駅までバス便ながら、通勤通学時間帯は2、3分おきに、日中も7、8分おきにバスが運行される便利さなので、当地に住むことに決めた。今から30年ほど前の話である。
それなのに、コロナ禍になってからは行動制限の影響もあってバスの便が激減し、特に日中は時間帯によっては1時間に3本しかない事態になっている。
しかも、常に運転手の求人をかけているのに、なかなか成り手がおらず、慢性的な人手不足のようである。
知人にバスの運転手がいるが、それなりの給与で、フリーターやバイトより(比べるのも失礼な話かもしれないが)よほど稼ぎは良い。
最近たまに見かける新人らしき運転手は、見たところ30代、40代の転職組や女性が多い。20代は皆無だ。それでも足らず、退職者を嘱託で再雇用しているとも聞く。
そう遠くない未来に、同じルートを巡る路線バスは自動運転になるのだろうが、それまでは人手が必要だ。
そして、コロナ禍も3年目に入り、コロナの感染状況の如何に関わらず、世の中は以前の日常を取り戻そうと動き出している。
道ゆく人々の殆どがマスクを装着している以外は、人出もコロナ以前とほぼ変わらないまでに回復して来ている。
しかし、バスの運行状況は変わらない。相変わらず不便なままだ。
だから、どの時間帯に乗っても、異様な混雑ぶりだ。むしろリモートワークが普及したせいで、通勤通学時間帯は以前ほどの混雑はなく、日中の時間帯の方が、老人、若者を中心に多くの乗客でごった返し、始発に近いバス停で既にほぼ座席が埋まってしまうことも少なくない。
だからと言ってバスは定刻通りには殆ど来ないので、早めに行けば行ったで、時節柄、炎天下でなかなか来ないバスをイライラしながら待つことになる。
と言うことで私は定刻の3分前くらいにバス停に到着するようにしている。
これがなかなかのギャンブルで、あまり待ち行列が出来ていないこともあれば、信じられないほど長い列が出来ていることもある。バスの中で本を読みたい自分としては、出来る限り座りたい。
そこで、列に並んだら、自分が先頭から何番目なのか数えるようになった。何番目にいるかで、自分が座れるか否かの見当がつくからだ。古くからある住宅街の中を通るバスなので、通常より小さめのバス、座席数は限られている。
先日も並んで自分が何番目に乗れるか数え始めた。始めた時は私が最後尾だった。
1、2、3、4…10、11、12、13、14…14番目だわ!と数え終えたタイミングで自分の後ろに並んだ年配女性に、私は思わず振り返って
「おばちゃんは15番目ですね」
と言ってしまった。聞かれてもいないのに。
列に並んだばかりで、いきなり知らない女に「15番目ですね」と言われた年配女性は、一瞬何のことやら分からずにキョトンとしている。
そりゃ、そうだ。これでは変な人と思われても仕方ない。
その場にちょっと気まずい空気が流れたが、何事もなかったかのように私と後続の年配女性はバスに乗り込んだ。
私も後続の女性も無事に着席出来た。
レール上を走る電車と違って、バスは街中を走るので、自転車や人の飛び出し、他の車両との衝突など不測の事態で急ブレーキを踏む機会は格段に多い。
そのため特に年配者の車内での転倒事故が多く、運転手も神経質なくらい、バス停での発車時に着席を促す。
しかし、現在のような慢性的な混雑状態では年配者でさえ着席出来ないケースが増えている。私は途中から乗り込んで来た年配者が着席出来ない時は席を譲るようにしているが、個人の配慮だけでは限界がある。
それでも、バスの運行頻度はもうコロナ禍前には戻らないのではと懸念している。