アメリカ国務省は、在イラク大使館員の国外退去(避難)を命じ、残留する緊急対応要員以外は既に出国したと報じられた。
避難は民間機に依るとされているが、大使館員の居住地域(グリーンゾーン)で米軍ヘリが活発に行動したことから空港までの輸送は軍が担当したものと思われる。避難の全てを軍が担当しなかった背景は緊急度と脅威の分析に基づくものであろうが、硬軟織り交ぜた要人(邦人)保護のプログラムが機能していることを示していると考える。日本と比べて情報収集能力と軍事輸送能力の差とするのは簡単であるが、それ以上に国民(非戦闘員)の安全確保、なかんずく国家のために働く人の安全確保に対する意識の違いが見て取れる。避難の原因は、2015年のイラン核合意から米国が昨年5月に離脱して経済制裁を強化し、イランはホルムズ海峡封鎖と核開発の再開を宣言したことによる関係悪化であるが、直接的にはホルムズ海峡周辺海域でのタンカー攻撃とサウジアラビアへのパイプライン攻撃がイランの支援を受ける民兵組織によって起こされたとの分析によるものと考えられる。既にアメリカは地対空ミサイル「パトリオット」の増備、B52戦略爆撃機・空母「リンカーン」・ドック型輸送揚陸艦「アーリントン」を配備してイランによる米軍攻撃の兆候に備えているが、大規模作戦には空母戦闘群(CVBG)を2個以上投入するので、今回の展開は防御主体・小規模な反撃に限定するとのメッセージをイランに送ったものとも考えられる。
日本にとっては、今月になってアメリカが日本などに認めていたイラン産原油の輸入緩和適応除外を禁止したことから、輸入量の数%を占めるイラン原油の代替を他国に求めざるを得なくなった。しかしながらホルムズ海峡が航行不能となった場合にはサウジアラビア・アラブ首長国連邦(UAE)・カタールという輸入量では上位3位に位置する国からの輸入も絶望的となるために、当該国からの輸入増を求めることは不可能である。既にガソリンの小売価格は上昇の兆しを見せているが、紛争が長引いてホルムズ海峡が戦闘地域ともなれば、電力や輸送は致命的な影響を受けることになる。現在、安全対策未済として多くの原発を停止させていることから、過去に経験したこともないオイル・ショックに見舞われて全国的な計画停電を余儀なくされる事態も考えておかなければならない。