10月、東京・六本木でITの資格取得のための研修会がおこなわれました。参加したのは、身体に障害のある人たち。今回の参加者は5人で、車いすの人や半身まひで杖を使っている人など、障害の度合いは様々です。ほとんどが、メールやウェブ検索でパソコンを使う機会はあっても、専門知識に触れるのはこれが初めてでした。
「変更はどうやるんですか」「ここ、注目してください」
1台のコンピューターを囲んで、熱心な応酬が続きます。コンピューターには細工をし、正常に動かなくしてあります。全員でその不具合の原因を探しだす演習です。
「おお!」。ケーブルの1本が外されているのが分かると、歓声があがりました。
■技術があれば在宅でもプロに
研修は、情報通信機器大手のシスコシステムズ、障害者就職支援NPO法人REACH(リーチ)、資格認定などを行うIT業界団体CompTIA(コンプティア)によって企画されました。今回が第1回の試みです。参加者は、5日間計40時間の研修とその後の自宅学習を経て、ITの基礎的技能の資格「CompTIA A+(コンプティア・エープラス)」の取得を目指します。
参加者は、「最初はパソコンが苦手でできるかなと思っていたが、みんなで意見を言い合ったり、先生に質問に答えてもらったりするなかで、楽しくなっていった」「難しいけどやるしかない」と話します。
コンプティアの板見谷剛史シニアコンサルタントは、「A+」について、「パソコンやタブレット端末の設定・保守などの業務を行ううえで一人前であることを示す、世界的に認知されている資格」と説明します。IT業界での業務経験がなくても、相応の能力を持っていることを証明でき、パソコン大手のレノボなどは、全世界的にテクニカルサポートの技術者の必須条件としています。
「IT業界への第一歩になり、これを足がかりに、さらなるステップアップも目指せる」。資格を得た人は、パソコンに関する相談に答える「カスタマーサポート」などへの就職が想定されますが、次のステップとして、ネットワーク構築の技術者である「ネットワークエンジニア」などにも進んでいけると、板見谷さんは話します。実際に働く時のために、研修には、座学だけでなく、コンピューターを分解したり、電話応対を学んだりする、実務に役立つ演習も多く組みこまれていました。
研修プログラムを提供するシスコの長部謙司さんは「IT業界の技術者不足は深刻。元々、製品を売るだけでなく、それを扱える人を育てようという活動をおこなってきた」といいます。IT業界にもともと興味がなかった人も技術者として発掘していこうという流れの中で、「身体が不自由な人に戦力になってもらいたい」と、研修を立ち上げたそうです。
コンピューターの不具合を探す演習を行う参加者ら=10月3日
(2014/11/07) asahi.com