を起こしてしまう 傾向がある。

 まさに  「感情が理性を 圧倒してしまう状態」 に 陥りやすいのだ。

 境界性パーソナリティ障害の患者は、

 自傷行為に伴う 不安や痛みなどの 不快反応を感じにくいことが 知られている。

 脳機能のレベルでも、 痛みに対する 体性感覚野の反応が 低いことに加えて、

 扁桃格の反応が 抑制されることが示されている。

 自傷行為をすると  「痛み」 に不快反応を起こすが、

 扁桃核の反応は抑制され、 そのため 自傷行為による 「痛み」 だけでなく、

 慢性的な心の 「痛み」 も 一時的に抑制されることになるのだろう。

 患者が自傷行為を  「安定剤代わり」 にするというのは、

 こうしたメカニズムによる。
 

 境界性パーソナリティ障害においては、

 「自分自身や相手の気持ちに しっかり気付き、 しっかり表現する能力」 である

 「内省機能」 が、 前頭前野の機能と相関している。

 そのような 生得的な脳の問題が、 治療によって改善するのだろうか? 

 世間一般には、 

 「生まれの問題」 = 「生物学的なもの」 = 「精神療法で治らない」

 = 「薬物療法」、

 「育ちの問題」 = 「心理的なもの」 = 「精神療法」 という、

 やや単純化された 図式があるようだ。

 しかし事実は そんな簡単なものではない。

 「内省機能」 は 精神療法によって 改善することが実証されている。

 生物学的に決定されている 脳の問題も、 治療で変えることができるのである。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 みすず書房 (小羽俊士) より 〕
 
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境界性パーソナリティ障害の 生物学的側面 (1)

2010年11月09日 21時48分18秒 | ボーダーに関して
 
 先日の 「BPD家族の会」 で、

 みすず書房 「境界性パーソナリティ障害 ― 疾患の全体像と精神療法の基礎知識」

(小羽俊士) の、 「境界性パーソナリティ障害の生物学的側面」 という

 一節が紹介されました。

 従来、 境界性パーソナリティ障害は 親の育て方の問題と 言われてきましたが、

 先天的な脳の問題が 先にあるということが、 次第にはっきりしてきています。

 その一節から 要約, 抜粋をしてみます。

--------------------------------------

 近年、 いくつもの神経心理学的研究や 脳機能画像研究などによって、

 境界性パーソナリティ障害では、

 大脳皮質の 前頭前野の機能が 低い傾向にあることが示されている。

 大脳は、 より 「動物的な衝動や欲望」 をつかさどる  「辺縁系」と、

 より 「人間らしい、 思慮深さ」 によって コントロールしている

 「大脳皮質」 に分けられる。

 不安や、 それに伴う怒り, 攻撃性, 回避反応など、

 動物として生き残るのに 必要な機能は  「辺縁系」 の働きが中心となる。

 たとえば、 不安などの情動は 辺縁系の中の  「扁桃核」 の働きである。

 これに対して 大脳皮質、 特に、 大脳全体を統合する前頭前野は、

 「人間らしい、 思慮深さ」 によって、 扁桃核の反応をコントロールしている。

 この前頭前野の 機能が低いと、

 不安や攻撃性などの 情動のコントロールが悪くなるだけでなく、

 対人関係の中で 的確に、 計画的に、

 柔軟性と共感性を持って 行動していくことも困難になってしまう。

 「共感性」 は、

 自分の気持ちや 相手の気持ちを 的確にとらえることと 関連しているので、

 それが低ければ、 対人関係の中で 非常に強い孤独感や 見捨てられ感を感じる。

(次の記事に続く)
 
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BPDは遺伝するか? 

2010年05月12日 22時00分21秒 | ボーダーに関して
 
(関連記事: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/59959409.html )

 DNAの存在が 知れ渡るようになって、

 「遺伝」 という言葉の印象が 少し変わってきたように思います。

 以前は、 親の持っている (表に現れている) 特性が、

 子供にも現れることを、  「遺伝する」 と言っていました。

 (隔世遺伝も含めて。)

 しかし現在は、 遺伝子に組み込まれている 先天的な要素を、

 「遺伝的」 なものと言うでしょう。

 DNAは 両親から受け継いだものですが、

 親はその性質が 必ずしも表に現れているとは 限りません。

 それゆえ、 「遺伝」 という言葉から 受けるニュアンスが、

 人によっては 違ってきてはいないでしょうか? 

 BPDのでは、 脳の脆弱性など (遺伝的) が 第一の要因と言われていて、

 親も そういう遺伝子を持っていても、

 BPDを 発症している場合と、 していない場合があります。

 そのために、 BPDは遺伝とは言えない という人もいるでしょうか? 

 ランディ・クリーガーさんの著書によれば、

 BPDの発症に 関係する遺伝子が 4~5個あるそうです。

 ただし、 遺伝しうるのは BPDではありません。

 衝動性, 感情の規制, 攻撃性, うつ, 脆弱性など、

 組み合わさると BPDを発症するかもしれない特性が、

 遺伝する可能性があるのです。

 その意味では、 BPDは遺伝ではないとも 言えるでしょう。

 BPDの発症には 数個の遺伝子が関係しており、

 親や兄弟でも、 それらの遺伝子の 組み合わせが異なります。

 両親とも BPDを抱えていなくても、 子供のうちの一人に、

 BPDが発生するような形で 遺伝子が結合するかもしれません。

 遺伝子の組み合わせによって、

 BPDを発症する可能性が 異なってくるということです。

 それは親のせいでも 子供のせいでもないのです。
 
〔 参考文献:

