褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 ライムライト(1952) 生きる希望があふれてきます

2025年01月01日 | 映画(ら行)
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 映画史において最も偉大な映像作家といえば喜劇王とも称されるチャールズ・チャップリンが挙げられるだろう。サイレント時代を経て、トーキーに時代が変わっても名作を作り続けた。彼の作品には社会や政治的メッセージをテーマにぶっこんでくる時があるが、今回紹介するライムライトは純粋なヒューマンドラマだ。もう本作の頃になるとチャップリンも60歳を超えている年齢であり、晩年の作品に当たるだけに、彼の心情が吐露されているように感じる。そして、チャップリンと言えば、ちょび髭、山高帽にステッキを持ち歩いているイメージがあるが、そんな出で立ちを本作では封印している。

 老境に差し掛かったチャップリン演じる主人公と若きバレリーナとの交流を描いたストーリーの紹介を。
 今ではすっかり落ちぶれてしまったコメディアンのカルヴェロ(チャールズ・チャップリン)は、同じアパートに住む若き女性テリー(クレア・ブルーム)が自殺しようとしているのを助ける。バレエの踊り子をしていたテリーだが、すっかり人生に希望を見出せなくなっていて、足も麻痺して立ち上がれないでいた。
 しかし、カルヴェロはそんな彼女を励まし続け、ついに彼女は自力で立ち上がれるようになる。そして、テリーは順調にバレリーナとして成功するのだが、相変わらずカルヴェロは舞台に立ってもスベリっぱなし。逆にカルヴェロがテリーから励まされるようになり・・・

 アパートの家賃が払えなくて、持っている物を質に入れてしまうほど困窮してしまっているチャップリン演じるカルヴェロが、希望を失っているテリーを励ます言葉が名言の連発。一瞬、お前が言うな!とツッコミそうになったが、落ちぶれている奴が言うからこそ説得力がある。そして、テリーが立ち上がるシーンはクライマックスが来たのかと思えるほどの感動もの。またテリーが踊らなければならない時に、『やっぱり私、踊れないわ~』と弱音を吐くシーンがあるが、カルヴェロがテリーにビンタを喰らわさせて踊れるようにする。そんなシーンを見て、人間には勇気が大切だと感じさせられた。いくら今の時代だからと言って、あのシーンはパワハラだと言って本作を貶めるような奴は居ないだろう。
 テリーは若くて将来が有望な作曲家から告白されるが、それでも落ちぶれているカルヴェロと結婚したがる純粋さには泣けてくるし、これこそ本当の愛だなと感じさせる。そして、そのことに対してカルヴェロも男のプライドを見せる展開は熱いものが込み上げてくる。カルヴェロがあのままテリーに甘えてしまう展開になっていたら何の感動も得られないだろう。
 そして、本当のクライマックスはチャールズ・チャップリンバスター・キートンの共演シーン。映画がサイレントだった頃、この2人はまさにライバル関係にあったのだ。バスター・キートンの映画も何本か観ているが、ガチのアクションシーンを見ることができる。それにしても当時の人たちは、この2人の共演をどのように感じていたのだろうかと思いを馳せてしまう。そして、チャップリンは作曲も本作では担当しているのだが、冒頭と最後に流れてくるがこれが名曲過ぎて感動する。
 そんなわけで、老いと若さの対比がペーソスを持って描かれるライムライトを年初めの一発目のお勧め映画に挙げておこう

 監督は前述したチャールズ・チャップリン。サイレントでは黄金狂時代街の灯そしてモダン・タイムスがお勧め。トーキーに入ってからは独裁者殺人狂時代がお勧め







 
 
 

 

 



 

 







 

 

 





 
 

 
 
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映画 ライアンの娘(1970) 圧巻の映像で不倫を描く

2024年12月17日 | 映画(ら行)
 デヴィッド・リーン監督の特徴といえば、アラビアのロレンスに代表されるようなスペクタクルな映像シーンを挙げることができるだろう。他の監督の作品だと見た目が派手なだけで、中身がスッカラカンで内容が乏しい映画も時々見かけるが、今回紹介する映画ライアンの娘については、そんな心配は全くの無用。不倫というモラルを問われるテーマを扱いながらも見所満載の映像と説得力のある内容が繰り広げられる。
 さて、ストーリーの説明に入る前に本作の時代背景に少し説明した方が良いだろう。現在はイギリス領である北アイルランドとアイルランド共和国がアイルランド島を分裂して存在しているが、本作の時代はアイルランド島全体がイギリス領であった頃を背景にしている。アイルランド人たちは自らの祖国を取り返すためにアイルランドに駐屯していたイギリス軍と対峙していたのだが、そんなアイルランド独立戦争勃発直前というのが時代設定として本作は描かれる。

 反イギリス感情が高まるアイルランドの寒村を舞台にしたストーリーの紹介を。
 ダブリン(アイルランドの首都)から教師をしているチャールズ(ロバート・ミッチャム)が帰ってくるのを待ちわびていたのが、かつて彼の教え子であった若き美しい女性ロージー(サラ・マイルズ)。今では尊敬から恋愛の対象になってしまったチャールズに対して、ロージーは猛アタック。その甲斐もあり年の差を超えて二人は結婚する。しかしながら、ロージーは平凡な彼との結婚生活に退屈さを感じていた。
 そこへ新しくイギリス軍基地に赴任してきたのが若き将校であるランドルフ(クリストファー・ジョーンズ)。ロージーが父親であるトーマス・ライアン(レオ・マッカーン)が営む酒場で働いている時に、客としてランドルフがやってくる。そのことを切っ掛けにロージーとランドルフは不倫への道へと突っ走り・・・

 チャールズとロージーの年の差カップルだが、結婚する前後のシーンだけで、あ~この2人は上手くいかないんだな~と思わせるような場面が示唆的に描かれる。しかしながら、本作が面白くなるのはイギリス人将校のランドルフが登場してからだろう。不倫だけでも大問題なのだが、よりによってアイルランド人にとっては憎きイギリス人と恋愛感情に陥るとは。前述したイギリスとアイルランドの関係を予備知識と知っていれば、この不倫が相当思い切った行為であり、単なる不倫以上の重さを感じることができる。しかしながら、さすがはデヴィッド・リーン監督というべきなのか、不倫に陥る映像表現がめちゃくちゃ美しい。特に森林の中での官能的シーンは印象的だ。
 本作のテーマは不倫だが、それ以上に観ている者に考えさせられることがある。それは妻が不倫しているのに、そのことを咎めようとしないチャールズの考え。すっかりそのことに気付いているのに、なぜ黙っているのか。見たところ夫が気が弱いとか、若妻の尻に敷かれている風でもない。チャールズから出てくる台詞に「いつか君が戻ってくると信じていたんだよ」なんて甘っちょろいことを言っている。しかし、俺にはわかる。これが男の優しさであり、本当の男ならではの器量の広さ。理由はどうであれ愛する女性に対しての接し方を、タフガイスターでならしたロバート・ミッチャムから学ぶことが出来る。
 そして、ロージーの不倫相手のランドルフだがこの男を単なる悪者として描いていないのが良い。この映画の中で最も戦争の被害に遭っている人物として描かれる。彼の戦争によって負わされた傷は肉体的よりも精神的の方がダメージを大きいことが見ていてわかる。戦争の悲惨さは命を奪ってしまうことはもちろんだが、精神に与えるダメージもある。ランドルフの存在によって本作は反戦映画の意味合いもある。
 そして、恐ろしいシーンが後半で待っている。アイルランド独立戦線の武装派がイギリス軍に捕らえられてしまうのだが、密告の疑いがロージーに向けられてしまう。ロージーが密告犯でないことを知っていながら、イギリス人と不義を通じているだけでリンチに掛けてしまうように集団心理の恐ろしさをまざまざと思い知らされる。支持率100パーセントを目指している人間がいるが、実はそれは危険な思想だということがよくわかる。マイノリティの考えの重要性、他人の意見にも耳を傾けることの大切さを惨い場面から教えられる。
 映像的には海岸沿いの撮影が非常に印象的。まさにアイルランドってこんな風景だよな~と感じさせられるところは、この監督らしさが出ている。他にもロージーに対して厳しさと優しさの両面から説教する神父(トレヴァー・ハワード)や、しゃべることが出来なくて村の人々から馬鹿にされているマイケル(ジョン・ミルズ)の存在も惹かれる。3時間を超える映画なのでそれなりに忍耐力を必要とするが、決してダレルことはない。色々なテーマを内包し、見所満載の映画ライアンの娘をお勧めに挙げておこう

