脳性まひで重度の身体障害を抱える倉田知典さん(44)が市原市で単身生活に挑戦している。1日約15時間、ホームヘルパーの介護を受けながら、「自分でできることは自分で」と心掛ける。「自分の生き方を知ってもらうことで、障害を持つ人が一歩前に踏み出せるようになれば」と思いを語る。
倉田さんは未熟児で生まれ、2歳の時に脳性まひと診断された。9歳まで寝たきりの生活を送っていたが、練習を続けて今では両手は使えないが、自力で歩行できる。21歳の頃に障害を持つ人と持たない人とが交流を持てる地域社会を目指してサークルを設立し、その後NPO法人化。自身が理事長も務めた。
NPO活動などを通じ、多くの仲間を得ることができたが、「街で自然体で生きていきたい」という思いは募った。とはいえ、食事や排せつの介護は必要だ。両親も70代で、将来に不安が残る年齢となった。
そこで、倉田さんは両親と話し合い、いったん障害者支援施設に入って生活の基礎を学んだ後、昨年9月、市原市内にアパートを借りた。
初めて直面した「家事」。料理はヘルパーや友人から学び、光熱費や電気代を節約することも考えるようになった。冷蔵庫内の食材チェック、トイレ掃除も日課だ。電気のリモコンのスイッチを切る時や、パソコンでの文書作成は足の指を使う。そして、週1回はヘルパーに付き添われて買い物もする。「積極的に外出して仲間と過ごし、社会に恩返ししたい。それが私にとって『社会の一員』として生きていくことです」と笑顔をみせる。
だが、倉田さんのような重度身体障害者の単身生活に対し、行政支援は追いついていない。県は障害者が少人数で助け合いながら暮らす「グループホーム」に対し、建設・運営費や敷金礼金の助成をし、上限2万円で家賃補助を行っている。ところが、1人暮らしを想定した支援はほとんどない。倉田さんは講演活動や障害者年金で生計を立てているが、家賃の負担は重い。
「障害者だけが集まる場所に住み、支援を受けるだけの環境では健常者との交流が減ってしまう」。倉田さんはそう訴え、フェイスブックで仲間を募っている。
今後の夢は結婚して子供を持つこと。「単身生活は結婚生活のレッスンの場所。障害のある若い人はもっと地域と積極的に関わりをもってほしい」。実家と施設を出てから1年以上。社会に飛び込み、自立を勝ち取った倉田さんの挑戦は続く。
毎日新聞 2014年11月19日 地方版