健康を科学する!

豊橋創造大学大学院健康科学研究科生体機能学のつぶやき

糖尿病と血管再生能力

2014-02-19 08:30:38 | 研究
下肢切断にもつながる重傷下肢虚血は糖尿病患者の10~15%に認められる病態だそうで、有効な治療法の確立が求められているそうです。これまでの研究から、糖尿病患者が下肢に虚血(当該部位に流れ込む動脈血の量が減少することで生じる局所の貧血)をきたし、重症化しやすい理由として、虚血に反応して新たな血液を作り血流回復させるための能力(血管新生能)が大きく減弱していることが関与していることが分かっていたそうですが、その原因は不明だったそうです。こうした糖尿病に伴う血管内皮機能障害および血管新生能異常の原因が、細胞内のエネルギー産生を促進させる働きをもち、遺伝子情報をもとにタンパク質を作り出す効率を調節する分子「PGC-1α」が高血糖によって増加することによるものであることが明らかになったそうです(マイナビニュース)。また、「PGC-1α」は、糖尿病患者では肝臓にて、その量が持続的に上昇する結果、血糖値の上昇につながること、ならびに骨格筋ではインスリンの作用が減弱する原因にも関与することなどが報告されており、糖尿病の発症進展において重要な役割を担うことが示唆されていましたが、血管の細胞における役割は明らかではありませんでした。今回の研究では、薬剤性(ストレプトゾシン)、食餌性(高脂肪食)、遺伝性(db/dbマウス、ob/ob マウス)による種々の糖尿病マウスを用いて検討を実施し、それらすべてのマウスにおいて、血管内皮におけるPGC-1αの量が健常マウスに比べ約1.5~3倍に増加していることを確認したほか、2型糖尿病患者の血液から採取した血管内皮へと分化する力をもつ「内皮前駆細胞」でも、健常者に比べPGC-1αの量が増加していることを確認したそうです。また、内皮細胞に高濃度の糖を加えるとPGC-1αが増加したことから、糖尿病で内皮細胞のPGC-1αの量が上昇する主な原因が血液中の糖濃度によるものであることが明らかになったそうです。さらに、糖尿病マウスの内皮細胞および糖尿病患者の内皮前駆細胞を培養したところ、内皮細胞運動能の低下が確認されたことから、健常なヒトおよびマウスの内皮細胞にPGC-1αを強制的に増加させる操作(過剰発現)を行った結果、糖尿病の内皮と類似した運動能の低下が確認されたそうです。また、内皮でPGC-1αを過剰発現させた血管を培養したところ、内皮細胞の動きを止める細胞膜分子Notchが活性化され、新たな毛細血管を作り出す能力(血管新生)が抑制されることも確認され、PGC-1α欠損マウスの内皮では、内皮運動能が上昇し、強い毛細血管形成能が示されることも確認したそうです。さらに、遺伝子操作を用いて血管内皮のPGC-1αを強制的に増加させたマウスを作成して研究を行った結果、糖尿病で認められる症状である「頸動脈の内皮を機械的に傷害した後の内皮再生速度低下」、「背中の皮膚に創傷を作成した後の治癒速度低下」、「大腿動脈摘出による下肢虚血後の血流回復能力低下」といった症状が確認されたとも。また、血管内皮におけるPGC-1αの量を正常の3割程度に減少させたマウスを用いた実験では、糖尿病を発症させても糖尿病のないマウスとほぼ同様の健常な速度で創傷が治癒したほか、下肢虚血術後においても健常マウスと同等の正常な血流回復力を持っていることを確認したそうです。今後、血管内皮のPGC-1αを標的とすることで、糖尿病血管合併症の新たな治療法開発につながることが期待されるそうです。
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