 監督は前述した通りデヴィッド・リーンアラビアのロレンス以外にもお勧め多数。本作と同じく不倫をテーマにした逢びきは見比べて観るのもあり、反戦映画の傑作戦場にかける橋、飛行機の発展を感じられる超音ジェット機、これまた不倫を描くドクトル・ジバゴがお勧め


 

 
 
 
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映画 ロリータ(1962) ロリコンの語源になっています

2024年12月13日 | 映画(ら行)
 いい年をしたオッサンが少女に恋愛感情を抱くことをロリコンと呼ぶ。実はその語源ともなったのが今回紹介する映画ロリータ。気持ち悪い映画を想像しそうになるが原作はウラジーミル・ナボコフによる同名タイトルの小説。1955年に出版されて以来、今や20世紀を代表する名作との評判だ。ストーリーの方も40歳を超えているように見える大学教授のオッサンが少女ロリータ(原作では12歳の設定)に恋愛感情を抱くスキャンダラスな内容。実際にヨーロッパの各国においては発禁されていたり、アメリカでも当初はポルノ文学の扱いを喰らってしまったようだ。
 そんな問題作を出版されてから、それほど間をおかずに映画化されたのが本作であるが、実際のところロリータ役の女性がマセて見えるし、モノクロの画像のおかげでそれほど気持ち悪い印象は受けない。そして、作り手側の意図はわからないのだが、オッサンと少女のエロシーンは無いので安心して見られた。

 インテリのおっさんの方が、一方的に少女にのぼせ上がるストーリーの紹介を。
 冒頭から、大学教授のハンバート(ジェームズ・メイソン)が飲み干した酒瓶だらけの邸宅に乗り込んで、クレア(ピーター・セラーズ)を射殺するシーンから始まる。一体この2人の男の間には何があったのか?時は4年前にさかのぼる。
 ハンバートは大学の講義のためにフランスからアメリカにやって来たのだが、講義が始まるまでの夏休みの間の宿泊地を探すために未亡人であるシャーロット・ヘイズ(シェリー・ウィンタース)の邸宅を訪ねていた。ハンバートはこの家は趣味に合わないからと外へ出ようとした時、シャーロットの娘である少女ロリータ(スー・リオン)が水着で芝生の上で寝そべっているのを見て、急に心変わりをしてヘイズ宅で宿泊することになる。
 ハンバートはシャーロットに気に入られて結婚を申し込まれるのだが、ロリータと一緒にずっと居られるのを幸いにシャーロットと結婚する。しかし、シャーロットはハンバートの心が娘のシャーロットに向かっていることに気付き、正気を失ったシャーロットは雨が降る中、家を飛び出し、自動車事故に遭い死んでしまう。
 当初は気落ちするハンバートだったが、これを幸いと彼はロリータが居るキャンプ場に向かい、これからはずっとロリータと一緒に居られることにウキウキ気分になる。ハンバートは車でロリータを連れて色々なところを旅行しようとするのだが、不審な車が後を追いかけてくるのに気づき・・・

 最初はサスペンス映画のような出だしだったのだが、やっぱりこれはロリコンを描いた映画。40歳は超えているように見えるハンバートのロリータに対する偏執狂的な恋愛感情が描かれている。ハンバートから見たらロリータは義理の娘になるのだが、ロリータの帰宅が遅いと激しく問い詰めるし、少しでもロリータに男の影がチラつくと嫉妬する。ロリータの年頃を考えると普通の行動に見えるのだが、この義理の父親はとことんロリータを縛りつける。
 そして、ロリータは見事にハンバートから離れることに成功する。3年間もハンバートはロリータを探し続けるのだが、ある事を切っ掛けに2人は再会を果たすのだが、この時のハンバートの泣き叫ぶ様子が見ていて気持ち悪いし、男のアホさが全開している。ハンバートの40年以上の人生の内、ロリータと一緒に過ごした時間などごくわずかなのに、全財産をロリータに渡してしまう。しかも、ロリータには秘密があったのだが、このことに気付かなかったハンバートの間抜けさに俺は笑ってしまいそうになった。そして、冒頭のシーンに繋がるわけだが、本作は単にロリコンの様子を描くだけでなく、インテリに属する人間の倫理の崩壊を皮肉っていることに気付いた。
 ちなみに本作の監督は天才スタンリー・キューブリック。本当はもっとオッサンが少女に固執していく姿を描きたかったと思うのだが、時代的に彼をもってしてもここまでが限界だったのか?と思わせる。どこか控えめで才気が爆発したような作品になっていないのが残念な気がする。
 ロリータというタイトルに惹かれた人、スタンリー・キューブリック監督の名前は知っているが本作をまだ見ていない人、インテリが落ちぶれていく姿を見たい人、熟女よりも女の子が好きな人等に今回は映画ロリータをお勧めに挙げておこう

 監督は前述したようにスタンリー・キューブリック。SF映画の金字塔2001年宇宙の旅は万人にお勧めとは言えないが、一度は見てほしい。他にお勧めは自由を求めて戦うスパルタカス、競馬場の現金強奪を描いたサスペンス現金に体を張れ、ヨーロッパの貴族社会の栄枯盛衰を描くバリー・リンドン、スティーヴ・キング原作のモダンホラーの傑作シャイニング、人間の本質をとことん抉り出した時計仕掛けのオレンジ、放送禁止語句の乱れ撃ちのベトナム戦争映画フルメタルジャケット、原爆の危機をブラックジョークで描いた博士の異常な愛情 がお勧め








 
 

 

 
 
 
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映画 ラ・スクムーン(1972) フランス製ギャング映画

2024年11月10日 | 映画(ら行)
 ギャングやヤクザをテーマにした犯罪映画なんかは今までも多く制作されてきているが、フランス製の犯罪映画となるとハリウッドのド派手なドンパチとは違って渋い雰囲気がある。そんなフランス製犯罪映画の魅力が詰まっている作品が今回紹介する映画ラ・スクムーン。当時フランス映画界でアラン・ドロンと双璧をなした人気者であるジャン=ポール・ベルモント主演の傑作だ。
 ちなみに本作で監督を務めるのがジョゼ・ジョヴァンニだが、彼の原作小説(ひとり狼)が基になっており自ら監督に乗り出している。ちなみにこの人は元々が強盗犯。その時の経験を小説に書いてきた人だが、本作も彼の経験が大いに活かされている作品である。

 早速だが、ベルモンド主演の作品の中でも面白い部類に入るストーリーの紹介を。
 1943年のマルセイユ。暗黒街であるマルセイユにおいて勢力を伸ばしつつあったザビエ(ミシェル・コンスタンタン)はボスの気に障り、罠に嵌って刑務所に送られてしまう。ザビエの親友であり、ラ・スクムーン(疫病神の意味)と仇名されるロベルト(ジャン=ポール・ベルモント)は親友を助けるためにマルセイユへやってくる。
 ロベルトは、マルセイユに到着して早々に刺客を向けられるがアッサリと返り討ち。逆にボスの所へ向かって成り行きでボスを射殺してしまい、ボスの縄張りを得ることに成功するのだが、裁判は非情にもザビエを強制労働20年の宣告。ロベルトはザビエの妹であるジョルジア(クラウディア・カルディナーレ)と協力してザビエを助け出そうと計画するのだが・・・

 親友を刑務所からの救出作戦がメインかと思いきや、ロベルトもザビエと同じ刑務所内にぶち込まれてしまうことになる。そこから脱獄作戦が見れるのかと思いきや、そんなシーンは全くないし、それどころか過酷な労働条件をのんで刑期を全うするのだが、ロベルトはあまりにもの代償を払うことになってしまうことに涙が出そうなる。
 暗黒映画ではあるが、実はロベルトとザビエの友情に胸が熱くなるストーリー。その友情の結末の悲哀はこれぞフランス製と言えるだろう。音楽は聴き心地が良いし、オープニングシーンが凝っている。そしてジョン・ウー監督が本作に大きく影響を受けていることがわかるアクションシーンも楽しい。
 実は本作品は同じベルモンドが同じ役を演じた勝負(かた)をつけろのリメイク作品。リメイク基はモノクロの映像だったが、本作はカラー作品。カラーにすることによってベルモンドの白色のマフラーは映えるし、クラウディア・カルディナーレが非常に華やか。なぜジョゼ・ジョヴァンニ監督が改めて自らの小説の作品をリメイクしようとしたのか理由が少しばかりわかったような気がした。ちなみに勝負(かた)をつけろとはエンディングが違うがこちらもお勧めだ。
 伝統的にすら感じさせるフレンチノワールに興味がある人、格好いいジャン・ポール=ベルモンドを見たい人、渋い暗黒街を描いた映画を観たい人には今回はラ・スクムーンをお勧めに挙げておこう

 監督は前述したように小説家であり強盗犯だったジョゼ・ジョヴァンニ。他ではアラン・ドロンとジャン・ギャバンが共演した暗黒街のふたりがお勧め。










 
 
 
 
 
  
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映画 レイジング・ブル(1980) デ・ニーロ・アプローチを見ろ!

