褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 未来世紀ブラジル(1985) 管理社会を皮肉る

2024年12月10日 | 映画(ま行)
  映像の魔術師と言われるテリー・ギリアム監督だが、その奔放なイマジネーションには感嘆する。そんな彼の作品の中でも、その特徴が最も発揮されているのが今回紹介する映画未来世紀ブラジル。本作が制作された時期を考えるとSF映画として驚きの映像を見れるし、本作以降のSF作品においても色々と影響を与えていることが見てとれる。しかし、それ以外にも管理社会の恐ろしさを全編に渡って皮肉っているのが見どころ。我が国ニッポンを含めて民主主義が発展している国では三権分立が確立されているが、権力がすべて官僚に集中してしまうことの恐ろしさを痛感させる内容になっている。

 まさかとは思うが日本もマイナンバーカードの普及において何もかも個人情報が筒抜けになると、本作のような世界が繰り広げられてしまうかも?なんて警鐘しているようなストーリーの紹介を。
 20世紀のどこかの国が舞台。国家組織である情報省によって人間社会は徹底的に管理されている。しかし、情報省は致命的な失敗を繰り返すので、それに反抗して爆破テロ事件が頻繁に起きていた。そんなある日のこと、情報省のミスにより本当はタトル(ロバート・デ・ニーロ)がテロリスト犯であるのに、バトル氏を捕まえてしまう誤認逮捕が発生。そんな失敗の責任回避を上司の命令を受けてサム・ラウリー(ジョナサン・プライス)は動きだすのだが、その過程でいつも夢にみる美女ジル(キム・グライスト)と似た人物を見てしまう。実はジルは誤認逮捕の目撃者であり、情報省から犯罪者扱いされていた。
 そして、サム自身も何時の間にやら情報省からあらゆる罪を被せられ、ジルと一緒に逃亡生活を余儀なくされるのだが・・・

 なぜタトルではなくてバトル氏が逮捕されることになったのか?それはひょんなことからのタイプライターの打ち間違い。こんなことで逮捕されたんじゃたまらないし、情報省とやらも反省する気もなし。思い付き同然で逮捕されたんじゃやってられないし、そりゃ~爆破テロを起こそうとする人間も出てくる。本作でも爆破するシーンがたくさん出てくる。
 そして、官僚についても皮肉的な描き方をしている。やたらお役人が無駄に集まっており、仕事はせずにテレビばかり見ている。そのくせサム以外は出世欲はある。しかも、究極の縦割り社会。情報省内の局を行ったり、来たり往復させられるシーンがあったりする。
 更に少し笑えたのが情報管理が大量の書類によってされていること。そこら中に書類を巻き散らかすシーンも見られるが時代的にインターネットが普及していないから当然かもしれないが、その割に徹底した管理社会が行き渡っていることのギャップが笑えた。
 無機質な建物のセットや大量のダクトなんかはローテクを感じさせるが、この監督のイマジネーションの豊かさはサムが見る夢の中で活かされる。兜をかぶった巨人と戦うシーンがあったり、スパイダーマンの強敵であるサンドマンみたいな奴が出て来たりなど驚きのシーンも見れる。
 登場人物もやたら整形手術が大好きなオバサン連中が出て来たり、何だこりゃなんて思わせる場面もある。ちょっと監督の悪ふざけが目立つシーンが多かったりするので、その辺りに拒否反応を起こしてしまう人がいるかもしれない。それもこの監督の個性と言ってしまえばそれまでだが。
 結局のところ、笑いのツボが浅い人、鬼才と呼ばれる監督の映画が好きな人、シニカルなテーマが好きな人、出演時間は短いがロバート・デ・ニーロのファンの人等、ハマる人にはハマる映画未来世紀ブラジルをお勧めに挙げておこう

 監督は前述したとおりテリー・ギリアム。この監督の作風は好みが分かれるか。ブルース・ウィリスが色々な時代に飛ばされる12モンキーズフィッシャー・キングは比較的誰にでもお勧めできそう。個人的にはバロン、グリム童話を基にしたブラザーズ・グリムDr.パルナサスの鏡もこの監督らしさが出ていて好みではある













 

 

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映画 マグノリア(1999) 主人公が9名の群集劇

2024年11月23日 | 映画(ま行)
 映画の主人公なんてものは大体1人か多くても3人ぐらいだが、今回紹介する映画マグノリアの主人公は9人。その9人にそれぞれのストーリーがあるために3時間の長時間を費やしてしまっている。それだけでも見ていて疲れそうな映画かと思われるかもしれないが、これが結構退屈せずに見れる。特に9人が非常に個性的な面々で多くが有名どころなのが良い。特に当時既に大スターだったトム・クルーズが猛ハッスルしているのが楽しい。
 9人の別々のストーリーが最後には一つに収束されるというのはありがちであるのだが、本作のテーマは偶然の重なり。本作の冒頭で偶然について、説明がナレーションとして入ってくるのだが、この実話のフィルムを交えての説明が非常に笑わせる。そしてこの偶然の重なりがそれぞれの人物の奥に秘める後悔、悩み、挫折といったものを炙りだすのだが・・・

 9人も主人公がいるとストーリーの説明をしていると怠い長文になってしまう恐れがあるので、できるだけアッサリと流そう。
 持てない男性に女性の口説き方のセミナーを開催しているフランク(トム・クルーズ)、生放送のクイズ番組の司会者であるジミー・ゲイター(フィリップ・ベイカー・ホール)、ジミー・ゲイターの娘でコカイン中毒に罹っているクローディア(メローラ・ウォルターズ)、クイズ王の天才少年スタンリー(ジェレミー・ブラックマン)、元天才子役であり電化製品のセールスマンである中年男のドニー(ウィリアム・H・メイシー)、元大物プロデューサーであり末期がんに侵されて臨終を迎えつつあるアール(ジェイソン・ロバーズ)、アールの後妻であるリンダ(ジュリアン・ムーア)、アールの看護師であるフィル(フィリップ・シーモア・ホフマン)、ロス市警の警官であるジム(ジョン・C・ライリー)たちが、ロサンゼルスを舞台に苦悩を抱え込みながらも、何とか解決しようとする一日を描き出すのだが、運命は意外な結末を迎える・・・

 この中には本当に下らんことで悩んでいる者が出てきたり、今さらどうしようもないことを未練たらたらで後悔していることを告白しているような者もいる。その様子はまるでキリスト教の罪の告白の儀式である告解を思わせる。俺が見たところ過去の過ちを乗り越えて未来へ突き進もうという意志の強い人間はこの中には見当たらなかった。だが、登場人物の配役の妙を感じさせる。天才と元天才、警察と泥棒、恋愛に積極的なのと引っ込み思案、親と子供等この対照的なバランスがなかなかニクイ。
 しかし、この映画が本領発揮しているのが奇跡的な結末。これがグロい描写になっているのだが、なぜか後になって爽やかさを感じたのは何故だろう。癒し、赦しが与える力の大きさを最後の最後に感じることができる。
 ウジウジしている奴ばかりだが、いつの間にか同情していたり、少し変わった演出があったり、意外な人間関係が突如でてきたりで飽きさせないのが良い。それと妙にテンポもが良い。出演者の中ではトム・クルーズが良い。あのSF映画の名作の音楽に乗っての登場シーンも印象的だが、「死んでしまえ、クソ野郎」なんて吐き出すシーンは名演技。そこには素敵な笑顔を振りまくアイドルの姿は全くない。俳優としての高みを目指すトム・クルーズが見れるシーンだ。
 悩みを抱えた人間が好きな人、現在悩み中の人、衝撃的すぎる結末の映画を観たい人、癒しが欲しい人、主人公が多い映画が好きな人等に今回は映画マグノリアをお勧めに挙げておこう

 監督は今や名匠の高みに到達したポール・トーマス・アンダーソンハードエイトゼア・ウィル・ビー・ブラッドパンチドランク・ラブ、そしてポルノ業界を描いたブギーナイツがお勧め



 

 

 
 
 
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映画 マルコヴィッチの穴(1999) 奇抜なストーリーです

