米国主導の国際通貨基金(IMF)が、パキスタンに60億ドルの追加支援を行う見通しと報じられた。
パキスタンは、既に12回もIMFからの支援を受けているが対外債務は1000億ドルまでに膨らんであり、いつ破綻してもおかしくない状態であるとされている。経済破綻の原因の一つが中国の一帯一路関連事業である中国パキスタン経済回廊整備であることは間違いないものと思われる。特にグワダル港の整備と全長2000キロ近い鉄道路線改修計画は、当初から採算性が疑問視されていたものである。鉄道の近代化は直ちに富を生むものではなく、グワダル港もコンテナ集散のハブ基地とするには地理的に不利であり、中国が政治的理由から使用するであろう以外には顧客を獲得することは不可能に近いものであろう。以上のような明白な背景にも拘らず中国が事業を押し付けた理由は、グワダル港を事実上租借するためと中印紛争を想定した陸上輸送路の確保であることは間違いのないところと思う。今回のIMFの支援についてアメリカのポンペオ国務長官は、IMFの資金が対中債務の返済に使用されることに釘を刺すとともに監視を強化するとしているが、パキスタンの対中債務返済金の出所を把握することはなかなかに困難であろう。トランプ政権は世界を敵に回して対中経済戦争を戦っている今、IMF資金が中国に渡るのは何としても避けたいにも拘らずパキスタンを援助しなければならない背景には、タリバン掃討のためにはパキスタンとの窓口を維持する必要があるためであり、まさに痛し痒しの選択である。パキスタンでも中国パキスタン経済回廊整備の見直し・縮小が行われているとともに、先日はグアダル港近くの高級ホテルで「中国人を標的とするテロ攻撃」が起きる等、対中危機感が高まっているものの、嫌米親中政権の交代までには至らないだろうと推測するものである。
米中関税戦争については、最終的に米中間の全ての貿易品に高関税が科せられるという局面まで発展しそうな情勢である。中国が関税協議の最終局面で知的財産と為替操作の2点に関して協議開始前の主張にリセットしたのは、一度決裂した協議をG20の米中首脳会談で劇的に解決して習近平国家主席の求心力を一気に高めようとする中国の思惑と考えるのは読みすぎであろうか。