2024年01月21日 | 映画(ら行)
 先日シルベスター・スタローンとロバート・デ・ニーロのW主演によるボクシング映画のリベンジ・マッチをアップしたのだが、なぜかロバート・デ・ニーロ主演の映画レイジング・ブルを観たくなった。スタローン主演のロッキーシリーズがどん底から立ち上がるような、非常に心地良くなるようなサクセスストーリーを描いていて多くのファンもいる。一方、今回紹介するレイジング・ブルの方だが、同じボクシング映画でもロッキーシリーズとは真逆のような展開。しかし、数多くあるボクシング映画の中でも傑作との評判の名作だ。
 本作の見所として、ボクシング映画ならではのファイトシーンも見応え充分だが、ロバート・デ・ニーロの代名詞とも言われる究極の役作りにこだわったデ・ニーロ・アプローチ。ボクサー時代の研ぎ澄まされた肉体改造だけでなく、引退してからのブヨブヨに太った肥満体を造り上げたように大幅な体重増(およそ20キロ以上)を敢行するなど、狂気さえ感じさせるデ・ニーロ・アプローチを本作で見られる。まあ、今では役作りのために体重を増加させたり、減量するような俳優はいるが、本作が公開された時代にはそんな俳優は滅多に居なかった。本作が後の俳優に与えた影響は大きい。

 ちなみに本作のレイジング・ブルのタイトルの由来は『怒れる牡牛』。実在したミドル級世界チャンピオンだったボクシング選手のジェイク・ラモッタのニックネーム。ジェイク・ラモッタの自伝映画だが、彼の栄光を感じさせる部分は少しだけ。むしろ暗い気分になるぐらいの転落っぷりが描かれている。

 モノクロの映像に主人公のダメっぷりが、これでもかと描かれているストーリーを紹介しよう。
 1941年、デビュー以来無敗をほこっていたジェイク・ラモッタロバート・デ・ニーロ)は相手から7回もダウンを奪ったのに疑惑の判定で敗れる。そんな怒りを嫁や弟でマネージャーのジョーイ(ジョー・ぺシ)にぶつけてしまう。しかも、市営プールで偶然目にした金髪美女のビッキー(キャシー・モリアーティ )と妻が居るのに関わらず公然とビッキーと付き合い、結婚までしてしまう。
 その後、再び連勝街道を突き進むジェイク・ラモッタ。当時は無敵であり、後の宿命のライバルになるシュガー・レイ・ロビンソンに土をつける。しかし、その後にタイトルマッチに挑戦するために八百長に加担し、ミドル級チャンピオンに輝くも次第に家族を省みなくなったラモッタは次第にビッキーが他の男と付き合っているのではないかとの強迫的なまでの猜疑心に襲われ、ついにはビッキーと弟のジョーイの仲まで疑ってしまい・・・

 ジェイク・ラモッタがとことん嫌な奴。チャンピオンにまで上り詰めるが、孤独に陥り、破滅に追い込まれる。本作を観れば何時の時も調子に乗り過ぎるなと痛感させられる。そして、ボクシングシーンでは結構な血量がぶっ飛び、監督の演出力を感じさせる暴力的なシーンも多く出てくる。この暴力シーンこそ流石はマーティン・スコセッシ。人間の狂気、破滅、暴力を描かせたらこの監督の独壇場だ。
 そして、ボクシングを引退して芸人を生業とするジェイク・ラモッタが、なんだか難しそうな台詞をぶつぶつ呟くシーンがある。自らの人生の過去を振り返る姿に、当時30歳代後半に差し掛かったマーティン・スコセッシ監督の人生を知っている者には非常に興味深く感じられる。この監督もまた大きな挫折を味わっているのだ。
 映画には監督と俳優の名コンビというのがあるが、本作のマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロがまさにソレ。そんなコンビ作品の中でも本作はその頂点を極めているか。そして、弟役のジョーイを演じるジョー・ぺシが良い。彼もまたその後のマーティン・スコセッシ作品やホーム・アローン、リーサル・ウェポンといった人気シリーズでアクの強い演技を見せつける名優ぶりが本作で垣間見えるのが映画ファンには嬉しいところだ。
 ボクシング映画に気持ちの良いストーリーを求める人には本作は向かない可能性があるが、監督、俳優のこだわりが見れる映画を好む人、破滅、転落を描いた映画が好きな人、古い映画に興味がある人ならばレイジング・ブルは満足できるだろう

 監督は前述したようにマーティン・スコセッシ。お勧め作品多数。本作と同じくロバート・デ・ニーロとジョー・ぺシも共演しているグッド・フェローズカジノがお勧め。他にはこのコンビの最高傑作だと思っているキング・オブ・コメディ、そしてブラックコメディなアフター・アワーズをお勧めに挙げておこう









 

 
 
 
 
 

 
 
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映画 リベンジ・マッチ(2013) 遺恨マッチです

2024年01月16日 | 映画(ら行)
 すっかりガス欠を起こしてしまい久しぶりの投稿。これからはもう少し頻度を上げて投稿しようと思うので今年もよろしくお願いします。さて、今回紹介する映画はボクシング映画の金字塔ロッキーシリーズで一躍大スターに登りつめたシルベスター・スタローン。そして、こちらもボクシング映画の名作として誉れ高いレイジング・ブルで大幅に体重を増加させた役作りで名を馳せたロバート・デ・ニーロ。まさかの2人のW主演によるボクシング映画が今回紹介するリベンジ・マッチ
 本作の公開時にシルベスター・スタローンは67歳。ロバート・デ・ニーロにいたっては70歳。老優の2人が裸をさらしてボクシング対決をする。この2人のボクシング対決と聞いて、なせか俺はエイリアンVSプレデターを思い出してしまった。嫌な予感しかしないようなボクシング映画を見せられるのかと思いきや、俺の予想は良い意味で大きく裏切られた。

 シルベスター・スタローンとロバート・デ・ニーロのかつての主演作のパロディーを存分に取り入れたストーリーの紹介を。
 1980年代に一世を風靡したボクサーだったヘンリー(シルベスター・スタローン)とビリー(ロバート・デ・ニーロ)。2人の対戦成績は1勝1敗の五分。しかし、決着をつけるはずの第3戦目を迎える直前でヘンリーが突然引退してしまったことにビリーは30年経った今でも根に持っていた。一方ヘンリーもある理由でビリーを嫌っておりずっと避けていた。
 そんな2人に目を付けたのが、プロモーターであるダンテ(ケヴィン・ハート)。無謀にも彼らを30年ぶりに戦わせて大儲けをしようと企むのだが・・・

 前述したようにロッキーレイジング・ブルという2人のボクシング映画の代表作のパロディーをけっこう取り入れてくるので、できればこの2作品は観ておいた方が良いだろう。なぜなら本作ではギャグとして効果を上げているので予め両作品を観ている人は観てない人よりも笑えるからだ。
 笑えるのはパロディーだけではない。60歳を超えたジイサン連中の口の悪さが凄い。特にロバート・デ・ニーロの罵詈雑言、スタローン演じるヘンリーのトレーナーに抜擢されるルイス(アラン・アーキン)の場所をわきまえない下ネタ等・・・良い子を持つお母さんも顔を真っ青にしてしまいそうな台詞の数々が最初から最後まで怒涛の如く飛び交うのが、俺にはかなりウケた。
 そしてクライマックスのボクシングシーンだが、思いのほか熱いファイトシーンを見せてくれる。自らの誇りのために30年の想いをぶつけ合う激闘に俺のハートが熱くなった。コメディ色が強い映画だが、ここには家族愛、誇り、友情等も感じさせる。そして本作がニクイのが最後にボクシングファンを喜ばせるシーンを用意しているところ。
 それにしてもシルベスター・スタローンもロバート・デ・ニーロも凄いのが年齢を感じさせない肉体を鍛え上げていること。特にスタローンは水を得た魚のようなハッスルしているし、ロッキー健在ぶりを本作でも見せつける。ロッキーシリーズを見続けている50歳以上の大人達には当然楽しめるし、ロッキーシリーズやレイジング・ブルを観ていない人でも一応は楽しめそうだ。自分で言うのも何だが、今年一発目に紹介するのに相応しいリベンジ・マッチをお勧めに挙げておこう

 監督はピーター・シーガル。本作以外にもコメディ作品で確かな演出力を見せつける。ラブコメの傑作50回目のファーストキス、かつてバート・レイノルズ主演のリメイク作品ロンゲスト・ヤード、スティーヴ・カレル、アン・ハサウェイ共演のスパイ映画ゲット・スマートがお勧め。






 
 

 

 
 

 
 
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映画 リンカーン(2012) 偉大なるアメリカ大統領!? 