2024年10月11日 | 映画(ま行)
 奇抜なアイデアの映画というのは希少価値なだけにそれほど多くないのだが、そんな中でも今回紹介する映画マルコヴィッチの穴は奇抜なストーリー展開が繰り広げられる。『ミクロの決死圏』という映画では人間が人体の中に入り込んでいたが、本作で入り込むのは人体の中でも脳味噌の中。少しばかり他人が何を考えているか想像してみたくなるが、そんな願いを少しばかり叶えてくれる作品だ。しかし、本作のストーリー展開はそれどころではすまない。本作は少しばかり古い映画ではあるが、今観ると現在に通じる問題にも手を延ばして笑わせ、少しばかり考えさせる。

 早速だが奇想天外なストーリーを出来るだけネタバレ無しで。
 人形師であるクレイグ(ジョン・キューザック)はまるで売れない日々をダラダラ過ごし、妻のロッテ(キャメロン・ディアズ)はペットショップ店員であり、家の中にはチンパンジーなど動物で囲まれている。
 クレイグは妻の勧めもあり職探しを始めるが、そこのオフィスはなんとビルの7と1/2階。その階は天井が低くて立ち上がると頭が当たってしまう。クレイグは手先の器用さを活かして就職することになるが、あるオフィスの壁に扉があることを発見する。その扉をこっそり開けて侵入すると、なんとそれは名優ジョン・マルコヴィッチ(本人が演じています)の頭の中に通じる穴だった。
 クレイグは同じ階のオフィスの美女で好意を持ってしまったマキシン(キャサリン・キーナー)と、これを利用して商売を始めることにするのだが、クレイグとロッテの夫妻の関係はとんでもない運命に導かれてしまい・・・

 マルコヴィッチの頭の中に居ることができるのは最初のうちはたったの15分間。15分経った時にどうなるのか?その時のシーンはかなり笑えた。しかし、もっとマルコヴィッチの頭の中に居られる方法を見つけ出してからが、本作の真骨頂。とんでもない人間関係が引き起こされるのだが、ここでネタバレは止めとこう。
 他人の頭の中に入って、その人が何をしているのか、何を考えているのか興味が惹かれる時もあるが、本作ではマルコヴィッチ自身が自分の頭の中に入ってしまうシーンがある。この描写が凄いし、とにかく「マルコヴィッチ、マルコヴィッチ・・・」ばかりで笑える。
 ジョン・キューザックなんかは本作では髪の毛ボウボウ、無精ひげ姿で冴えない身なりで演じているが、キャメロン・ディアズに至ってはスッピンに髪の毛ボサボサ。いつもの超美人を隠して演じている。そしてジョン・マルコヴィッチの演技が凄い。本作においても名演技を見せつける。そして、さらに有名人が他にも実名で登場しているのも楽しい。二枚目俳優がとんでもない姿でカメオ的出演しているのも驚きと笑いを提供している。
 個人的にはオチが不満だったりするが、観る人によっては「なるほどね~」と納得したり、笑える人も居るだろう。ありきたりなストーリーの映画に見飽きた人、奇想天外なストーリーの映画が観たくなった人等に今回はマルコヴィッチの穴をお勧めに挙げておこう

 監督はスパイク・ジョーンズ。監督作品は少ないですが本作のような奇抜なストーリー展開の映画が多い。本作と同じくチャーリー・カウフマン脚本のアダプテーションがお勧め






 


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映画 マッチポイント(2005) 人生で一番必要な物とは?

2024年03月10日 | 映画(ま行)
 テニスボールがネット上を行き交い、ネットに引っ掛かり真上に上がる。さて、引っ掛かったテニスボールはどちら側に落ちるのか?そんな冒頭シーンで幕開けするのが今回紹介する映画マッチポイント。ロンドンの景色をふんだんに活かしたウディ・アレン監督による愛欲にまみれたミステリー。優柔不断な男が自業自得で大ピンチを招くのだが、いかにして乗り切るのか?というのがこの映画のテーマ。
 こういう男を主人公にした映画を観ると、果たして俺だったらどんな行動をするのか?と思いながら観てしまう。俺にはもっと違う方法があるように思えたのだが、しかしながら結果が良い方に転ぶかどうかわからない。運命を知るのはネットに引っ掛かったテニスボールのみ。

 やっぱり人生で一番必要なのはこれだよね~なんて思わせるストーリーの紹介を。
 ロンドンにおいて。アイルランド人の元テニスプレイヤーであるクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)は、上流階級に属するトム(マシュー・グッド)と知り合いになる。クリスはトムの妹クロエ(エミリー・モーティマー)と親しくなり、結婚する。そして、義父(ブライアン・コックス)の会社に就職することになり順調に出世する。
 しかし、クリスはトムの婚約者でありアメリカ人であるノラ(スカーレット・ヨハンソン)のセクシーさに目を奪われて、ノラの魅力の虜になってしまう。やがて、トムとノラは婚約解消しトムは別の女性と結婚。そしてノラはクリスの知らぬ間にアメリカに帰ってしまう。
 ある日のこと。クリスはいつの間にかロンドンに戻って来ていたノラと出会う。クリスはクロエに内緒でノラと逢瀬を重ねる。ところが予想外のことにノラが妊娠してしまい・・・

 ノラ役のスカーレット・ヨハンソンが着ている服装からしてエロエロ。悲しいかな男なら十中八九でスカーレット・ヨハンソンのエロさの軍門に陥ってしまうのは無理がない。最初はクリスもノラに猛アタック。ノラは一度の過ちを繰り返すことに抵抗するのだが、抵抗されればされるほどクリスの男心が燃えてしまう。
 しかし、今度はノラが妊娠してからが立ち場が逆転。彼女からクリスへ「早くクロエと離婚して、妊娠している私と一緒になってよ!」と迫られる始末。クロエと離婚するっていうことは今の出世街道まっしぐらの社会的地位を捨てること。優柔不断でノイローゼ寸前にまで陥ったクリスが重い腰を上げて起こした意外な行動とは?、その行動はクリスに吉をもたらすのか凶をもたらすのかが本作のポイント。クライマックスから結末へ向けてウディ・アレン監督らしい皮肉に満ちた展開が刺激的。決断や努力も大切だが人生に必要なのはコレだよ、なんて思わせるが、気づいた時には何だかやるせない気持ちになってしまったのは俺だけか。
 そして、この作品までひたすらニューヨークを舞台にした映画を撮ってきたウディ・アレンが本作を切っ掛けにヨーロッパを舞台にした映画を撮り始める。本作はロンドンを舞台にしているが、その地へアイルランド人とアメリカ人を登場させたことを考えると何だか意味深な物を感じる。
 この監督らしい期待するような笑いは無いが、それでもスリリングで考えさせられる展開と内容。今回はマッチポイントをお勧めに挙げておこう

 監督はウディ・アレン。名作、傑作が多数。笑いとサスペンスが融合されたブロードウェイと銃弾、シリアスな作品ではインテリア、笑いに寄せた作品ならばタロットカード殺人事件等がお勧め








 
 


 

 

 
 
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映画 摩天楼(1949) アメリカらしさ満載

2023年09月30日 | 映画(ま行)
 この世の中、伝統という言葉に縛られ過ぎてなかなか新しいアイデアが出てこないといった創造力の欠如に陥ってしまっている。特に我が国、ニッポンは旧態依然とした体制がスポーツ、政治、企業に蔓延っており、創造力の無さが嘆かわしいばかりか腐敗まで呼び込んでしまっている始末。新しいアイデアが出てきても、それを恐れる利権にまみれた権力者が圧力を掛かてくるのですぐに潰されてしまう。
 そんな頑固、利権、権力という壁によって圧し潰されそうになりながらも、自らの信念を一切曲げない建築設計士を描いた映画が今回紹介する摩天楼。古い様式で同じような建物ばかりが並び、それが好まれる時代において、斬新なデザインでアイデアを持つ新進気鋭の設計士の苦闘が描かれている。

