はなこのアンテナ@無知の知

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ブラッド・ダイヤモンド(BLOOD DIAMOND) (2)

2007年04月21日 | 映画(2007-08年公開)
 今にして思えば、神様はアフリカに対して残酷な贈り物をされたものだ。象牙、石油、ゴールド、そしてダイアモンドと言った豊かな天然資源は、アフリカの人々を幸福にするどころか、それが生み出す富を巡る争いの渦中に人々を巻き込んでしまった。しかも富に群がる者達は、アフリカの人々から豊かな恵みを搾取する構造を巧妙に作り上げてしまったのだ。これは既出の『ナイロビの蜂』でも描かれたように、人の命を踏み台に一部の人間が巨万の富を得る極めて不公正なシステムの中に、アフリカが組み込まれてしまったことを意味している。そして15世紀に始まった欧州諸国によるこうした搾取構造は、欧州の列強がこぞってアフリカの土地を奪い合った帝国主義時代に強化されたのだ。そして第二次大戦後には搾取する側に米国も加わった。

 ”彼ら”欧米の列強がアフリカに対して行って来た仕打ちの一端は、負の遺産としてアフリカの人々に継承され、本作のそこかしこに散見される。資源を不当に搾取するのも”彼ら”。紛争に使用される武器を供給するのも”彼ら”。本作には政府軍の抵抗勢力としてRUF(革命統一戦線)が登場するが、腐敗しきった政府へ反旗を翻すレジスタンスが、必ずしも国民の味方とは限らない。これは政府軍も同様で、内乱末期にはそれぞれの軍によって国民の殺戮が行われたと伝えられている。劇中、RUFがのどかな漁村を襲撃し、捕らえた住民の片腕を情け容赦なくナタで切り落とした後に放った言葉は辛辣だ。「これ(恐怖支配の一環として、見せしめに一部の人間の腕や足を切り落とすこと)はベルギー人が始めたことだ」。           

 今もなお世界に数十万人はいると推定される”少年兵”の描写も心をえぐる。RUFは年端もいかない子供達を無理矢理親元から奪い去り、残酷な手法で洗脳し、殺人マシーンへと仕立て上げて行く。襲撃する村々で、女・子供・老人関係なく銃撃・殺戮を繰り返す少年兵ら。その表情には一瞬のためらいも窺えない。戦闘の合間にはアメリカのヒップホップ音楽をBGMに酒を飲み、タバコを吸い…特に子育て中の親の目には衝撃的なシーンが続く。これはけっして誇張ではなく、ほぼ実態に即したものだと言う。しかも少年兵はアフリカだけの問題ではない。世界の紛争地域の至る所で、彼らの姿は目撃されるのだ。例えば中南米の少年兵の悲劇は、エルサルバドルを舞台にした映画『イノセント・ボイス~12歳の戦場』 に詳しい。

少年兵について 
 
 家族からRUFによって無理矢理引き離され、ダイヤモンド採掘の強制労働に駆り出された漁師のソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)。そのソロモンがRUFの監視の目を盗んで隠したピンクダイヤの横取りを狙う、傭兵上がりのダイヤ密売人ダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)。そして紛争ダイヤの真相を世界に向けてスクープしたいジャーナリストのマディ・ボウエン(ジェニファー・コネリー)。ソロモンが偶然見つけた時価数億円相当のピンクダイヤを軸に、3人の思惑が交錯する。ところが共に紛争地でサバイバルの旅を続けるうちに3人の間には信頼関係も生まれて行く…

 家族の絆を何よりも大切にする生粋のアフリカ人ソロモン、悲惨な過去を持つアフリカ南部出身の白人ダニー、世界の紛争地で取材を続けるタフなアメリカ人ジャーナリスト、マディ。3人の人物造型と相関関係はアフリカの歴史や現在のアフリカにおける力関係を反映して興味深いが、商業映画である以上多少の美化がなされているのかもしれない。現実は映画で描かれている以上に複雑で過酷だろうから。



 本作はさまざまなメッセージや情報が凝縮された濃厚な味わいで、主要キャスト3人のの熱演も光り、かなり見応えのある仕上がりとなっている。近年のハリウッド映画の中でも最も上質な作品のひとつと言えるのではないか?今年度米アカデミー賞作品賞を受賞した『ディパーテッド』を完全に陵駕していると思う。映像的には、凄惨な内乱の描写とアフリカの美しく雄大な自然との対照に胸を衝かれた。「この美しい大地を血塗られた場所へと変えたのは誰だ?」と詰問されているかのようだった。惜しむらくは、クライマックスの30分はいかにもハリウッドらしいまとめ方であったこと。とは言え、今年見た中では心を強く動かされた1本には違いない。

 なお本作を見るに当たり、映画批評家・前田有一氏のネット映画評『超映画批評』が参考になった。数多ある映画評とはひと味違う、背景説明が作品理解に役だった。

【参考リンク】
エドワード・ズウィック監督からのメッセージ

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