2023年11月03日 | 映画(ら行)

  今でも最も人気のあるアメリカ大統領が第16代大統領エイブラハム・リンカーン。「人民の人民による人民のための政治」で有名な演説、黒人奴隷解放、南北戦争と言ったところで、我々日本人にとっても最も有名なアメリカ大統領の1人である。そんな彼が56歳で凶弾に倒れるまでの数々の立派な業績をまくし立てるのではなく、56年間の人生の内、たった4週間分を殆どの時間を割いて描いたのが今回紹介する映画リンカーン。恐らく本作を観たからと言って、リンカーンは偉いとは多くの人は思えないだろう。

 大統領として、夫として、父親としてひたすら苦悩する主人公を描いたストーリーの紹介を。
 1865年の1月。リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が大統領に再選してから2カ月、4年目に突入した南北戦争は未だに続いており、日々犠牲者が出ることに彼は心を痛めていた。戦争を今のままで終結することはアメリカ南部の黒人奴隷制度を認めることになってしまう。更には彼のかねてからの目的であった奴隷制度撤廃を求めた憲法修正第13条の批准は下院では賛成派の議員の数が足りずに、今のままでは可決されないことは明白だった。そこでリンカーンは憲法修正第13条の批准を可決するために議会工作に乗り出す・・・

 南北戦争終結と奴隷制度撤廃という2つの理念を果たそうとしても、アッチを立てれば、コッチが立たず。リンカーンは大統領として悩みまくる。しかも、妻のメアリー(サリー・フィールド)は精神病気味で何かと旦那の自分に憂さを晴らしてきたり、息子で長男のロバート(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が自分も兵隊に応募したがる等、家庭でも悩みを抱える。
 しかし、そこで立ち止まらないのがリンカーンの凄いところ。目的遂行のためなら反対派議員に対して賄賂、脅迫、そして仲間にも嘘をつく。この辺りの経緯はリンカーンを美化され過ぎたイメージを持っている者が見ていると、けっこう驚いてしまう。ダーティーな部分も描いているが、政治家というのは品行方正なだけでは務まらず、清濁併せ吞むぐらいの人間でなくては務まらないことを本作から学べる。一国のリーダーなら尚更少しぐらいはダーティーな部分を持たなければやっていけないのだ。まあ、俺なんかでは政治家は無理だと気づかされた。
 ちなみに本作が公開された時のアメリカ大統領は初の黒人であるバラク・オバマ。そのような時代背景を考えると、なぜこのタイミングで本作が公開されたかを考えてしまいそうになる。画面は暗く、けっこうな登場人物が出てきて、理解に苦しむところも出てくる。そして2時間半の長時間の部類に入る映画。少々面白さに欠ける面はあるが、リーダーの資質ぐらいは本作を観れば少しぐらい理解できる気分になれる。そんな訳で今回は映画リンカーンをお勧めに挙げておこう

 監督は今や最も偉大な映画監督であるスティーヴン・スピルバーグ。サスペンス、アドヴェンチャー、人間ドラマ、社会派作品と幅広い分野の映画を撮り続け、ヒットをかっ飛ばす。あえて1本だけお勧めを挙げるとしたら、本作と共通のテーマが含まれるアミスタッドを勧める






 

 

 
 
 




 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
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映画 ライトスタッフ(1983) 正しき資質とは?

2023年06月29日 | 映画(ら行)
 そういえば最近投稿した超音ジェット機だが、あの映画は、まだ超えられないでいた音速の壁であるマッハ1の速度に到達しようとする航空関係の人々の人間模様を描いたストーリー。そんな作品をみて俺の頭の中にパッと閃いたのが今回紹介する映画ライトスタッフだ。
 人類史上において、初めてマッハ1の音速の壁をぶち破った飛行士はチャック・イェガーだと言われている(1947年のこと)。その後も次々とマッハ1超えの記録を目指し続けた彼の生き様。そんな彼と対比するように宇宙飛行士の7人が国家プロジェクトマーキュリー計画に携わる様子を描いているのが本作だ。
 ちなみにライトスタッフ(right stuff)とは『正しき資質』のこと。本作の場合はパイロット達における正しき資質とは何なのか?を観ている者に問いかける。

 それでは飛行士たちの勇気、プライド以上の物であるライトスタッフのストーリーを紹介しよう。
 1947年の砂漠のど真ん中におけるエドワーズ空軍基地において、チャック・イェガー(サム・シェパード)が人類史上において初めてマッハ1の壁を突破することに成功する。誰が最初に音速の壁を破るか注目していたマスコミは大騒ぎするし、次々とチャック・イェガー自身が自分の記録を塗り替えていくのに伴いマスコミの報道は過熱し、各地からパイロット達がチャック・イェガーに挑むためにやってくるのだが、その中にはガス(フレッド・ウォード)、ゴードン(デニス・クエイド)の姿もあった。
 やがてソ連が人工衛星スプートニクス1号の打ち上げに成功したとの報告がホワイトハウスに入ってくる。ソ連に先を越されたことにショックを受けたアメリカの大統領や議員、官僚たちはアメリカ高級宇宙局(NASA)を立ち上げ、各地から宇宙飛行士を募るのだった。その募集はエドワーズ空軍基地にも及ぶのだが、チャック・イェガーは大卒ではないために宇宙飛行士になる資格がなかったのだが、ガス、ゴードンは宇宙飛行士になることを目指し、他にも各分野から選ばれ、ガス、ゴードンを含め7人が宇宙飛行士として合格し、失敗続きのアメリカのロケット打ち上げテストが繰り返されるのを見て宇宙飛行士の7人は苛立ち、不満を募らせながらも人類で初めての宇宙へ飛び立つことを目指し訓練に励むのだが、しかしながらソ連のガガーリンによって有人宇宙飛行において、またもや先を越されるのだが・・・

 米ソによる宇宙開発は最初の頃はアメリカの負けっぱなし。本作においてもアメリカのロケットの打ち上げの失敗の様子が実際の映像を使って見せてくれる。ソ連に追いつけ、追い越せと宇宙開発に躍起になっている様子を見ると国威発揚映画かと思えたりするのだが、実際には7人の宇宙飛行士の命を無視しているようなNASAやマキューリー計画に関わるアメリカの偉いさんの馬鹿さに驚かさせられる。現場を全く知らない人間の考えることの浅はかさを想うと、祖国に尽くそうと命を懸ける宇宙飛行士たちが気の毒になるし、これでは不安が大きすぎて宇宙へ行こうなんて俺だったら思えない。
 そして、チャック・イェガーの方だがマッハ1を目指し、次々自己記録を更新したり新たなライバルの出現があったりでマスコミからヒーロー扱いされていたのに、マキューリー計画が始まり、動き出すとマスコミはチャック・イェガーには見向きもしないし、政府も大幅に予算をカット。世間からの注目を浴びなくなってしまう。しかし、それでも飛びづづけるチャック・イェガーが格好良い。その姿は、まるで時代に乗り遅れた西部劇のガンマンみたいであるが、己の持っている正しき資質を信じ続ける姿は最後まで格好良い。
 馬鹿な偉いさん連中に命を預けながらも、己が持つ正しき資質を信じて宇宙船に乗り込む宇宙飛行士たちも格好良い。彼らの想いには偉いさん連中の我が儘、私利私欲も入り込む余地がない。我が日本の宇宙飛行士若田光一さんって格好良いんだ、なんて本作を観直してから気づいた。
 飛行士の奥さんたちの心情を巧みに描かれているし、心が震えるような音楽が素晴らしい。音楽を担当しているのは誰かと調べたら、あのロッキーシリーズで有名なビル・コンティだったと知って納得。
 少し不満があるとすれば3時間の長時間映画であること。冒頭から泣かせたり、熱くなるような名シーンが連発するのだが、宇宙飛行士になろうと訓練するシーンがコメディ色が強くなってしまったのが、ちょっと残念。もう少しその辺をばっさりカットするか、もっと熱いシーンを目指すなりして欲しかった。まあ、それも個人的な意見に過ぎないのだが。
 そんな訳で宇宙への憧れが強い人、飛行機が好きな人、心が熱くなるような映画を観たい人、どこか不器用に生きる男たちに格好良さを感じる人に今回はライトスタッフをお勧め映画に挙げておこう