 立身出世のためにすぐに権力に擦り寄る愚か者とは真逆の俺と同じようなタイプの主人公が描かれているストーリーの紹介を。
 建築設計士であるハワード・ローク(ゲイリー・クーパー)は斬新なデザインと、自分の信念は絶対に曲げようとしない男。しかし、そんな性格が災いして古い建築設計士、建築業界に力を持つ評論家などから相手にされなかった。ロークは事務所を立ち上げるものの彼の設計は時代の先端を行き過ぎていたのか、仕事に恵まれずついには事務所を立ち退きを強いられ、採石場で日雇い労働者として働くことになってしまう。
 そこでロークが出会ったのが、大手新聞社ニューヨーク・バーナーで働きコラムニストである麗しき女性ドミニク・フランコン(パトリシア・ニール)。彼女は都会のアスファルト・ジャングルにおける建築業界の実態に疲れ、地元のコネチカットにたまたま帰っていたのだ。ドミニクは現場で汗水垂らして働くロークのことを好きになってしまい、ロークの方も彼女のことを気に入ってしまった。しかしながら、ラッキーなことにロークの設計デザインを気に入ったオーナーから建築のオファーが届いた。ロークは荷物をまとめ、ドミニクにも挨拶をせずにさっさとニューヨークへ戻る。
 ロークが設計した斬新なデザインによる高層住宅はたちまち評判になり、オープニングパーティーでは多くの人が集まり、そこでロークとドミニクは再会する。ドミニクは自分のコラムでロークの設計のことを褒めていたのだが、まさか目の前にいる男がロークだったことを今まで知らなかったのである。
 ドミニクは改めてロークとの愛を確かめるのだが、古い権威で凝り固まっている建築設計士の世界で生きていくにはロークは人が良過ぎることを心配したドミニクは彼と結婚することを諦め、ニューヨーク・バーナーの社長ゲイル・ワイナンド(レイモンド・マッセイ)と結婚する。
 しかしながらワイナンドは新聞の売り上げのためと、ワイナンドの腹心のコラムニストでロークの斬新なデザインが気に入らないトゥーイ(ロバート・ダグラス)によるローク叩きをバーナー新聞で大衆にアピール。そのお陰で瞬く間にロークは建築ラッシュに沸くニューヨークの中で仕事を失ってしまう。
 そんなところへワイナンドがロークの所へやってきた。ワイナンドは妻のドミニククと静かに暮らすために郊外に別荘を建てようとしているのだが、その設計をロークに頼みに来たのだ。最愛の人を奪い、自分をどん底に叩き落としたバーナ社の社長であることにロークは少しばかり躊躇するが、彼は思い直し設計に取り掛かることにする。ドミニクはロークが了承したことに驚き、しかもワイナンドとロークには何時しか友情が生まれる。ドミニクはそんな2人の友情を不思議に思いながら、そして嫉妬する。
 ある日のこと、ロークのもとへ学生時代からの友人であり、かつては建築設計士として超売れっ子だったキーティング(ケント・スミス)が訪れる。それは多くの建築設計家が熱望する公営住宅地の設計だ。キーティングはその仕事を取りたいためにロークのアイデアを欲しいと言いにきたのだ。ロークは条件を出す。「カネは要らない、設計士として俺の名前は出すな、その代わり俺のアイデアを少しでも変えるな」
 しばらくしてロークは建築現場を見に行く。ところが自分のアイデアが変更されていたのだ。キーティングにそのことを問い詰めるが彼は言い訳ばかり。自分のアイデアが変更されたことに怒ったロークは驚くべき行動に出てしまうのだが・・・

 このロークと言う男だが、もう少し世の中を上手く渡れば良いのにと思うのだが、全くブレない。自らのアイデア、創造性に対して一切の疑問を持たない。カネや女を見返りにされても自らの信念を曲げない。それはバーナー社長との付き合いでもわかるように、過去の因縁ですら自らの信念に対する妨げにならない。俺も信念は強い方だと思っていたのだが、この主人公を見ていたら俺なんか足元にも及ばない。俺だったら仕事と女だったら、迷いもなく女の方を選んでしまうだろう。
 そんなロークと対照的な存在として学生時代の友人であるキーティングが描かれている。これが他人のアイデアはパクるし、すぐに権力者に擦り寄るし、私利私欲が半端ない。設計士としてのプライドなんかまるで無い。ロークとキーティングの生き方のどちらかを選べと言われたら、苦しくてもロークの方だ。まあ、本作を見ていたら誰もがそうなるように描かれているが、俺の知っている政治家の中にはキーティングみたいな奴がいることを思い出してしまった。
 あまりにもロークのキャラクター設定だとか、大げさな表現があったり、ハッピーエンドへ向けての展開が杜撰すぎたりでツッコミどころも多いが、それ故かダイナミックな映像とストーリーが楽しめる。個人崇拝的な面が見られるなどアメリカらしさ満載で楽しい映画だ。最後の法廷でのシーンなんかはツッコミどころすら感動に変えてしまうのだからハリウッド黄金期のパワーを感じさせる。
 しかしながら、自分の考えばかり押し付けて、顧客の意見を全く聞き容れない態度はどうなの?なんて疑問も感じるが、古き良き時代を感じさせるアメリカ映画ということで今回は摩天楼をお勧めに挙げておこう

 監督はキング・ヴィダー。サイレントの時代から活躍した監督で後半は西部劇のイメージがある。リメイクもされたチャンプがお勧め
 
 

 
  

 
 

 
  
   
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映画 マッチスティック・メン(2003) これぞ娯楽映画です

2023年09月15日 | 映画(ま行)
 説教っぽい映画が好きな人もいると思うが、多くの人が映画に求めるのは娯楽。個人的に観終わった後に悩まされる映画も好きだが、なんだかんだ言っても痛快な気分にさせられる映画を観た後は得した気分になる。誰もが楽しめる映画として今回紹介するのがマッチスティック・メン。最近は首を捻りたくなるような作品も撮ってしまうが、リドリー・スコット監督が傑作を連発していた時期と重なるので本作が面白くないはずがない。そうは言っても彼らしい重厚な作品を想像すると的を外してしまう可能性はあるが、少しばかり肩の力を抜いたかのようなライトな作品に仕上がっている。
 主役を演じるニコラス・ケイジのキャラクター設定が面白い。チック症で何かと瞬きを繰り返し、かなり重度な神経症を患っておりパニック障害をしょっちゅう引き起こしている。それゆえか度を過ぎるほどの潔癖症。常に薬を服用し、煙草を吸いまくる。そして職業が詐欺師。

 それでは簡単にストーリーの紹介を。
 重度の潔癖症で神経障害を患っている詐欺師のロイ(ニコラス・ケイジ)は相棒のフランク(サム・ロックウェル)と手を組んで相手かまわず詐欺を繰り返していた。そんなロイのもとに離婚した元妻の14歳の娘アンジェラ(アリソン・ローマン)と会うことになる。実はロイは娘が居ることを知っておらず、アンジェラとは初顔合わせ。アンジェラが母親とは仲が良くない事を知ったロイは仕事で忙しいながらもアンジェラを自分の家に当分の間だが住まわせることにした。
 近い内にロイとフランクはデカい仕事を企んでいたのだが、ロイはアンジェラに詐欺師のしての才能があることを知り、彼女も仲間に加えることにするのだが・・・

 ロイは半ばフラフラの状態だが詐欺師としての腕は確か。デカい仕事もなんとかやり遂げることになるが、思わぬところから足がついてしまう辺りの件がスリルと笑いを感じさせる。雲行きが怪しくなってからの後半の畳みかけ方は非常にテンポが良く進み、二転三転する展開は驚きとともにロイをどん底に叩き落とす。なんだか多くの人に裏切られて可哀想だと思っていたのだが・・・。
 実際に俺の周りにも詐欺師みたいな奴がいて俺も引っ掛かってしまったが、本当に腹が立つし、絶対にそいつを俺は許さない。しかし、本作においては結末はドロドロになりそうだったが、心地よい所に着地しており、家族って良いなと感動させられるシーンが用意されていた。笑わせ、泣かせ、スリルあり、そして多くの人が感動する。まさに娯楽作品としてこれだけの良作は滅多にみれない。娯楽作品の傑作として今回はマッチスティック・メンをお勧めに挙げておこう

