この夏、最も印象に残る小説、それが、宮本輝さんによる 『蛍川』でした。
今年、人生二度目の、しかも20年以上ぶりに蛍を見ました。いや、大量の蛍を見たというよりは、自分自身が蛍の群れの中に身を置いているような感覚。 まるで光輝く宇宙の中を彷徨っているかのような… 表題作のラストシーンの場面は強烈でいて、どこか物悲しくもあり、
「もし、あと〇〇歩、先を歩いて蛍と出合えたら、大阪へ行く、そうでなかったら、このまま この地に留まる」
これからの身の振り方を 蛍に託す決心を人知れずしていた母。息子への想い。そんな息子、(主人公)は思春期真っ只中。中学生になったあと、数年ぶりに交わす幼馴染の女生徒との言葉。
「蛍、見に行く?」「うん、行く」
昭和30年頃の言葉遣いが何処か懐かしく、あたたかく、そして優しく耳に残ります。
蛍と少女のラストシーン。
まぁ~ こんな純粋でありながら艶やかな描写が、どうして出来るのですか?と 宮本輝氏に向かって言ってしまう。
背表紙にある紹介文です⤵
『泥の河』
こちらは、小学校2年生の少年の目を通して大人の世界が描かれます。
「夜は、あの舟に近付いてはいけないよ」
父親のいいつけを最初は守っていた僕が、お祭りの帰りに立ち寄ると…
この物語の冒頭に登場する馬もそうですが、最後の方で登場する蟹のシーンには度肝を抜かれ、ただ文字を追うだけの自分も背筋に寒いものを感じました。少年が感じたであろう恐怖心に同情してしまうのです。すっかり小説の中に自分自身が入り込んだ証拠です!
つい、昨日、人はどのような境遇でも、諦めなければ生き抜く力を備えている、みたいなことを書いたばかりですが…
この二編の小説では、尊い命も、いとも簡単に呆気なく、終わるときは命尽きてしまうこともあるのだ、と。
儚さと一種の怖さを突き付けられた気がしました。
戦中の数少ない生き残り帰還兵が、命を失う時は、
こんなに突然に
しかも、呆気なく…
或は、さっきまで僕の傍で笑っていた友人が。
約束までしていたのに…。
描写の怖さ、リアルさ、物哀しさ。
夏の終わりに 手に取りたい一冊です。