 監督はフィリップ・カウフマン。本作の他に存在の耐えられない軽さクイルズといった表現の自由をテーマにしたような作品が個人的には心に残っておりお勧めです。
 


 
 




 
 
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映画 リオの男(1964) 元気なジャン・ポール=ベルモンドが見れます

2022年07月03日 | 映画(ら行)
 近年は世界的にも著名人が多々亡くなっていく。その中でも昨年亡くなった世界で一番の大物だといえば俺の中ではフランス映画界を長年に渡って引っ張ったジャン・ポール=ベルモンド。それにしても日本ではこの偉大なる俳優の死亡記事の小ささに日本のマスコミの知識の浅はかさに嘆かされた。ちなみに彼は日本にも多くの影響を与えている。あの大人気漫画のルパン三世のモデルはジャン・ポール=ベルモンドであり、アニメにもなった漫画コブラのモデルも彼である。個人的に彼の映画を全部観ているわけではないが、特に面白い映画を挙げるとすれば今回紹介するリオの男だ。ちなみにベルモンド自身はアクションはスタント無しで自分で殆どのシーンをこなすが、それはジャッキー・チェンにも影響を与えている。
 本作のベルモンドは危険なアクションシーンの連続であるのだが、そのように思わせないベルモンドの運動神経の良さ、危険な時でも飄々として笑いをとったり、ベルモンドの魅力がたっぷり詰まった作品だ。アクション、アドベンチャー、謎の遺跡など、スピルバーグ監督のインディジョーンズの大ヒットシリーズは本作の影響をモロに受けている。

 リオとはブラジルの中心都市だが、実はリオの景色だけでなくパリからブラジルのリオだけでなく、ブラジリア、そしてアマゾン流域地帯の観光気分にも浸れるストーリーの紹介を。
 航空兵であるアドリアン(ジャン・ポール=ベルモンド)は1週間の休暇でパリに戻ってきた。早速、恋人であるアニュエス(フランソワーズ・ドルアレック)の自宅に行こうとする。その頃、美術館では何者かにブラジルの古代文明の土偶が盗まれる。しかも、館長である考古学者であるノルベール(ジャン・セルヴェ)が、美術館を出たところで何者かに拉致されてしまう。
 連絡を受けたアニュエスだったが、親しくしていたノルベールが拉致に遭ったことに驚き、しかも警察から尋問を受けている所へアドリアンがやって来る。しかし、ふとした瞬間にアニュエスも何者かに連れ去られ、その場面をみたアドリアンはすぐさまアニュエスを追いかけるのだが、飛行場に到着。何とかアニュエスを助けたいアドリアンは彼女が連れ去られた飛行機に乗ることができるが、何と飛行機の行き先はブラジルのリオデジャネイロ。不審者扱いされたアドリアンはブラジルの警察に追われながらも、執念でアニュエスを取り戻そうとするのだが・・・

 とにかくジャン・ポール=ベルモンド演じるアドリアンがバイクで追いかけ、車で追いかけ、そして車で走り去る悪党集団を走って追いかける。またベルモンドの走りが速いし、とにかく走りまくる。1週間の休暇を超えたら脱走兵と見なされ処刑されるから、休暇をブラジルまでやって来て追いかけっこをしているヒマなど無いのだが、妙に手強い悪党と戦う。それだけでも面白い展開が続くのだが、更にブラジル古代文明の秘密を探るミステリーアドヴェンチャーになっているのが楽しいし、意外性もあったりで面白い。
 そして、危険なベルモンドのアクションシーン。アクションスターは高い所に登ることが好きなことを再確認させられた。タイトルの邦題には問題ありだが、とにかくベルモンドが大活躍するのが楽しい映画。スピード感満載のスリルもあり、笑いもあり。オープニングのリオのカーニバルの音楽も良い。インディジョーンズシリーズは金が掛かっているから、簡単に激しいスリルにアクションが楽しく作れるのはわかるが、本作はフランス映画であり大してカネが掛かっていないことがわかるので、ベルモンドの危険なアクションをこなすシーンはなかなか感動的。
 なんだかフランス映画と言えば暗い映画ばかりだと思っている人、ジャン・ポール=ベルモンドに興味を惹かれた人、アドベンチャー映画が好きな人等に今回はリオの男をお勧めに挙げておこう。

 監督はフィリップ・ド・ブロカ。反戦映画をコメディタッチで描いたまぼろしの市街戦がお勧め。
 そしてジャン・ポール=ベルモンドだが、ジャン=リュック・ゴタール監督が高らかにヌーヴェルバーグの時代の到来を告げたかのような勝手にしやがれ、これまたゴタール監督の代表作である気狂いピエロ、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の禁欲生活に耐えるモラン神父、これまたメルヴィル監督のフレンチノワールの大傑作いぬ、鬼才アラン・レネ監督が実在した詐欺師を描いた薔薇のスタビスキー、そして父親が莫大な財産を遺したことで謎の組織から狙われる相続人、少々オッチョコチョイな大泥棒を演じる大頭脳、元F1レーサーがギャングのボスに成り上がるオー!、アラン・ドロンと共演した暗黒街を舞台にしたボルサリーノ等、お勧め映画があり過ぎ。そしてアクションだけでなくコメディ、文芸、シリアスな分野もこなせる巾の広い演技が魅力的でもあり、顔が良いとは思いませんが、ちょっとした仕草が非常に格好良い俳優です。
 それからヒロインの役で出演したいたフランソワーズ・ドルアレックですが、この映画が公開当時は24歳。今や大女優となったカトリーヌ・ドヌーヴの実姉と知られていますが、亡くなったのが本作の公開の翌年である25歳の時。妹よりも早く売れ出していただけに本当に残念です。この女優さんの名前もずっと覚えておいて欲しいですね。









 
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映画 離愁(1973) 殆ど列車の中が舞台の不倫映画

2022年04月16日 | 映画(ら行)
 それにしてもウクライナ人の現状を見ていると悲しくなる。ロシアのプーチンには怒りが湧いてくるし、 映画でも多くの反戦映画と言うのが作られてきたが、この世の中の現状を見ていると反戦映画をどれだけ作っても大して役に立っていないことがわかる。今回紹介する映画離愁は反戦映画であり、不倫映画。今まで多くの不倫映画を観てきたが、なぜかそのような映画において名作が多いし、本作は特にドラマチックな結末を迎える。
 本作のタイトルは離愁という日本人が好むような題名が付けられているが、原題はフランス語で Le train。英語が少々でもわかれば、フランス語でも意味がわかるはずだが、本作の半分以上の時間が電車の中および、車両から出た外ばかり。不倫なんてものはモラルに反するが、本作を観たら不倫のイメージが変わる、と言うのは嘘。不倫を描きながら戦争の辛さを観終わった多くの人が感じるだろう。

 それではジャン=ルイ・トランティニャンと知的さを感じさせるロミー・シュナイダーといった当時の二大スター共演のストーリーをできるだけ簡単に紹介する。
 1940年代においてナチスドイツがヨーロッパ中を蹂躙している頃、ベルギーの近くのフランスの村に住んでいるジュリアン(ジャン=ルイ・トランティニャン)は娘と臨月を迎えている妻と一緒に、ナチスドイツの攻撃を避けるためにフランスの南部へ疎開しようと思い立ち、電車に乗り込む。しかし、身重の妻と娘は客車に乗せられたのだが、ジュリアンは自らと同じようにナチスドイツの攻撃から逃げるために多くの人が乗り込んでいる最後尾の貨物列車に乗せられて離れ離れになる。
 そんな時、ジュリアンは寂しげな雰囲気を持った美女の存在に気付く。最初こそ会話も無かった2人だが次第に2人は気が合うようになり、彼女は国はドイツでユダヤ人であるアンナ(ロミー・シュナイダー)ということを教えられる。やがて2人はお互いに家族がいるのだが、2人は愛を交わすようになる。
 そして電車も戦争の影響でボロボロになり客車と貨物列車は分断されることになり、ジュリアンの家族は本当にバラバラになる。ジュリアンは駅を降りるたびに家族の行方を探すがなかなか見つからなかった。そして最後の駅に到着した時にジュリアンは妻も娘も無事で男の子を出産した事を知るのだが、今まで一緒にいたアンナは突然のように姿を消した。
 そして3年後、まだ第二次世界大戦は続いていており、乏しい物資ではあったがジュリアンの家族は徐々に普段の生活を取り戻しつつあった。そんな時にジュリアンはフランスを支配するナチドイツの秘密警察に理由もわからず警察署へ連行される。そこで見たのは実はナチスドイツに対してレジスタンス活動をしていたアンナだった。警察署長からジュリアンにアンナを知っているかと問われる。もし知らないと答えればジュリアンは家へ戻され家族と平和に暮らせるだろう、しかし、知っていると答えてしまうと反ナチスのレジスタンス活動家を助けたことで自分もアンナと一緒に死刑にされるだろう。お互いの目が合い、ジュリアンは家族の元へ帰ろうとするのだが・・・