 監督は巨匠リドリー・スコット。多くの名作を撮りましたが、エイリアンブレードランナーグラディエーターブラックホーク・ダウンキングダム・オブ・ヘブンワールド・オブ・ライズは非常に楽しめる








 
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映画 モンパルナスの灯(1958) 悲劇の天才画家モディリアーニ

2023年08月03日 | 映画(ま行)
 35歳の若さで夭折した悲劇の天才画家であるアメディオ・モディリアーニ。今では彼の名前は有名だし、作品は日本でも観れるが、生前はまるで売れなくて著しく評価が低かった。さて、西洋絵画が好きな俺の彼の作品のイメージだが、その多くは女性をモデルにしており、現実離れした細長い面持ちで、目の描き方がまるでアーモンドみたいで個性的。誰の絵画の作品か知らされてなくても、これはモディリアーニの作品だと見た瞬間にわかる。正直なところ俺から見ればデッサン力があるとは思えず、大してデッサン力がない画家達が取り上げられる印象派と呼ばれる連中よりも劣るような気がする。しかし、絵の評価なんていうのは上手い下手で決まるわけではない。時々絵画展を観に行くことがある俺だが、実際に絵画を観ると絵画集のような本で観るのと大違い。生で観るとやはり画家のパッションのような物を絵画に見出すことができる。

 さて、この悲劇の天才画家の壮絶な生き様とはどのような物だったのか、ストーリーの紹介を。
 モディリアーニ(ジェラール・フィリップ)は、パリのカフェで似顔絵を描きながら小金を稼ごうとしていたが、その殆どは大して喜ばれず、せっかくの似顔絵を返され、その似顔絵の代金だけを払われる屈辱な日々を送っていた。そんな苦悩を彼は酒と女で紛らわすのだが、酒量が増えるだけで女性との付き合いも長く続かない。
 ある日のこと、美術学校に通うジャンヌ(アヌーク・エーメ)に一目惚れ、ジャンヌの方もモディリアーニの事を前から知っており、すでにその時から彼に好意を持っていたのだ。モディリアーニは付き合っていたベアトリス(リリー・パルマー)とサッサと別れ、ジャンヌと付き合おうとする。しかし、初めての待ち合わせのデート時にジャンヌはやって来ない。アル中の体が更に彼を蝕み、ついには医者から暖かいフランスの南部で療養することを求められる。
 療養しながらも制作活動を開始していたモディリアーニは何時もパリのジャンヌに手紙を書き送っていたが、一向に返事が来ない。しかし、突然ジャンヌが現れる。2人の間にやっと幸せな時が訪れるかと思われたが、モディリアーニの個展は客が入らないうえに、絵画の内容が猥褻だと警察から踏み込まれる始末。止められないアルコールは増えるばかり。しかも、彼のプライドが邪魔してアメリカ人の画商からの美味しい要求も断ってしまう。
 しかしながら、モディリアーニの絵画を昔から評価していた画商モレル(リノ・ヴァンチュラ)は彼の動向を常にチェックしており、あるタイミングを見計らって一気に彼の作品を買い漁ろうとしていたのだが・・・

 アル中にして、女性を殴り、しかもカネが無い。それなのに何でこんなに女性にモテるのかがよく理解できないのだが、売れてないにしても画家というのは女性を惹きつける何かがあるらしい。もしかしたら女性モデル達は、真剣な画家の眼差しに弱いのか?と考えたりした。
 死んでから作品が評価される画家というのは多いが、まさにモディリアーニもその1人である。彼がゴッホの事を語りながら芸術家の苦悩を語るシーンがある。ゴッホも今でこそ最も知られている画家の1人であるが生前はモディリアーニと同様に評価されず、その生き様は衝撃的。ゴッホは行動に苛立ちや苦悩を表に出すことができたが、本作のモディリアーニはジャンヌという女性と暮らしているためか、愛する彼女の手前、怒りや苦悩を表に出すことが出来ず、ひたすら酒に逃げる毎日。ゴッホに比べて、どこか暗さを感じさせる。
 さて、本作が逸品な点としてエンディングが挙げられるだろう。画商モレルがモディリアーニの作品を買い漁ろうとする時の、ジャンヌの笑顔。本作の後日談になるがモディリアーニが死んだ翌日にジャンヌが自殺したことを知って観ると、エンディングが更に際立っていることが分かるだろう。
 ちなみに本作のモディリアーニを演じたジェラール・フィリップは当時のフランスの大スター。しかしながら彼も36歳という若さで夭折をしている。そのことも知っておくと更に本作を興味深く観れるし、天才であることの脆さを改めて知ることができるだろう。
 フランス映画を観たいと思っている人、モディリアーニに興味がある人、余韻が残る映画を観たい人・・・等などに今回はモンパルナスの灯をお勧め映画に挙げておこう

 監督はジャック・ベッケル。ヌーヴェルバーグ到来前のフランスを代表する監督。肉体の冠、フレンチギャング映画の傑現金に手を出すな、脱獄映画の傑作等がお勧め







 

 







 


 

 

 
 
 

 

 
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映画 マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015) 経済に詳しい人なら・・・

2023年08月01日 | 映画(ま行)
 世の中には凄い人が居るというのを改めて感じさせてくれるのが今回紹介する映画マネー・ショート 華麗なる大逆転。世界中を大不況に陥らさせたリーマン・ショックによって、多くの人が貧困に叩き落とされた。アメリカの金融システムだけに止まらず、グローバリズム経済の欠点をモロに痛感したのはアメリカ人だけでなく、世界中の人が痛感した。しかし、そんな金融システムを逆手にとって大儲けをした人間が居る。彼らは多くの人がどん底に陥ってしまった中で、どのような手段を使ったのか。
 ちなみに本作は経済をテーマにした映画だから、経済用語がこれでもかと容赦なく出てくる。所々で重要な経済用語についての説明はセレブな登場人物達が分かり易く説明してくれるのだが、経済に詳しくない人は1回説明されただけでは理解できない。よって、本作を観る前にリーマンショックにおける基本的な経済用語は事前に勉強してから臨む必要がある。
 例えば超基本的なところではサブプライムローン、そしてショート空売り)、MBS(モーゲージ債)、CDO(債務担保証書)、CDS(クレジッド・デフォルト・スワップ)ぐらいの経済用語を抑えておけば良いだろう。
 ちなみに空売りについて少々説明しておこう。俺は株をしないので知らなかったのだが、株で利益を出すためにはその銘柄を安く買って、高値で売るしか方法がないと思っていた。しかし、本作を観て知ったのだが、高い時に買って、安くなった時に買い戻した時の差額が利益になる方法が空売り(厳密には違うかもしれないが)。俺が思っていたのと逆の発想で、株価が下がった時に利益が出るなんて全く知らなかった。しかしながら、この方法のデメリットは株価が下がらずに上がってしまった場合は、保険料を支払わなければならないこと。本作でも空売りを実行した主人公がこの保険料で苦しむシーンが出てくる。

 早速だが、テンポ良く、ポップなシーンを散りばめられるストーリーの紹介を。
 身なりが証券マンとは程遠いようなTシャツ、短パン、裸足の姿で出社している金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)。彼は信頼度の格付けが最高のAAAランクの金融商品の中に極めて信頼度の低いサブプライムローンが紛れこんでいることを見抜き、多額の金を使って空売りを仕掛ける。周囲はそんなマイケルを変人扱いするが、彼の動きを察知した者の中にはごく少数だが、なるほど~と!同じく空売りを仕掛ける者もいた。彼らのモチベーションは金持ちになることもあるが、歪な構造における金融システムへの挑戦でもあったのだが・・・

