障害とは何かを問うドラマ「悪夢」を、NHKが12月5日午後9時、Eテレで放送する。出演者の7割以上が障害者、しかもコメディータッチ。意欲作はいかにして誕生したのか。
ドラマは初挑戦。日比野和雅チーフプロデューサーはその狙いを「『障害って何』『生きるって何』と問いかけたい。笑って泣いて心を揺さぶられて考えるという振り幅を、ドラマは脚本できちんと描き込める」。そして、障害者自身が演じることでリアリティーを追求した。
物語の主人公は、統合失調症の真(まこと)。自身も統合失調症のお笑い芸人、ハウス加賀谷が演じる。真は「シロイヒト」の幻覚に襲われ、働きたくても働けない。「普通になりたい」と自分をさらに追い詰める。そんなある日、不思議な店に入る。客はさまざまな障害がある人たち。彼らとの交流を経て真は自身と向き合う。
「ふと気付いたら何時間も経過していた」といったハウス加賀谷の実体験など、実話もふんだんに盛り込まれている。出演する障害者が、自らの障害をどのように受け止めているかを役としてではなく、自らの考えとして語る場面もあり、ドキュメンタリー的な要素もある。
一方、笑いの要素もちりばめられている。ダウン症のタレント、あべけん太がとぼけたバーテンダー役で活躍。あべはアクリル画が趣味で、中でも好んで描くのが女性の裸体。その指向がコミカルな流れを作る。
真がシロイヒトの幻覚に襲われるシーンも注目だ。大阪市内の毎日新聞販売店でロケーション撮影した場面では、真が白塗りの男たちを振りほどこうと体をくねらせる。その姿を見て「よそでやってくれ」と声を上げる新聞店主(カンニング竹山)。見える者と見えない者の間にあるズレがおかしく、悲しく、考えさせられる。結末も含め、そんな場面が多い。
「単純な感動ものにはしたくなかった。障害を受容することは、そう簡単なことではないと思う。きれい、すっきりではなく、ヒリヒリ、ザラザラした感じのドラマにしたかった」。日比野チーフプロデューサーは言う。
毎日新聞 2014年11月27日 東京夕刊