人間なんて目が見えているからと言って、必ずしも世の中の事が正しく見えているとは限らない。むしろ見えているようで見えないことだらけなのが、現代の世の中。日頃はいつもニコニコしていて良い人そうに思って見ていたら実はとんでもなく腹黒い奴だったということが後になってからやっとわかったり、普段はもっともらしく礼儀、教育、道徳を語っているくせにお前が出来てねぇ~じゃんとツッコミを入れたくなる奴がそこら中にゴロゴロ居たり、そもそも俺自身がスーパーイケメンだと思っていたのだが、毎週の如く合コンしていても全く成果が出ていない事を考えると、ようやく俺って実はイケメンじゃないと感じ始めたり、まあ、目が見えていても自分のことですらわかっていない人間が多いし、現実に起こっている世界を目の当たりにしていても理解できていない人がほとんど。本当に近頃は見た目だけで判断しても間違っていたり、わからないことだらけ。
さて、逆にこの世の中の全ての人間の目が見えなくなってしまったら、果たしてどのような世界が訪れるのだろうか?そんな実験を壮大な構想で描いた作品が今回紹介する映画
ブラインドネス。パニック映画として観ても楽しい映画だが、宗教的な示唆に富み、さらには男女平等なんて現代的なテーマ、そして男女の真実の愛の形が描かれているように普遍的なテーマも内包されているように人間ドラマとしても非常に見応えのある傑作だ。
時には目が見えなくなって気づくことがあったり、視力がバッチリでも大切なことが見えていないんじゃないのか?なんて考えさせるストーリーを簡単に紹介しよう。
運転中の日本人男性(
伊勢谷 友介)は信号待ちの交差点で突如失明に襲われる。彼は妻(木村佳乃)に連れられ眼科医(
マーク・ラファエロ)に診察してもらうが、全く原因がわからない。しかも瞬く間に、日本人男性に触れた者を手始めに世界中で感染し失明者が続出。政府は緊急の対応策として失明した患者たちを精神病棟に隔離しようとする。
ところが眼科医の妻(
ジュリアン・ムーア)は何故か一人だけ感染せずに目が見える。彼女は夫を支えるために、自らも感染して目が見えないふりをして、一緒に精神病棟に付いて行くのだが、次々と失明者が運ばれてくるうちに、精神病棟の中はとんでもない修羅場と化してしまう・・・
なんで目が見えなくなる感染病が発生したんだ?なんて謎はさておき、精神病棟の中で起こる出来事が怖い。吐きそうになりそうな劣悪な環境、暴力の支配による秩序の崩壊、外部から支給されるわずかな物資をめぐる醜い争い・・・。人間の理性が崩壊していく様子がとんでもなく怖い。道徳及び秩序なき世界とはこれほど恐ろしいものなのかと観ている我々に突きつけてくる。
そして
ジュリアン・ムーア演じる眼科医の妻にだけ、目が見えるというこの映画の世界の中では最も羨ましいと思える利点がある。しかし、実はこの映画の登場人物の中で最も苦労させられているのが彼女。なぜ彼女は目が見えていながら一番困難な目に遭わなければならないのか?それはラストシーンによって明かされ、その結末に大いに感動させられる。それは、圧政、腐敗、絶望の世界を救うべく誕生したあの人のように、彼女も同じ宿命を背負わされる。
日本の有名俳優が登場していることも我々日本人にとっても嬉しい限りだし、パニック映画が好きな人も楽しめ、なんだかこの世の中に希望が持てないんだよな~と感じている人に映画
ブラインドネスはお勧めだ
監督はブラジル人の
フェルナンド・メイレレス。今のところ作品数が少ないが、
シティ・オブ・ゴッド、
ナイロビの蜂なんかは傑作。今後も期待出来るし、覚えておいて損はしない監督だ。