国連総会は英国に「6か月以内に英領チャゴス諸島の植民地統治を終えるよう」勧告を決議した。
チャゴス諸島は、英領であるがアメリカの対中東・インド洋地域に対する最重要拠点であるディエゴ・ガルシア島を含んでいる。ディエゴ・ガルシア島の帰属展望に関しては、3月24日附の本ブログで「英領終了・基地消滅のおそれ」を書いたが、あながち杞憂とは思われない進展を見せている。3月24日の時点では、①イタリアとイギリスに中国勢力が拡大したこと。②イギリスの合意なきEU離脱が観測されること、という側面から書いたものである。チベット併合やインドのカシミール州への武力侵攻を見るまでもなく、中国は力の均衡が破れた地域やアメリカの軍事力の空白時期を狙って我意を伸長する戦略を得意としている。今回の国連決議の提出国がセネガル等のアフリカ諸国であり、チャゴス諸島とは数千キロも離れているとともに、必ずしも人道支援や人種差別撤廃に熱心でない国々であることから、アフリカ諸国に大きな影響力を持つ中国の使嗾を受けた提案であることは確実で、中国のインド洋戦略の一環と観るものである。決議は賛成116、反対6、棄権56であり、日本は独仏等とともに棄権に回ったと報じられているが、オーストラリアは米英とともに反対票を投じている。オーストラリアの反対表示はかっての英連邦としての紐帯と見る向きもあるが、チャゴス諸島がオーストラリアと中東地域の中間に位置することから、安定的な原油確保を優先した結果であろうことは疑いのないところと考える。日本を考えると、第一次オイルショックを契機として原油確保のためのシーレーン防衛が叫ばれて半世紀近くが経過し、その間にはペルシャ湾掃海のための掃海艇派遣、海賊対処のための護衛艦派遣や多国籍軍への給油支援を行ってきたが、原油シーレーンの大部分を占めるインド洋安定のためには核心の要因であるディエゴ・ガルシ基地存続を左右する今回の決議案に対して、棄権という消極的な反対しか表明できなかったのだろうか。消極的な反対では英米からの支持は得られないだろうし、提案諸国や中国からは反対者と観られ、将に蝙蝠外交の極致で得られるものは少ないと思うものである。この背景には、円満外交という美辞に隠れた事なかれ主義が外務省内部に残っているせいではないだろうかと危惧するものである。
提案国のアフリカ諸国といえば、海やクジラとは無縁の内陸国でありながらIWSで反捕鯨を唱える等、国際社会では常に大国の代弁者として行動することで有名である。地理上で見れば一目瞭然であるが、提案国のセネガルとチャゴス諸島はアフリカ大陸の反対側に位置しており、チャゴス諸島の帰属が海上輸送に対して殆ど影響を受けない。にも拘わらず、人道上の見地からと島民の帰島を言い立てることは中国の世界戦略を代弁しているのは確実である。外務省も、国連決議に対しては中国の覇権阻止の意思を鮮明にして議決に臨んで欲しいと願うものである。