 副題に『華麗なる逆転』とあるので痛快なラストシーンを想像する人が多いかもしれないが、観る前から誰もが金融危機を描いていることを知っているので喜べないし、その憂き目にあった当事者は複雑な気持ちになるだろう。金融崩壊をかぎ取る主な登場人物がマイケル(クリスチャン・ベイル)、大手投資会社の傘下に入っている会社のトレーダーであるマーク(スティーヴ・カレル)、銀行員のジャレッド(ライアン・ゴズリング)、元トレーダーのベン(ブラッド・ピット)、主にこの4人。よく考えたらこの4人は職柄的には金融崩壊が起きれば自分が困ったり、どこか心に傷を抱えていたりするのが、本作を少しばかり深みのある作品にしている。
 この中でも俺はスティーヴ・カレル演じるマークに興味が惹かれた。マークには兄が居たのだが、カネのせいで自殺してしまっている。彼は清廉にしてピュアな人間であり、兄の死から立ち直れないでいるし、また自分の仕事にも懐疑的であり、しかも貧乏な人や返済能力がない人に対しても、どんどん住宅ローンを組ます金融関係の人間に怒りを感じている。そのお陰で彼の毒舌、怒鳴り声を挙げる等は日常茶飯事。しかし、彼もいざという時に苦悩する。実は俺も生き馬の目を抜くような人間と同じではないか?。祖国アメリカの崩壊を願っている自分は間違っているのではないか?。このあたりのジレンマに悩む姿は爽快感は無いが、バブルでやりたい放題の浮かれた人間との温度差を感じられ、人間ドラマ的な要素を感じられる。

 そしてベン(ブラッド・ピット)の出番は多くないが、ウォール街に嫌気がさし大手の投資会社を辞めた元トレーダーにも興味が惹かれる。ベンは金融業界に興味を持った若い二人を手助けをする役回りを演じる。ベンが若い二人が喜んでいるのを一喝するシーンがあるが、この男もまたマークと同じことを考えていたことが分かる。そして、若い二人が不安に悩まされながらも最後に大金持ちになった時に、ベンに対して疑問をぶつける。「どうして僕たちの手伝いをしてくれたんですか」。それに対するベンの答えが格好良い。「金持ちになりたいんだろ」。色々と印象的な台詞が多いが映画だが、俺はこの台詞が一番心に染みた。

 本作は色々なことを観ている者に示唆してくれる。どんどんバブルが膨れ上がることに気付かずに浮かれまくっている人間の馬鹿さの空気を感じられるし、あの時の反省を今こそしなければならないと思わさせられる。そして、マイケル(クリスチャン・ベイル)からは我慢強さもそうだが、それ以上にいつバブルが弾けるかのタイミングをある程度は見抜いていたこと。これが凄い。どんどん住宅の価格が上昇している時代にいずれバブルが弾けることを予想し、それが近い将来だということに気付いた点。それでも予想に反する株価の動きがあったりで苦しむこともあるが、彼の揺るぎない信念が大儲けをもたらす。

 他にも色々と金融業界を他の業界に変えて考えさせられたり、先行き不透明な世界において私は20年後のことを考えているなんていい加減なことを言うことの罪の深さを感じたり、机上の論理と現実の世界におけるギャップを感じることの大切さを考えさせられたり、人間は同じことの過ちを繰り返す生き物だと改めて教えられたり・・・等など、色々と感じられる。
 経済に詳しい人、経済にそれほど詳しくなくても難しい用語を気にせずに見れる人(これが一番適した本作の見方かな?)、アメリカのジョークに造詣が深い人、金持ちになりたい野心を持っている人、リーマンショックから未だに抜け出せない人・・・等などに今回は映画マネー・ショート 華麗なる大逆転をお勧め映画として挙げておこう

 監督は社会派的な作品でもコメディに作り変えてしまうのが得意なアダム・マッケイ俺たちニュースキャスター、元アメリカ副大統領のディック・チェイニーを描いたバイスがお勧め






 
 
 

 
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映画 ミュージックボックス(1989) 法廷&ホローコスト

2023年07月03日 | 映画(ま行)
 ハリウッドお得意の法廷映画だが、それにプラスアルファとしてユダヤ人大虐殺をテーマに描いたのが今回紹介する映画ミュージックボックス。戦争犯罪人の汚名を着せられたお父さんの無罪を証明するために、弁護士の娘が無罪を勝ち取るために奮闘するストーリー。本作は更に一歩先に驚きの展開が待っている。
 娘は弁護士だから被告の無罪を勝ち取ろうと一生懸命に頑張ろうとするのは当たり前のことだ。しかも父親の弁護士になったからには更にその想いは強くなるのは当然のことだろう。しかし、本作では父親の弁護をするからには当然ながら自分の知らなかった父親のことを調べなければならず、しかも調べれば調べるほど、または勝手に父親の真実の姿が浮き彫りになってくる。理想と現実、過去と現在の狭間に悩まされ、そしてナチスが行ったホローコスト(ユダヤ人に対する大虐殺)の酷さを現実として突きつけられた時、果たしてこのまま見逃すことができるのか?という悩みに苛れる。俺なんかは今でこそ聖人君子と見られている人格者であるが、現在の俺に騙されている人は果たして俺の過去の数々の悪行を知った時に、今でも俺を聖人君子として見ることができるのか?

 人というのは観る視点が変わるだけで これだけ見方が変わるのかを痛感させられるストーリーの紹介を。
 父親のマイク(アーミン・ミューラー=スタール)はハンガリーからの移民で、男手一つで苦労しながら息子と娘のアン(ジェシカ・ラング)を育ててきており、今ではその甲斐もあってアンは優秀な弁護士として活躍しており、家族はそれぞれが独立しながらも何不自由のない生活をアメリカで送っていた。
 しかし、ある日のこと。マイクがアメリカ政府から訴えられる。最初こそは簡単に人間違いぐらいだと思っていたアンだったのだが、内容が戦時中のハンガリーにおいてのユダヤ人虐殺の首謀者としてハンガリー政府からの身柄引き渡しとして父親が挙がっていることにアンはびっくり。今まで自分にとっては善良な父親であることしか知らないアンは父親の無実を信じて弁護を引き受けることを決意し、アメリカ政府と法廷で対決する。
 さて、裁判が始まってからは出るわ、出るわのマイクにとっての不利になる証言の数々。しかも、父親のハンガリー時代に聞かされていた生活が嘘だったことを知らされ、アメリカに来てからも自分の知らないところで父親が怪しい行動をしていたことを知ってしまう。それでも相手側の証人のスキを見つけることに長けているアンは裁判を有利に進めていき、無罪を勝ち取るところまで手が届きそうになるのだが・・・

 アンと相対するアメリカ側の検察が能力不足のおかげで辛うじてマイクが助かっているように見えてしまったのが残念。検察側がマイクがハンガリーで行ってきたことの酷さを矢継ぎ早に証人を引っ張り出して来てアピールしているだけ。ハンガリーでもかつてはユダヤ人虐殺が行われていて、その残酷さは伝わったが、それがマイクを有罪にする証拠にならないのが俺でもわかってしまった。
 アンにとっても、この裁判は心配していたよりも案外チョロいと感じたのかもしれないが、しかし被告人である父親の弁護士、娘という立場を離れて考えた時に、やはり父親は本当にケダモノだったのではないかと考えてしまう。人間のみならずある事象を色々な角度を変えて見ると、実は善悪の判断をつけるのかどれだけ難しいか本作を観ればちょっとぐらいは理解できる。
 さて、タイトル名の「ミュージックボックス」だが本作と何の関係があるのかと思われるかもしれないが、裁判で出される証拠品よりも重要な物として出てくるので、これは映画を観てのお楽しみに。
 サスペンスフルだし、家族の絆について考えさせられるし、アンが最後に取った行動の是非、ハンガリーの綺麗な風景、建築物が観れるし、まだこの映画が公開された1989年といえば米ソ冷戦の終末だったし、ハンガリーって前は共産党国家だったよな~なんて歴史を振り返ることができる。社会派映画でありながらエンタメであるように色々な内容が含まれる映画ミュージックボックスを今回はお勧めに挙げておこう

 監督はギリシア人のコスタ=ガブラス。本国ギリシャでもZという社会派映画を撮ってますがこれはお勧め。オリバー・ストーン監督のJFKは明らかにこの作品を模倣してます。ハリウッドに渡ってからも社会派映画の監督としての面目躍如の作品を撮り続ける。本作以外にも、ジャック・レモン、シシー・スペイセク共演のミッシング、ダスティン・ホフマン、ジョン・トラヴォルタ共演のマッド・シティがお勧めです。