 電車が通るところでトラブルはあったりするのだが、非常にフランスの景色が綺麗。なんだか『車窓の窓』を見ているような気分になったりするが、アッ、今戦争が起こっているんだという現実に引き戻される演出が巧み。50年ほど前の映画なのに今の世の中を考えさせられる。電車の中で不倫するのはいけないが、しかし絶世の美女であるロミー・シュナイダーから『抱いて』なんて言われると、抱かないわけにはいかないだろう、なんて書いてしまった俺は女性の反感を大きく買ってしまったことは間違いない。
 しかし、最後の選択でジュリアンが採った行動はどっちにしろ観ている人にとっては賛否両論。ロミー・シュナイダーは目が合った時に言葉は交わさなくても、『私を知らないと言って』と目力で訴えていた。しかし、ジュリアンの選択は果たして。俺には最後のジュリアンの選択は不倫の罪を自らに課すことで、けじめをつけたように見えた。
 戦争によって電車の中で一瞬の愛が生まれ、しかし一瞬にして愛は無情にも不倫する2人を滅ぼす。画面が止まるラストシーンは案外珍しくて余韻を残すし、今まで平凡の生きてきても、いつどこで不幸に遭うかわからない。一期一会という言葉が俺の頭の中で重く響く。
 昔のヨーロッパ映画を観たい人、戦争の愚かさを描いた映画を観たい人、フランスの美しい景色を観たい人、美しい美女が出る映画を観たい人・・・今回は映画離愁をお勧めしておこう。

 
 
 
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映画 ロベレ将軍(1959) 詐欺師から英雄へ

2021年12月02日 | 映画(ら行)
 俺の知っている地方議員の中にはピンハネをしたり、騙しの手口もどきでカネを出させて返さなかったり、大物議員に媚びを売ったり、または人を裏切ったりするような政治家の悪いところばかりを身に付けてしまったような奴がいる。そいつの口癖が『市民の財産と命を守る』。お前は詐欺師か。そしてやたら愛国心を持っていることを強調するのも特徴としてあるのだが、なぜか多くの人が美辞麗句の言葉にだまされてしまうのだが、俺は騙されない。まあ、こいつに限らず自分がピンチになると自らが助かるために仲間を背後から撃つような奴が多い。
 さて、今回紹介する映画ロベレ将軍だが、ちんけな詐欺師が主人公のドラマ。俺の知っている詐欺師まがいの地方議員は言っていることとは大違いで臆病者なのだが、本作の主人公の詐欺師のクズっぷりもなかなか凄い。映画の前半はこの主人公の人の弱みに付け込んでの詐欺師っぷりに時間がかけられているのだが・・・。

 それでは第二次世界大戦末期のナチスドイツに蹂躙されたイタリアを舞台にしたストーリーの紹介を。
 イタリアのジェノヴァを支配するナチスのミュラー大佐(ハンネス・メッセマー)はナチスに対抗するパルチザンのリーダーであるファブリッツィオの存在に悩まされていた。そこへイタリアの英雄ロベレ将軍が更なる連携を図るためにファブリッツィオに密会するとの情報をミュラー大佐は得るのだが、部下が上陸したロベレ将軍を射殺してしまう。
 その頃エマニュエーレ(ヴィットリオ・デ・シーカー)は相手の弱みに付け込んでいたいけな人からカネを巻き上げ、そしてギャンブルで更にカネを増やそうと目論むがいつも賭博で全財産がパー。今日もせっせと詐欺をしているエマニュエルだったが、ついに警察に逮捕される。
 少し前にエマニュエルと知り合ったミュラー大佐はある案を思いつく。一生刑務所暮らしをしなければいけないぐらいの詐欺をやらかしていたエマニュエルに自由と引き換えに、彼にロベレ将軍を演じさせてスパイの役割をさせること。イタリアの政治犯ばかりいる刑務所にエマニュエルをロベレ将軍として送り込むのだが・・・

 前半はエマニュエルが敵方のドイツの将校と手を組んで、イカサマを仕掛けるのだが、これがなかなかのクズっぷりを発揮する。戦争中を上手く渡り歩くために祖国の人間を利用するなど愛国者から見れば非常に腹の立つ奴だ。そして、この詐欺師が英雄ロベレ将軍を演じるも自分とは真逆のタイプの人間を演じるには荷が重い場面が多々出てくる。しかし、日頃は庶民を騙すことに忙しい男も、次第に戦争の現実を否が応でも感じさせられることになる。その結果、愛国心に目覚め、拷問にも耐え抜き、仲間を売るような卑怯なことはせずに、英雄ロベレ将軍として最後まで振る舞うのだ。詐欺師から英雄へ変わっていく過程は非常に上手くできており、これが感動させる。
 前述したモラルの欠けた地方議員だが詐欺師から英雄になろうとしても、口先だけの愛国心では自らを命を祖国のために投げ出すことはできない。だいたい先日、衆議院議員選挙が終わったばかりだが、果たし本当に我が国の同胞のために自らの命を捨てれる覚悟の議員は何人いる?国会議員ならば自らの命、家族を犠牲にしてでも日本人を助ける覚悟が必要だ。それでなきゃ国民の命も財産も守れない。
 しかし、ストーリーも見事だが、もっと興味深いのが監督がロベルト・ロッセリーニ、主演がヴィットリオ・デ・シーカという組み合わせ。ちなみにヴィットリオ・デ・シーカだが、この人は本業は映画監督であり多くの名作を世に遺している。このイタリアのネオリアリズモを代表する2人の大監督がタッグを組んでいることに、大きな驚きを感じるし、ヴィットリオ・デ・シーカってなかなか格好良いオジサンであることに少しばかり驚いた。
 英雄であることが如何に大変かわかるし、自分の地位が転げ落ちることを恐れて愛国心を持っているように見せかける詐欺師みたいな奴の見抜き方もちょっとだけ理解できる。そして戦時中に限らず何を信じたら良いのかわからない時にでも良心を持ち続けることの大切さを感じることが出来る映画として今回はロベレ将軍をお勧めに挙げておこう。

 監督はロベルト・ロッセリーニ。世界の映画に影響を与えたイタリアのネオリアリズモの先駆け作品として無防備都市、戦争の悲しさをオムニバス形式で撮った戦火のかなたがお勧め。

 

 

 
 
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映画 リンカーン弁護士(2011) 少しばかりダーティーな弁護士ですが・・・

2020年08月16日 | 映画(ら行)
 タイトル名だけなら歴代の中でも人気のある元アメリカ大統領を想像してしまいそうになるが、全く関係ない。だいたい弁護士が主人公の映画となると、正義感に溢れた熱血漢というのがよくあるキャラクター設定。しかし、今回紹介する映画リンカーン弁護士の主人公は、金払いが良ければ相手を選ばず依頼を引き受ける男。裁判まで持ち込まずに司法取引で犯した罪を軽くしてやるのが得意の刑事専門の弁護士だ。そして、この弁護士が普通とは違うのが、事務所を構えないで、愛車リンカーンの後部座席を事務所代わりに使っていること。ロサンゼルス中の裁判所をリンカーンで駆け回り、カネになる仕事を探し回っている。実はタイトル名はココからきている。・
 この弁護士はちょっとワルなグループと付き合っていたり、法律スレスレのところで上手く立ち回っていたりで、個人的にはあまり共感できない。しかし、本作が面白くなるのは、今までよりも抜群に金払いの良い依頼人が現れてから。弁護士と依頼人の間には秘匿特権があるのだが、それはどういうものかと説明しておくと彼らの話の中味は裁判の証拠から外される権利の事。この秘匿特権という設定のおかげで、非常にスリルのあるストーリーが出来上がった。

 法廷映画の中でも特にエンタメなストーリーの紹介を
 今日もリンカーンを乗り回してロサンゼルス中の裁判所を回りながら仕事を探していたミック(マシュー・マコノヒー)は、知り合いからカネになる仕事を紹介される。それは金持ちのドラ息子であるルイス(ライアン・フィリップ)が女性をレイプ及び暴行の容疑をかけられた弁護をすること。
 いつもと同じようにミックは司法取引で済まそうとするが、あくまでも自分は嵌められたんだと無実を訴えるルイスは早く裁判で決着をつけることを望む。ミックは調査員で友人であるフランク(ウィリアム・H・メイシー)の協力を得て事件の真相を探っていこうとする。その過程においてミックは今回の事件が、彼が過去に担当していた事件と酷似していることに気付き・・・!