 「BPDのABC」 ランディ・クリーガー / E・ガン (星和書店) 〕
 
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遺伝か環境か

2010年05月09日 12時47分08秒 | ボーダーに関して
 
 過日の読売新聞に、 双子の間の違いを 比較した研究の 記事が載っていました。

 人の行動や性格に、 遺伝や環境が どう影響するのかを 調べたものです。

 その中に、 子供の問題行動と 親の養育態度の関係について、

 双子の間で 研究したというものがありました。

 (一卵性か二卵性かは不明)

 遺伝的な素因が 異なっている兄弟で、

 育て方によって 問題行動に違いが 出るかどうかの研究です。

 「マナーを守らせる」 「言いつけに従わせる」 というように 厳しくしつけたり、

 あるいは、 しつけ方に 気分次第でむらがあったりすると、

 3歳~3歳半にかけて 子供の問題行動が増えるそうです。

 生まれつき 引っ込み思案だったり 不安を感じやすい子供は、

 厳しかったり 気まぐれに育てられると、 問題行動を誘発されるということです。

 それに対して、 小さいことでも褒めたり 頭をなでたりすると、

 遺伝的な素因の差は ほとんど現れなかったといいます。

 つまり 温かい育て方をすると、

 生まれつき 問題行動に繋がりやすい 要素を持っていても、

 それが発現しにくいというのです。

 これを 境界性パーソナリティ障害に当てはめると、

 先天的な要因を 持っている子供に、 過酷さやむら気のある 養育環境が加わると、

 発症しやすくなるということでしょう。

 しかし 生来のリスク因子があっても、

 優しく育てられれば、 症状が現れにくい ということになります。

 遺伝と環境は 互いに絡み合いながら、

 人間の行動や心に 影響を与えるといいますが、

 悲惨な環境ほど ネガティブな遺伝子が 大きく反映されます。

 けれども 養育者の愛情によって、 危険性は補えるという 証になるでしょう。
 
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怒りを制御できない 子供たち

2009年12月07日 21時22分53秒 | ボーダーに関して
 
 先日の朝日新聞に、 2008年度に 小中高で確認された 児童生徒の暴力行為が、

 6万件を超えたという 記事が載っていました。

 3年間で 1.75倍になったそうです。

 「感情が うまく制御できない」 「コミュニケーションの 能力が足りない」

 という子供の変化が あるとされます。

 子供の思考がパターン化され、 深く考えられなくなっており、

 表現できない出来事とぶつかると、

 感情や行動が 激化してしまうのではないかと言われます。

 ある6年生の授業中、 女性教員が児童に 作業のやり直しを命じたとき、

 男子が突然 彫刻刀を振り回し、 先生を追いかけ回しました。

 間もなく 取り押さえられましたが、

 目は据わり、 自分でも何をしているのか分からない 様子だったといいます。

 「落ち着け」 と 声をかけられるうち、

 「先生、 ごめん」 と 正気に戻ったそうです。

 そのようなケースが 増えています。

 瞬間的に怒りが爆発し、 抑えることができない。

 しかし すぐに元に戻り、 一変して後悔する。

 正に ボーダー的な性向です。

 子供たち全体に そのような傾向が増えているのです。

 先日まで記事に書いていた、 境界性パーソナリティ障害急増の 事情と重なります。

 増加の 社会的な要因として書いたのは、 密室化した家族, 忙しくなった母親,

 アノミー化する社会と 父親機能の不在, 過保護すぎる環境,

 仕事や趣味を優先する親、 などです。

 少子化で大事にされ、 他の子との間で 我慢を経験することもなく、

 感情のコントロールができなくなっていることも 挙げられています。

 社会全体でこれらを認識し、 偏った方向に 歯止めをかけ、

 軌道修正していく 必要があると思われます。

 そのために 微々たることではありますが、

 こうした情報を積み重ねていくことも 意味があるかもしれません。
 
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境界性パーソナリティ障害の原因 (1)

2009年02月13日 23時02分12秒 | ボーダーに関して
 
 「BPD家族の会」 で、 BPDの本を読むと

 親が悪いとばかり 書いてある, 書きすぎだ と言っていた方がいました。

 確かに 5年ほど前までは、

 生物学的な原因は まだ日本では それほど言われていませんでした。

 でも今は、 生物学的な (先天的な)  原因が第一にあるというのが

 定論になっているでしょう。

 それまでのBPDの研究は、 主にBPD患者本人からの 聞き取りでした。

 そのため、 親の責任にされたり、

 虐待が強調されすぎたり してしまったわけです。

 そもそも BPDの人の特徴は、

 現実の正しい認識が 苦手ということであり、 問題を相手のせいにしがちです。

 中には、 現実にはなかった虐待が

 記憶として刻み込まれている ケースもあります。

( 本人の心的事実としては、

 その人は確かに 虐待を受けていたことになりますが。 )

 しかし現在では、 BPDの人の脳には 生得的に

 興奮しやすさや、 ストレスに対する 脆弱性などがあることが分かっています。

 生まれつき 癇の強い子供は、 親も育てるのに 手を焼き、

 それによって子供は さらにフラストレーションが増すという

 悪循環になってしまうでしょう。

 卵が先か、 鶏が先かという 面があります。

 脳に原因があるというのは 親の責任ではなく、

 まして 子供が悪いのでもありません。

 親が自分を責める 必要もないし、

 子供も親を怨んで やる方ない怒りを 抱くこともないでしょう。

 また子供自身が、 自分の性格が悪いのだと 苦悩する必要もありません。

 この事実は、 BPDの人や家族に 救いになるのではないでしょうか。

 家族の関係改善や、 治療意欲にもつながればいいのだが と思います。

(次の記事に続く)

〔関連記事:http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/18478190.html 〕
 

〔追伸〕

 生物学的要因に加え、 環境要因が組み合わさって BPDに繋がります。

 先天的な理由だけで BPDが発症することはありません。
 
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