 

 
 
 

 
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映画 めまい(1958) 途中までホラーかと思いましたが・・・ 

2023年06月30日 | 映画(ま行)
 最近は年齢のせいなのか立ち上がる時に、よくクラっとしてしまう。ア~めまいがすると思っていたのだが、どうやら立ち眩みと間違っていたらしい。さて、俺とは違ってめまいがして悩んでいる人は多いだろうな~と思わさせられた映画が今回紹介する映画めまい。本作の主人公の設定が高所恐怖症で、高い所から下を見てしまうと、眩暈(めまい)をおこしてしまう元刑事。本作の面白いところとして眩暈の表現の仕方が挙げられるだろう。冒頭のタイトルバックの眩暈を感じさせる描写が、実験的でいきなり惹きつけられる。他にも眩暈の表現方法が面白くて、この表現方法が後の映画にも多く使われているように後世に大きな影響を与えていることが本作を観ればよくわかる。

 さて、めまいというタイトルがあまりにもシンプル過ぎるが、ヒッチコック監督作品の中でも非常に実験精神が旺盛に感じさせるストーリーの紹介を。
 スコティ刑事(ジェームズ・スチュアート)は屋根の上を逃げる犯人を同僚の警察と一緒に追いかけていたのだが、犯人が楽々と飛び越えていく屋根から屋根をスコティはジャンプ力が足りずに、宙ぶらりんの状態になってしまう。その時に同僚の警察が犯人を追うのを止めて、スコティを助けようとするのだが誤って転落死。スコティは、そのショックから高所恐怖症による眩暈に襲われ、警察を辞職する。
 そんなスコティに昔の友人であるエルスター(トム・ヘルモア)から連絡がくる。彼の会社へ行って話を聞くと、「嫁さんのマデリン(キム・ノヴァク)の行動がどうも怪しい」とのこと。そして、マデリンの尾行をお願いされてしまう。
 スコティも刑事を辞めて時間を持て余していたので興味本位で驚くぐらい美人で眩しいぐらいの金髪であるマデリンの尾行を開始するのだが、とっくに亡くなっているカルロッタと書かれている墓標を訪れたり、美術館で一枚の絵をずっと観ていると思っていたら奇妙なことに絵のモデルが髪型から首飾りまでマデリンと同じ物をしていたり、他にも奇妙な行動を多く目にしていた。
 スコティは更に詳しくマデリンのことをエルスターから聞き出そうとすると、どうやら絵のモデルはカルロッタであり、しかも彼女はマデリンの祖祖母に当たる人物で自殺してしまったことを知らされる。しかもマデリンは時々気を失っては生前のことを語り出したり、死んでしまうのではないかと不安がったりで精神状態がオカシクなっており、彼女にカルロッタの霊が憑りついているのではないかとエルスターはマジで心配していた。
 更にスコティはマデリンの尾行を続けていると、海辺で彼女はしばらく立ち尽くしていたのだが、いきなり海に飛び込んで投身自殺を図ってしまう。その場に居たスコティはマデリンを助けて悩んだ挙句に自分の家へ連れて帰る。こうやってお互いのことを知っていく内に、2人の間には恋愛感情が芽生えるのだがスコティが更にマデリンの深層心理を探ろうとするのだが、そのことによってマデリンが教会の最上階から飛び降り自殺してしまうという最悪の結果を招いてしまい・・・

 いつもより長々と文章を書いた挙句に、ネタ晴らしまでしてしまったようなストーリー紹介になってしまったが、ここで映画が終わってしまうと悪霊に憑りつかれて自殺に導かれる単なるホラー映画になってしまう。しかし、この後からの展開が俺には結構ウケた。死んでしまった愛する女性が無くなったことに端を発するスコティのぶっ壊れぶりが凄い。ここのネタ晴らしは流石にこの映画の面白さを損ねてしまうので、映画を観て是非確認して欲しい。
 ストーリー紹介のところは、スコティが元刑事の割に尾行が下手過ぎたり、笑わしているのか怖がらせているのか反応に困るようなシーンが多く出てきたり、何だかテンポが俺には悪いように思えたりしたのだが、こんな落ちがじゃなくて、オチがつくとは俺の想像を超えた。
 不安を煽るような音楽や映像テクニックは非常に効果的だし、小道具の使い方の演出なんかはいかにも手馴れている感じをさせるあたりは、流石はヒッチコック監督だと思わせる。とにかく得体が不明のマデリンを演じるキム・ノヴァクがめちゃくちゃ綺麗。彼女の他の作品も何本か観ているが、本作の彼女はそれらとは別人か!?と思わせるぐらいの綺麗でミステリアス。ヒッチコック監督は女優を綺麗に撮ることに長けている。
 ヒッチコック作品の中でも本作は有名な方だが、なぜか本作を観ていない人、現実離れしたサスペンス映画を観たい人、細かい部分は気にならない人、少しばかり凝った作り込みがされた映画を観たい人、綺麗な女性を観たい人などに今回は映画めまいをお勧めに挙げておこう

 前述したように監督はサスペンスの神様と呼ばれたアルフレッド・ヒッチコック。今でもサスペンスタッチの映画は古今東西において多く撮られていますが、どれもヒッチコック監督の作品の影響を受けてしまっている感じがします。個人的に彼の好きな映画を3本だけ挙げると、北北西に進路を取れハリーの災難見知らぬ乗客、次点がバルカン超特急ってところです











 

  
 
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映画 マダムと泥棒(1955) 笑えるクライムサスペンス

2023年06月24日 | 映画(ま行)
 ハリウッド映画の泥棒映画を観ていると、驚くほどチームワークが悪かったり、なんでそいつを仲間に加えたんだ?なんて不思議に感じると同時に笑えたりすることもあったりする。そんな泥棒映画において、とにかく笑えるのが今回紹介する映画マダムと泥棒。古い映画ではあるが、本作はコーエン兄弟監督によってレディ・キラーズという邦題でリメイクされるほどの名作だ。
 本作が面白いのは、どう考えても犯罪計画が適当過ぎたり、映画史上において最悪のチームワークが見れたり等が挙げられるがそれ以上に犯罪集団とは真逆のタイプである『とにかく人が良過ぎて、お節介過ぎるおばあさん』の存在。この非常に場当たり的な登場人物の設定のおかげで愉快な犯罪映画を観ることができる。

 サスペンス感はユル~い気もするが、とにかく登場人物達が揃いも揃って大ボケをかましてくれるストーリーの紹介を。
 ロンドンのキングス・クロス駅の近くで、自分が住んでいる家を下宿屋として営んでいるウィルバーフォース婦人(ケイティ・ジョンソン)は大昔に主人を亡くして未亡人である。ある日のこと、彼女の元に部屋を音楽の練習を5人でするために二階の部屋を貸して欲しいとマーカス教授(アレック・ギネス)が訪れる。日頃、飼っているオウムしか喋り相手がいない彼女は少しは寂しさが紛れると思いマーカス教授達に部屋を貸す。早速、仲間を連れてやってきたマーカス教授たちだが、音楽の練習なんて言うのは嘘。彼らの目的は現金輸送車を襲うこと。マーカス教授は自分の計画を自画自賛して間違いなく成功すると確信していたのだが、人が良過ぎてお節介の度が過ぎるウィルバーフォース婦人に度々邪魔され、計画がはかどらない。少々苛立ってきた5人組だったが、マーカス教授はウィルバーフォース婦人も犯罪計画に彼女が知らないように巻き込もうと利用することを思い立つのだが・・・