 ミックが依頼人のルイスに「あの時の強姦殺人事件の犯人はお前だったんだな?」と問いかけると、あっさり「あ~俺だよ」と認めてしまう。弁護士の誇りと信念がズタズタに崩れていく瞬間だ。あの時、無実を主張していた別の依頼人に対して「このままだと裁判をしてもお前は死刑になるから、自分が殺したと自白しろ」と迫り、そして終身刑までに罪を軽くしてやったことに鼻高々だったのに、事実を知ってしまうとこれは相当にショックだ。
 すっかりネタ晴らしをしてしまったような書き方をしてしまったが、本作のハイライトは前述したようにここから。ミックは依頼人の無罪を勝ち取ろうとしながら、過去の事件で殺人の罪を被せようと相反することを同時に成立させようとする。このアイデアが面白い。しかも、ルイス側も殺人を厭わない手段を使ってくるからミックも何かとピンチに陥ったりする過程がスリルを盛り上げてくれる。

 弁護士と依頼人の心理戦を含めたバトルは楽しいし、意外性のある結末が良い。キャスト陣もちょっとばかし豪華なメンバーを揃えていたりするが、一切の無駄使いが無いのもポイントが高い。更に観終わった後に気持ち良く感じられるのも良い。法廷映画と聞くと少し委縮してしまう人も居ると思うが、オープニングの音楽とリンカーンの車が格好良く使われているので最初から惹きつけれる。
 司法関係の人が観ると色々とツッコミどころがあるのかもしれないが、法律に疎く、アメリカの司法制度がよくわかっていない俺のような人間には大いに楽しめる。社会派よりもエンタメ志向が非常に好ましく思えるリンカーン弁護士を今回はお勧め映画に挙げておこう。

 監督はブラッド・ファーマン。実話を基にした麻薬捜査官の戦いを描いた潜入者が面白いです。

 

 



 


 

 

 

 

 

 

 

 
 
 

 

 
 
 
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映画 羅生門(1950) 人間のエゴイズムを描き出す。

2019年05月27日 | 映画(ら行)
 先日、日本の映画の多くの名作に出演していた女優京マチ子さんがお亡くなりになられた。享年95歳、合掌。日本映画の巨匠の作品に多く出演している大女優として有名だが、彼女の出演作品で非常に印象に残っている映画が今回紹介する羅生門。小説家である芥川龍之介の作品としても有名なタイトル名だが、映画の方は同じ作家でも藪の中を原作にしている。そして本作は京マチ子さんの代表的作品としても有名だが、黒澤明監督が世界中に知られることになった切っ掛けでの作品でもあり、日本映画のレベルの高さを世界中に示した映画だ。
 さて、いきなり俺のボヤキから始まるが、俺の周りには嘘ばかり言っている人間がいる。自分の失敗を他人のせいにするために嘘をつき、自分を偉そうに見せるためにSNSに嘘の投稿をする奴がいる。まあ、そんなことでボヤいている俺ですら嘘をつくことが多いので嫌になるが、せめて他人を蹴落とそうとして嘘をついたり、自分を偉そうに見せるために嘘をつくことだけは決してしないと改めて自分自身に問いただす。嘘をつくにしても、自分ではなく他人を助けるための優しく、思いやりに満ちた嘘をつきたいものだ。
 しかし、俺の周りだけでなく、あなたの周りにも嘘ばかり言っている人間が多くいるだろう。だいたいテレビも雑誌もインターネットも嘘ばかり。さらに近頃は議員と呼ばれる人も嘘をつく人間が多いから困ったものだ。また、そんな嘘つきに我々の税金が流れていっているのに、腹が立たない人が多いのだからこの世の中は嘘つきのやりたい放題がまかり通ってしまう。嘘をついたもん勝ちの社会に絶望的な気分に襲われている人が俺以外にも多くいるはずだ。
 さて、本作のテーマがまさにソレ。大まかなストーリーは、ある殺人事件をめぐって関係者や目撃者の証言がそれぞれ食い違い、一体誰の言っていることが真実なのか?を探るミステリー。しかし、その過程で人間のエゴイズムを情け容赦なく描き出す。

 すっかり疑心暗鬼に満ちてしまった時代に、何を信じて生きれば良いのかを自分で考えたくなるようなストーリーの紹介をしよう。
 大雨が降り続き、すっかり荒れ朽ちた羅生門で雨宿りをしていた杣売り(志村喬)と旅法師(千秋実)。2人はある殺人事件の参考人としての帰り道だった。そんな2人が『あ~、何もかも信じられね~』とボヤキ合っている最中に別の男(上田吉二郎)が飛び込んで来て、2人の話を興味津々に聞いていた
 そんな不思議な話とは一体何か?杣売り(志村喬)が薪を取りに森の中へ入っていくと、一人の死体を発見し、役人へ届けでる。事件の顛末はこのようなものだ。盗賊の多襄丸(三船敏郎)が昼寝をしている最中に侍夫婦が通りが掛かる。多襄丸は侍(森雅之)の妻(京マチ子)の横顔を見て欲情し、侍を縛り付けて彼の目の前で妻を犯した。しばらくすると侍は死体になって転がっており、多襄丸と侍の妻は現場から消えていた。
 しかし、捕らえられて連行されてきた多襄丸、侍の妻の発言は肝心な部分で異なる点があり、そして巫女の能力を借りて死者である侍の霊の言葉を語らせると、これまた肝心な部分で異なる。三者三様で言っていることが違うのだ。果たして三人の中で誰が言っているのが真実なのか?実は3人が一斉に会っている場面を杣売りは目撃しており、3人とも嘘を言っていると言って、杣売りはその時の事実を旅法師ともう一人の男に語りだすのだが・・・

 時代背景は平安時代。科学が発達した現代に生きる俺からすれば、殺人事件に居合わせた三人の中で一番信頼できないのは、もう死んでいるのに巫女の口を借りて語る侍だろうと思ったりしたのだが、真実を語りだしたと思われる杣売りの話を聞いて更なる驚きの展開が用意されていた。この映画は登場人物が少ないのだが、実はどいつもこいつも嘘つきは当たり前で、エゴイスト、虚栄心、悪意に満ちた人間ばかりが登場。しかし、よく考えたらこんな奴らは映画の中だけではなく誰の身にも思い当たる奴ばかり出てくる。現代に生きる我々も疑心暗鬼の世界に放り込まれていることに気付かされるし、自分自身の胸に手を置いて『実は俺も本作の登場人物たちと同じじゃないのか!』と考え悩む。まあ、本作を観た後に自分で悩むだけなら、まだマシな方。もしも本作を鑑賞した後に『俺は国民の財産と生命を守っているんだから、もっと議員報酬を上げてもらって良いはずだ』なんて考えている奴がいたら、そいつには直ぐに議員辞職勧告するべきだろう。
 しかし、本作はモノクロだが世界にも名が知られている名カメラマン宮川一夫のによる映像表現は美しいと思わせるし、音楽も重厚感があって良い。そして、黒澤明監督というのは本当にストーリーテラーだと思わせるような抜群の構成力、ストーリー展開の妙を感じさせる。そして、本作が素晴らしいのは疑心暗鬼の暗闇の中でも、ものすごく小さな希望の灯を点そうとしているところ。絶望の淵に立っている人が本作を観れば、これからはもがいてでも生きていこうと思わせられるはずだ。そして京マチ子さんだが、美人だとは思えないが妖艶な雰囲気が漂う。色々な表情を見せてくれるし流石は大女優だと思わせます。
 京マチ子さんが亡くなった記事を見て、初めて彼女を知った人、日本映画の名作を観たい人、これが人間の本質かもな~?なんて思える映画を観たい人、誰も信じられない人等に今回は映画羅生門をお勧め映画として挙げておこう。

羅生門 デジタル完全版 [DVD]
宮川一夫,黒澤明,芥川龍之介,橋本忍
角川映画


羅生門 デジタル完全版 [Blu-ray]
角川エンタテインメント
角川エンタテインメント


 監督は前述した黒澤明。娯楽時代劇としては七人の侍用心棒隠し砦の三悪人、ヒューマニズム映画として生きる酔いどれ天使をお勧め映画として挙げておこう。他にもお勧め映画多数の偉大なる映画作家です。


 


 
 
 
 
 

 
 
 

 

 

 

  
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映画 ルードヴィヒ(1973) バイエルン王ルードヴィッヒ二世の伝記映画

