大阪府のニート対策事業では、発達障害者らの就労支援にも官民連携で踏み込んだ。障害があっても働いている当事者の成功体験をまとめ、よりよい働き方を実現するための「マニュアル」を作成。自身の特徴を見極めた上で取るべき対策や、雇用者側が対応すれば効果的な実践方法を提案した。発達障害者を雇用する機運の醸成は今後の展開にゆだねられるが、「誰もが働きやすい仕組みづくり」に向けて一手を示した。
■問題発生前に対応
工務店「西上建設」(堺市南区)で働く石橋尋志さん(36)は、順当な営業成績を収めるものの、事務作業に課題がある。発達障害の一つで不注意が目立つ注意欠陥多動性障害(ADHD)のためだ。
ミスの繰り返しで会社に居づらくなり、転職を繰り返す時期もあったが、いまの職場では発達障害を告白。会社の理解と対応を得て10年近く勤める。
同僚たちは、石橋さんが客との約束を忘れないよう日程を共有して連絡したり、作成資料を必ずチェック。石橋さんは「問題が起こる前に対応してもらえ、とても働きやすくなった」と感謝する。
西上孔雄社長(47)は「ミスが随分減っただけでなく、社員間で情報を共有する仕組みづくりにつながった」と明かす。同社では、コミュニケーションは苦手でも地道な作業ができる発達障害者も雇用。人手不足が深刻な建設業界で「適材適所の考え方は大切」と説く。
■管理職の力向上へ
こうした事例を集積し、働き方のマニュアルを作成したのがNPO法人「発達障害をもつ大人の会」(大阪市中央区)ら。2013年10月には、障害者雇用ではない一般就労の発達障害者たち約100人が、力を発揮できる働き方や職場環境の在り方について意見交換するイベントを開き、情報を整理した。
マニュアルでは、理解力や記憶力といった認知機能などに着目。仕事の場面に応じて、当事者には「周りの人に仕事の優先順位を決めてもらう」といった取り組み方を例示し、企業側には「口頭だけでなくメモを使って指示して」などと助言している。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤原崇チーフコンサルタントは「少子高齢化社会では多様な人材の活用は不可避。発達障害の方は潜在能力が高い人も多い」と指摘する。課題はコミュニケーションを円滑にする仕組みの構築。その方法を示した今回のマニュアルを評価し「組織で取り組めば管理職を中心としたマネジメント能力を高め、職場環境の改善につながる」と見解を示す。
同NPO法人の調べでは、「場の空気が読めない」など発達障害の代表的な特徴を10項目程度に分け、一つでも当てはまる社員がいた企業の割合は9割弱。このうち社内でトラブルが起き、対応がうまくいっていない企業は約半数に上った。
広野ゆい代表(42)は「程度の差はあるが全ての人に発達凸凹はある。発達障害者が生き生きと働ける職場環境は、障害のない社員や企業自体にとってもプラスになる」と訴えている。
【発達障害】発達障害者支援法によると、対人関係や言葉のやり取りが苦手な広汎性発達障害▽不注意で落ち着きがない注意欠陥多動性障害▽読み書きが苦手な学習障害に大別される脳機能の障害。
普通学級に通う公立小中学生の6.5%に発達障害の可能性が指摘され(2012年文部科学省)、自立支援施設などの利用経験があるニート状態の若者のうち23%は発達障害かその疑いがあったとの調べ(06年厚生労働省)もある。
一般就労の発達障害者が中心に集まり、よりよい働き方の提案に向けて意見交換した催し=2013年10月、大阪市住之江区の大阪府咲洲庁舎