 実はこの映画が面白くなってくるのが、大金を強奪してからの予想外の展開が起きてから。大金強奪するまでの展開はハッキリ言って単なる前振りに過ぎない。この5人組が泥棒だったことにウィルバーフォース婦人が気づいてから(もっと早く気づけよ!)が凄い展開。ネタバレは出来ないが、後半のイギリス流のブラックジョークを感じさせる怒涛の大ボケに、俺は笑ってはいけないシーンでも笑ってしまった。
 ストーリーもさることながら、セットとロケーションの融合が映像の見た目としては粗だらけだが、意外にこれが映画としては大活躍。この下宿屋の立地条件がどう考えても奇妙に思うのだが、これがクライマックスで活きてくるのには思わず唸らされた。それにしても頭にドッカンとくるような衝撃と相変わらずのウィルバーフォース婦人の天然ボケが最後の最後まで楽しませてくれた。
 コーエン兄弟のレディ・キラーを観た人も観てない人も楽しめるし、ゆる~いサスペンスが好きな人、少しぐらいは笑える映画が観たい人、俳優たちの演技によるアンザンブルを楽しみたい人等に今回はマダムと泥棒をお勧めに挙げておこう

 監督はアレクサンダー・マッケンドリック。本作のようなコメディ的な要素を全く感じられない社会派映画成功の甘き香りがお勧め




 
 
 
 

 
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映画 街の野獣(1950) 最低の主人公ですが・・・

2022年11月15日 | 映画(ま行)
 本作は1992年にロバート・デ・ニーロが主役で『ナイト・アンド・ザ・シティ』でリメイクされているほどの名作。ロバート・デ・ニーロが好きな俺は『ナイト・アンド・ザ・シティ』を観ていないのだが、確かに今回紹介する映画街の野獣は面白いし、リメイクしたくなるのも理解できる。特に本作で印象に残るのが主役のリチャード・ウィドマークの強烈なダメっぷり。貴方の周りにも居るだろう、一発当てて大儲けしようとしてドンドン深みに入って借金で首が回らなくなっている人を。俺の周りにも酒が飲みたくてもカネが無いために、飲み代をピンハネしてタダ同然で飲んでいる奴を見かけるが、本当に格好が悪いし、せこ過ぎる。
 しかし、本作では泥沼から這い上がるために一発逆転を狙って人生を賭けた勝負にでる登場人物が出てくる。やばい投資話や献金を迫る奴がこの世の中には多いが、本作を見ればそんなインチキに引っかかることを避けることができるだろう。

 それでは欲望渦巻くロンドンを舞台に一発逆転を夢見る人間模様を描いたストーリーを紹介しよう。
 インチキで酒場の客引きをしているハリー(リチャード・ウィドマーク)だが、騙した相手から常に追いかけられている。しかし、彼には酒場で踊り子をしている恋人メアリー(ジーン・ティアーニ)がおり、彼女はハリーに堅気になってもらいたいと思いながらも、ついついお金を貸してしまう。
 ある時、ハリーはプロレス興行の客引きをしていると、試合内容に大いに憤慨しているかつての名レスラーであるグレゴリウス(スタニスラウス・ズビシュコ)を見かける。ハリーは上手くグレゴリウスに取り入り、彼の知名度を生かしてプロレスの興行で一旗立てようとし、酒場の店主であるフィル(フランシス・L・サリヴァン)に投資話を持ち掛けるのだが、一笑に付される。しかし、それに食いついたのがフィルの妻ヘレン(グーギー・ウィザース)。彼女はフィルと別れたがっていて、自分の店を持ちたいという企みがあったのだ。運はハリーに味方するかと思われたのだが・・・

 この映画を観ていて一番不思議だったのが、なぜジーン・ティアニーみたいな美人で心も綺麗な女性が、究極のダメ男を好きになってしまうのか!ということ。しかし、こういう不憫な女性が登場するから映画の方も面白くなり、少しばかり悲しい気分を味わえる。
 俺なんかは金持ちになりたくないし、まあ明日を生きることができるカネさえあれば充分に幸せを感じる男なのだが、ハリーが俺とは真逆の人間。一攫千金という言葉は響きは良いが、命を懸けまで一気に成り上がろうとしてはダメだということが本作を見ればよくわかる。こういう人間は周りの人間まで不幸にしてしまうから、ロクでもない。自分で汗をかいて稼いだカネでビールを呑むのが、美味しいし幸せを感じる。
 ちなみに本作は当時のプロレスシーンを見れるし、ロンドンの裏社会の厳しさを知ることが出来る。仕事をすることの有難さがわかり、とことんダメになる人間の姿を知ることが出来るし、インチキな宗教に騙されないための教訓にもなる映画として今回は街の野獣を紹介しておこう 

 監督はハリウッドで活躍しながらも赤狩りにあってしまってアメリカ国外で映画を撮らざるをえなくなってしまったジュールズ・ダッシン。ハリウッドよりもアメリカ国外で映画を撮るようになって、更に名声を広めた。多くの映画に影響を与えた泥棒映画トプカピ。当時撮影所を飛び出してオールロケを敢行した裸の町、バート・ランカスター主演の刑務所脱獄を凄い迫力を持って描いた真昼の暴動がお勧めです。
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映画 真昼の暴動(1947) 刑務所脱出劇です

2022年05月02日 | 映画(ま行)
 刑務所脱出劇をテーマにした映画は今までも多々あるが、迫力を最も感じさせるのが今回紹介する真昼の暴動。だいたい脱出映画と言えば囚人側が頭を使って巧みに抜け出そうとするものだが、本作の脱出劇は少々の頭は使うのだが、殆どが力技。堂々と火炎瓶を投げたり、車で扉に突撃したり、殆どの囚人が機関銃の餌食になってしまう。
 本作の見所の一つが看守長の極悪っぷり。権力欲にまみれ、囚人を脅して脱獄と引き換えにスパイをさせたり、他の看守も目や耳を塞ぐほどの暴力制裁。この看守長が背の低いヒューム・クローニンが演じるのだが、名演技のおかげで、ひじょうにムカつかせる。そして、獄房に放り込まれている5、6人の連中がいるのだが、こいつらの捕まった経緯を説明されたりするのだが、これが少し気の毒で泣かせる。看守長の横暴や囚人達のシャバへの熱い想いが、成功しようがしまいがシャバの世界へと向かわせる、熱い刑務所脱獄劇だ。

 さて、アメリカで繰り返させる脱獄に対する皮肉を最後に交えた見所満載のストーリーの紹介を
 ウエストゲート刑務所において、コリンズ(バート・ランカスター)が独房から戻ってくるのを、彼らの仲間である囚人達が獄中の窓から見ている。戻ってきたコリンズは皆にこんな刑務所にいてると一生を過ごさないといけないと諭し、みんなで脱獄しようと提案する。コリンズには早く脱獄しなければいけない理由があるのだが、なぜか脱獄計画が看守長のマージン(ヒューム・クローニン)にバレバレ。次々と囚人の中にマージンに脅迫を受けて脱獄計画に対するスパイになってしまう人間がでてくるのだ。
 しかし、コリンズは脱獄を急ぐ。マージンが更に出世するともう刑務所からは出られない。コリンズはある計画を立てて脱獄計画を実行しようとするのだが、やはりマージンに脅迫されてスパイになった者の存在に気付くのだが・・・

 ヒューム・クローニン演じる看守長が前述したがすごい卑怯者。囚人の中にはスパイ活動をマージンから頼まれたら最悪。断って仲間を裏切ろうとするとマージンの鉄拳が下されるし、囚人仲間からバレると囚人達から殺される。囚人の中にはマージンからスパイになるように命令され自殺したしまう者まででてくる始末。あまりにものマージン看守長のクズさに、囚人に同情してしまった。しかも、囚人達は獄中の中に貼っている女性の書かれた絵を見て、昔の彼女や嫁などを常に想い、生きる糧にしているのが泣ける。この囚人達の中には愛した女性のために刑務所に入れられてしまったものも居るのだ。
 囚人に哀れさを感じさせるほど看守長の行いが非道なのだが、最後の脱出劇がなかなかの迫力を見せる。古い時代の映画だから本物の炎が燃えているし、機関銃を浴びせられる多くの囚人が倒れていくシーンなど凄さを感じる。囚人達を慰め、マージン看守長のやり方を苦々しく感じている医者の存在も良い。そして、意外に結構短いシーンだが美女がちょっとばかり出てくるのもポイントが少しだけ高くなる。
 この世の中において弱者を暴力で抑え込むことの愚かさを痛烈に感じさせる映画真昼の暴動をお勧め映画に挙げておこう

