もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

空母ルーズベルト艦長の解任に思う

2020年04月09日 | コロナ

 米海軍の空母「セオドア・ルーズベルト」艦長ブレット・クロージア大佐が解任された。

 解任の理由は、艦内での中国ウィルス感染者の存在と救護を海軍上層部に要請したが、同時に複数のメディアに対しても同じ内容を送付したこととされている。報道では、上層部への要請とメディアへの発信は「書簡」とされているが、空母がグアムへの帰投途次であったことを考えると書簡の実態が良く分らない。常識的には航海中の艦長が自分の意志・判断を発信するのは内部限定のネットに暗号化された電報に依ると考えられるが、米海軍には商用ネット空間に接続できる通信手段をも持っているようである。ともあれ事の顛末は、3月30日に艦長が救護要請発信、4月2日にモドリー海軍長官代行が、直属の上司(太平洋艦隊司令官?)に一切相談していなかったことや書簡をメールで送付する際、部外者を含む20人から30人にも同時に送信し外部に漏えいさせたことなどから、「指揮能力に関する信頼を失った」として、事情聴取もすることなくクロージア艦長を解任した。艦長の書簡には「我々は戦争状態になく、水兵らが死ぬ必要は無い。直ちに行動を起こさなければ最も信頼できる米軍の資源たる水兵を適切に守れない」と書かれていたそうで、艦長が退艦する際には乗員が喝采を以て謝意を表したそうである。一方の海軍長官代行は6日に艦内放送で「彼は艦長になるにはあまりにも世間知らずか、バカだった」とまで酷評したと報じられている。その後5日にクロージア大佐のウイルス検査陽性が判明、7日には世論に糾弾される形でモドリー海軍長官代行は辞任(更迭)した。また、退役軍人の呼びかけによる「クロージア艦長復職」を求めるオンライン請願運動がスタートし5日現在28万5784人の署名が集まっているということも報じられている。以上の動向について、艦長の行為を人道的と評価・擁護する意見がある一方で、極秘事項であるべき兵力運用の核心部分を独断で部外に漏らしたとして軍事法廷で裁くべきとの意見もある。どちらも耳を傾けるべき主張であるが、艦長が解任されて退艦した2日以前から中国ウィルスの症状が出ていたことが明らかにされて以降、保身のために行動する弱い指揮官とする評価が徐々に増えているようで、今後とも大佐が指揮官として部隊を指揮することはないだろうし、海軍に留まれることも無いのではないだろうかと思える。

 今回の騒動について適否は兎も角、3日という短時日で艦長を解任したことは流石である。クロージア艦長退艦の前に後任の艦長が着任したか否かは報じられていないので、おそらく副長が艦長職を代行する形であったと推測するが、自衛隊では平時に艦長(指揮官)不在の状態はまず考えられず任務行動中の指揮官が交代させられた例でも、後任者が着任するまで職に留まったと仄聞している。また、ルーズベルトから2000人近い乗員を退艦させたとも報じられているが、本国の練習空母からの補充等で艦は現在も可働状態に維持されているものかとも思う。このスピード感ある対応こそ我々が「即応体制」として求めるものではないだろうか。