今や名実ともにハリウッドを代表する映画監督である
コーエン兄弟。彼らの作品群の中でも最もコメディ色が強いのが今回紹介する
ビッグ・リボウスキ。ロクに働きもせず、身なりは小汚いし、ヒマさえあればダメ友と一緒に
ボウリングをしている印象があるオッサンが主人公。ありとあらゆる映画を集めても、これだけのダメキャラの主人公は滅多にお目にかかれない。そもそもこんなダメキャラが主人公にして映画が成り立つのか!と思いきや流石は
コーエン兄弟。お得意のシュールなギャグを散りばめ、主人公以外にも個性的過ぎる登場人物を脇役に大勢登場させて笑える映画を撮りあげた。
この映画の面白いところをチョッとばかり挙げておくと、観ている我々にミスディレクションをもたらしておいて意表をつくような設定がなかなか楽しい。『お前、サーファーだったのかよ!』『お前、元からユダヤ教じゃなかったのかよ!』『お前、金持ちじゃないのかよ!』『なんでパンツを脱がされる?』・・・と言ったような意外性がけっこう笑える。特に『お前、撃たれちゃったのか?』と思わせておいて実は、な~んちゃって!なんて場面があったりするのだが、本来なら痛いシーンでも笑いに持っていくあたりはコーエン兄弟の真骨頂だ。
他にダメキャラな主人公が自宅に帰ってくるたびに見知らぬ奴等に勝手に家に入られて殴られたりしているシーンを見ると、きっと多くの人が『お前、用心が足らなさ過ぎだろ~』なんてツッコミを入れたくなったり、気を失っている時に見る幻想のシーンは笑える。
他にもダメキャラの主人公と強面の友人の絶妙にして、歯車が狂いっぱなしのコンビ振りは笑わせるし、俺には意味のわからない
ニヒリスト、フェミニンの前衛アーティスト(登場シーンが笑ける)、ロリコンの男好きの気持ち悪いレイザーラモンHGみたいな奴、場違いなカウボーイハットの渋い親父、ポルノ映画プロデューサー兼闇金、イラクの元大統領サダム・フセインのソックリさん等、なんだか適当に思い付いただけで登場させているようなキャラクター達だが重要な奴から全く必要性を感じさせない奴まで笑わせる。
さて、単なるコメディ映画かと思わせておきながら、実はダメキャラの主人公が誘拐事件に巻き込まれるサスペンスだったりするのだが、簡単にストーリー紹介を。
1990年代の初め、
湾岸戦争時におけるロサンゼルスにおいて。本名はジェフリー・リボウスキだが自らも他人からもデュード(
ジェフ・ブリジッス)と呼ばれているロサンゼルスで1番の不精者がいた。デュードはある日のこと自宅に帰ってくると見知らぬ男2人組みに襲われ、『お前の女房の借金を返せ!』と迫られる。しかし、デュードは結婚をしているわけが無く、金を返せ!と言われてもロクに働いていないので金なんかあるはずがない。実は同姓同名の大富豪であるビッグ・リボウスキと間違えられていたのだ。2人組みの男はデュードの部屋にあったお気に入りの敷物に小便をぶっ掛けて去っていく。
デュードはボウリング場で親友でありベトナム戦争帰りで厳ついウォルター(
ジョン・グッドマン)と気の小さいドニー(
スティーブ・ブシェミ)にこの出来事を話すと、ウォルターからけしかけられデュードは同姓同名のビッグ・リボウスキ(
デヴィッド・ハドルストン)の豪邸に乗り込み、敷物を弁償しろと乗り込むがうまく言いくるめられてしまう。しかし、タダでは帰らないデュードは帰り際に高価な敷物をパクって去っていく。
数日後デュードの元にビッグ・リボウスキから電話が掛ってくる。パクッた敷物を返せという話しかと思いきや、意外にもビッグ・リボウスキの若妻バニー(
タラ・リード)が誘拐されたことを聞かされ、身代金の引渡し役になるように頼まれる。仕方なく承知するデュードだったが、そのことを切っ掛けに次々と新手の人間がデュードの前に現れ、事件は複雑な様相を帯びるのだが・・・
同姓同名でこんなに人生が違うということは、観ている最中は名前占いなんか当てにならね~と全く別のところで感心したりしてしまった。しかし、次々と現われる素っ頓狂な登場人物によってストーリーがえらくややこしくなってしまったが、それもコーエン兄弟の狙いだったことは最後の最後でわかる。それにしても
スティーブ・ブシェミって何でこんな役ばかりなんだと思うと笑える。
ちょっとした意外性の連続のギャグ、ストーリー運びは楽しいし、湾岸戦争時のアメリカ社会を感じさせる設定は今観ても色々と感じさせることがあるし、個性溢れる登場人物は魅力的。そしてダメキャラがドンドン事件の深みに嵌まっていく様子がこんなに面白いのかと感心した。ドタバタコメディが好きな人、コーエン兄弟監督作品が好きな人、笑える映画が観たい人、そしてボウリングが好きな人にお勧めしたい映画として
ビッグ・リボウスキを今回は紹介しておこう
監督は前述したように
コーエン兄弟。個人的には大好きな映画監督。お勧め作品多数だが、
ミラーズ・クロッシング、
ファーゴ、
オー・ブラザー!、
バーバー、
ノーカントリーなど、たくさんの傑作があります。