 監督はジュールス・ダッシン。本作は彼のアメリカ時代の作品で後に悪名高いマッカーシー旋風、俗にいう赤狩りに遭ってアメリカから活動の舞台をヨーロッパへ移しますが、ハリウッドよりもヨーロッパ時代の作品の方が個人的には気に入っている。豪華な泥棒映画トプカピ、ロマンチックコメディの日曜はダメよがお勧め。



 
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映画 眼には眼を(1957) 猛烈な復讐劇です

2021年04月07日 | 映画(ま行)
 タイトル名の由来は多くの人が知っている『眼には眼を歯には歯を』。この言葉の意味を、やられたらやり返せ、なんて復讐することを強く勧める時に使っている人を見かける。しかし、もっと深く意味を探っていくと『被害者が被った傷に対して、同等の傷を加害者にも与え返すこと』。同等というところが重要で、ドラマで流行った台詞である『倍返しだ』なんて仕返しは、『眼には眼を歯には歯を』の範疇を超えていることになる。
 さて、今回紹介する映画眼には眼をだが、イスラム圏の中東の国を舞台にした復讐劇。しかしながら本作はフランス映画であり、怖い目に遭うのがフランス人。そして監督のアンドレ・カイヤットが社会派映画を多く撮っていることを知っていれば、本作が単なる復讐を描いたサスペンス映画以上の深読み可能な映画に思える。

 ちょっとばかり、どころか理不尽にさえ思える復讐劇のストーリーの紹介をできるだけ簡単に。
 ある中東の国において。フランス人医師ヴァルテル(クルト・ユルゲンス)は長時間に及ぶ手術を終えて自宅でくつろいでいた。そこへ、『妻の容態が悪くなったので診察してくれ』と現地人のボルタク(フォルコ・ルリ)がやって来る。しかし、ヴァルテルは病院へ行けば他の医者が居るから診てもらえと追い返す。
 翌朝、ヴァルテルが病院へ向かうとビックリ。ボルタクの奥さんは若い医者の誤診による手術の失敗で死んでしまっていた。そこからボルタクのヴァルテルに対しての嫌がらせが始まる。最初は迷惑電話に始まり、怪しげな尾行。ところがそんなものは序の口で・・・

 実は面白くなるのはストーリー紹介の後から。ボルタクは巧みにヴァルテルを砂漠に誘い込み、とことん連れまわす。その連れまわし方が半端ないドエスっぷりを発揮する。例えば、こんな感じだ。一緒に高所のケーブルに乗り込むのだが、ヴァルテルの持っていた食料と飲料水を偶然を装って落としてしまう。また、とことん疲労と渇きで消耗し切ったヴァルテルに対し、あの小高い山の向こうに見えるのが目的地だよと言って、見に行ってみると見えるのは果てしなく続く砂漠の山岳地帯の景色のみ。そして、あそこに井戸がありますよ、なんて教えられて行ってみると空井戸だったり、肉体のみならず精神的にもとことん追い詰める。ヴァルテルの整えられていたヘアスタイルが次第にハゲ激しく乱れていくのが何とも哀れだ。そして、観ている我々はボルタクの真意を知った時に、『眼には眼を』の意味を理解する。
 正直なところ、ヴァルテルは医者として法律を犯したわけでもなく、倫理的に問題があったとは、個人的には思えない。偶然にも不運が重なり、ボルタクの奥さんが亡くなる不幸があった。実際にヴァルテルも少しは反省しているような行動も見られる。しかし、イスラム社会と西洋社会の異なる価値観の違いがとんでもない悲劇をもたらすことがあるように、相手の本性を見誤ると酷い目に遭うのは俺も経験している。そして、本作が優れているのが、単なる復讐劇で終わらないところ。その後にとことん追い詰められた人間の本性が描かれているのだが、最後に強烈な結末を見ることができる。
 本作を思い返すと、話が都合よく進み過ぎているきらいがあるが、観ている最中はそんなことに全く気付かない。なかなか先行きが読めないから飽きさせないし、それでいて社会派的な面を見せる映画。そして、なるべく人から恨まれるような行為を避けなければいけない、という教訓を得られる眼には眼をを今回はお勧め映画として挙げておこう

 監督は前述したアンドレ・カイヤット。陪審制度についての是非を問いかけるような裁きは終わりぬをこの機会にお勧めしておこう。
 

 
 



 
 

 
 

 
 

 
 
 
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映画 マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016) 悩める大人のストーリー

2021年02月08日 | 映画(ま行)
 人生なんて常に選択の連続であり、後悔の連続でもあるというのは大人になればなるほど痛感する。まあ、俺なんかもそのようなことを思いながら日々を過ごしているが、しかしながら後悔どころか、ちょっとした油断で悲劇に見舞われてしまっている人もこの世の中に存在する。そんな大人を主人公にした映画が今回紹介するマンチェスター・バイ・ザ・シー。俺なんかはこのタイトル名を見て、イングランドのサッカーチームを想像したのだが、実はアメリカに実際にある町の名前。この町を故郷とする男に襲い掛かる悲劇、そして面倒くさい選択を迫られる様子が描かれる。

 すっかり自暴自棄になってしまった男に救いの手はあるのか!?それではストーリーの紹介を。
 ボストン郊外で便利屋として働いているリー(ケイシー・アフレック)は、あまりにも不愛想なために客からはクレームの連続。しかも、酒場で見知らぬ人に対して喧嘩を吹っ掛けたりするなど問題が多すぎる男だ。そんな彼の元に故郷の町マンチェスター・バイ・ザ・シーから兄ジョー(カイル・チャンドラー)が心臓疾患で死んでしまったことを告げられる。故郷へ戻ったリーだが兄の遺言書の内容を知ってビックリ。ジョーの16歳になる息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に指名されていたのだ。しかしながらリーはこの町で過去にとんでもないことを経験しており、ずっとこの町に留まることはできない理由があったのだが・・・

 ストーリー構成は過去と現在が交錯する。そのことによって観ている我々は過去にリーがこの町で引き起こしてしまった事故を知ることになる。そりゃ~、こんな経験をしたら故郷から離れたくなるし、もう二度と故郷に戻りたくないよね~なんて俺でも思うかもしれない。しかしながら、兄の遺言によって再び故郷へ引きずり込まれ、否が応でも忌まわしい過去の出来事と向き合うことになってしまうのだ。
 しかも、兄の息子である甥っ子のパトリックがリーにとっては非常に悩ましい存在になってくる。この甥っ子との関係は昔から良好で今もその関係は変わらない。本当は後見人に指名されたことはリーにとっては、これからの人生に希望を与えるように思える。もしかしたら兄もすっかり生きがいを無くしてしまっている弟のリーのために、このような遺言を残したのではないかとさえ思えてくる。しかし、それでもリーには暗さが付きまとう。過去の悲劇を乗り越えようとすることの、苦しさ、厳しさを観ている我々にも突きつけるのだ。
 本作の特徴としては全体的に重苦しく、暗いトーンで進むが、登場人物達の会話のシーンにユーモアがあること。この会話がそれぞれにおいて噛み合っていないのが笑える。そして、そんなシーン要る?なんて場面があったりする。特に、このタイトルの町の風景を映し出すショットが途中で入り込んだりするところ。神経質な俺は、これらのシーンには何かメタファーが込められているのかと深読みしてしまいそうになった。
 時々、すっかり打ちのめされてしまった人に対して、過去のことを引きずって何時までもクヨクヨするな!なんてアドバイスをする人が居る。しかし、そんなアドバイスで立ち直れるのは超ポジティヴな人だけ。多くの人にとっては迷惑なアドバイスにしかならない。そもそも過去の出来事は消え去ることは無いし、過去に受けたショックな経験を忘れることなんかは無理。しかし、それでも大丈夫だということは本作を観ればわかる。色々なことを経験をしている大人達、抜け出せない苦しみにもがいている人、ネガティヴな気分になっている人等に今回はマンチェスター・バイ・ザ・シーをお勧めとして挙げておこう

 

 
 

 

 

 
 

  
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