2018年10月27日 | 映画(ら行)
 古今東西において王様とよばれる人物はたくさんいるが、俺から見ればどいつもこいつもロクでも無い奴ばかり。むしろマトモな王様を探すのが大変なぐらいだ。自分の私利私欲のために権力にしがみついている王様ばかりだし、民のために自分の命を投げうつ王様なんか殆どいない。さて、今回紹介する映画がバイエルン国王であるルードヴィッヒ二世の伝記映画であるルードヴィッヒバイエルン王国なんていう国は今は存在しないが、サッカーが好きな人ならわかるが、今のドイツの一部。バイエルン王国みたいに世界には吸収されたり、分裂されたりして跡形もなく消えてしまった国家が多いが、二千六百年以上も続いている日本の凄さは世界を知ることによって理解できる。
 さて、今回の伝記映画の主要人物であるルードヴィッヒ二世の国王としての振る舞いはどのようなものだったのか?伝記映画といっても何処までが本当のことが描かれているのか疑ってかかる必要があるが、本作で描かれているのを見ると、多くの王様と同様にダメダメ。本作は4時間というメチャクチャ長い映画であるが、ルードヴィッヒ二世の駄目っぷりがずっと描かれ続けられている。そんな映画を観ていて本当に面白いのか不安になる人が多いと思うのだが、これが意外に退屈しないで観ることができる。駄目ネタは俺のような一般人から見れば浮世離れし過ぎて笑えてしまう。そして、映像から伝わってくる豪華絢爛さ。ド派手な画面を見ているだけでも退屈しない。

 それでは狂王とよばれるルードヴィッヒ二世の謎の人生とはいったいどのようなものだったのか?できるだけ簡単にストーリーの紹介を。
 1864年、ルードヴィッヒ(ヘルムート・バーガー)は18歳の若さでバイエルンの国王になる。しかし、彼は国王の仕事はそっちのけ。芸術をこよなく愛するルードヴィッヒは借金を背負って逃げ回っている有名作曲家であるワーグナートレバー・ハワード)のパトロンになって歌劇の上演に莫大な国費をつぎ込む。
 従妹であるオーストリア皇后エリザベート(ロミー・シュナイダー)との恋にのめり込んでしまい、彼女の妹のゾフィー( ソーニャ・ペドローヴァ)との婚約が破綻したり、プロイセンとオーストリアの戦争ではオーストリア側に付くのだが、戦争中ルードヴィッヒはミュンヘンを離れてべルクの城に籠って戦わずに、弟のオットー1世(ジョン・モルダー=ブラウン)に任せっぱなし。その結果弟は神経を病んでしまう。
 それ以降ルードヴィッヒは国費を更につぎ込んで豪華な城を三つも建て、しかも城に男を連れ込んで遊んでいる。すっかり城に引きこもってしまっているルードヴィッヒは更に奇行を繰り返すのだが・・・

 国王としての自覚が全くなく、政治に興味がない。現実から逃避して、ひたすらファンタジーの世界に身を委ねるルードヴィッヒの生き様を見ていると、こんな俺でも国王になれるかもしれないと急に自信が湧いてきた。しかし、俺がどんなに頑張ってもルードヴィッヒに勝てないのが、カネの使いっぷり。それも国費を次々とつぎ込むのだが、お城の中に白鳥が泳いでいるのには驚いた。
 本作を観て、ルードヴィッヒ二世の人生に感動する人は少ないと思うが、映像から伝わってくるパワーは確かに凄い。豪華絢爛なセット、建造物、そして重厚な音楽。映画はあらゆる芸術を超えていることが本作を観ればよくわかる。
 世界史に興味がある人、ヨーロッパの王様は凄いと思っている人、芸術的な映画が好きな人、4時間という長時間を我慢できる人、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品と聞いて心が躍る人・・・等に今回は映画ルードヴィッヒをお勧めに挙げておこう。

ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター [DVD]
ヘルムート・バーガー,ロミー・シュナイダー,トレヴァー・ハワード,シルバーナ・マンガーノ,ヘルムート・グリーム
紀伊國屋書店


 監督は前述した貴族の末裔であるルキノ・ヴィスコンティ。本作を観れば貴族というのはカネを持っているんだな~と感じます。多くの名作を世に送り出した映画史上において最も重要な映画監督の1人。彼のお勧めは個人的にはアラン・ドロン主演の若者のすべて、アリダ・ヴァリ主演の女の執念が凄い夏の嵐が良いです。 
 
 

 
 
 

 
 
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映画 ロンゲスト・ヤード(1974) バート・レイノルズが亡くなりました。

2018年09月14日 | 映画(ら行)
 先日、バート・レイノルズが亡くなった。見るからに男臭いマッチョなイメージがあり、よく知られている出演作品と言えばキャノンボール。しかし、俺の彼が出演している作品で最も好きなのは、最近は日本でも何かとニュースになっているアメフトをテーマにした映画ロンゲスト・ヤード。この映画のアメフトのシーンがもの凄く面白いのだが、日大アメフト部の危険なタックル問題がニュースを騒がすようになってから、非常に笑いにくい映画になってしまったのが残念。本作のアメフトシーンは日大のアメフト部よりももっと悪質なラフプレーが出てくる。
 しかし、本作は大学生同士の神聖なスポーツの戦いではない。同じ刑務所内における悪質な看守と日頃から理不尽な苛めを受けている囚人の対決だ。学生同士の試合ならスポーツマンシップにのっとって正々堂々とプレーしなければいけないが、本作の看守VS囚人の戦いに、スポーツマンシップを期待するのがムリ。スポーツ映画にありがちなスポコン映画とは全く違うということだ。
 
 さて、殆どがアメフト未経験の懲役何十年の囚人たちは、一体何のために戦うのか?それではストーリーの紹介を。
元アメフトのプロとして花形選手だったポール(バート・レイノルズ)だったが、今では金持ち女のヒモに成り下がっていた。そんな彼女との生活に飽きたのか、手切れ金の代わりに彼女の高級車を奪って出ていくが、警察に通報され、パトカーを壊しまくって走った挙句に捕まってしまう。
 ポールは懲役三年でテキサス州の刑務所に収監されるが、そこの所長であるヘイズン(エディ・アルバート)は看守たちからなるアメフトチームを成長させることに異常な執念を持っており、今まで5回連続で2位だったのだが、今度こそ優勝するためにポールをアメフトのチームのコーチにしようとする。しかし、ポールはアメフトチームのコーチ兼選手の看守長であるクナウアー(エド・ローター)から脅迫されて、コーチの依頼を断る。しかし、なぜかポールはクナウアーから理不尽な暴力を受けてしまう。
 ある日のこと、ポールはまたヘイズン所長に呼び出される。今度は看守チームの練習相手のために、囚人たちのアメフトチームを作るように頼まれる。早速、囚人達を集めてチームを作り、いよいよ看守チームと試合をすることになるのだが・・・

 前半は所長や看守たちの嫌がらせによる刑務所映画、そして後半は看守チームと囚人チームのアメフト対決によるスポーツ映画。このミックスがなかなか楽しい。ポールが囚人チームのメンバー探しのシーンはかなり笑える。刑務所なだけにとんでもない大悪党がいたり、非常に個性的な面々がそろった。
 観客を集めてのアメフトの試合のシーンだが、日大のアメフト部の監督も真っ青になるぐらいのラフプレーの連発。蹴ったり、殴ったり当たり前だが、相手のキンタマ目がけてアメフトのボールを投げ込む。しかし、試合中にもかかわらずヘイズン所長の脅迫はポールにやって来る。権力の乱用に対してポールは屈してしまいそうになるが、そこからがこの映画の真の見どころだ。自堕落なダメ男が立ち上がる内容の映画は本当に心が熱くなる。
 今ではすっかり希少価値となってしまったバート・レイノルズのファンの人、権力に立ちむかう男の映画を観たい人、最近のニュースでアメフトに興味が出てきた人、スポーツ映画が好きな人などに今回は映画ロンゲスト・ヤードをお勧めに挙げておこう。


ロンゲスト・ヤード [DVD]
アルバート・S・ラディ,トレイシー・キーナン・ウィン
パラマウント ジャパン


 監督は熱い戦いを多く描いているロバート・アルドリッチ。お勧めは軍隊内部の腐敗を描いた攻撃、列車のタダ乗り男と車掌の熱いバトルが描かれている北国の帝王、ゲイリー・クーパーとバート・ランカスターの二大スターによる共演の西部劇ベラクルス、女の戦いを描いた何がジェーンに起こったか?、不時着してしまったただ広いだけの砂漠からの脱出映画飛べ、フェニックスが面白いです。

 バート・レイノルズが他に出演している作品ではポール・トーマス・アンダーソン監督のポルノ業界を描いたブギー・ナイツがお勧めです。


 
 
 
 

 

 
 
  
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