かつて単館系映画館でロングラン・ヒットを放ち、先頃日本でも阿部サダヲ主演で「アイ・アム まきもと」(2022)としてリメイクされた「おみおくりの作法」(2013、ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門監督賞受賞)。
それを手掛けたウベルト・パゾリーニ監督の最新作「いつかの君にもわかること(原題 Nowhere special)」(2020)を見ました。2023年3月3日現在、「キノシネマ横浜みなとみらい」等で絶賛公開中!
本作は実話ベースの話で、不治の病に侵された父親が自身の亡き後、幼い我が子の親になってくれる人を探す、と言う筋書き。
監督が実際に里親事業に携わる人々の協力を得ながら脚本を練り上げただけあって、一般にはあまり馴染みのない里親制度や、それを通して否応なく見えて来る様々な家族の在り方が丁寧に描かれていて興味深いです。
窓拭き清掃員をしながら幼い息子マイケルを育てるシングルファーザーのジョン。彼自身、里親の元や施設で育った孤独な生い立ちで頼れる親族はいない。周りの人々の温かいサポートを得ながらも、父子ふたりの暮らしはなかなか大変だ(それでも愛情溢れる親子関係で、ふたりは幸せそう☺️)。
そして、ジョンは不治の病に侵され、余命いくばくもない。愛する幼い息子を遺して逝かなければならないジョンはマイケルの里親を探すべく、ソーシャルワーカーの力を借りながら里親候補の人々と面接を重ねる。
しかし、面接を重ねれば重ねるほど、さまざまな家族の形、夫婦の価値観、そして、それぞれの家庭の事情に触れて、誰に息子を託せば良いのかと、ジョンの苦悩は深まる一方。
悩む間にも死は刻一刻とジョンに迫る。焦るジョン。幼い息子に「自身の死」と、その後始まるであろう「里親との生活」をどう理解させたら良いのか…
とても素晴らしい作品です。何より"説明過多"でないところが良いですね。淡々と登場人物の日常を描き、その情景から観客自身に想像を促す作風が好きです。その意味で本作はエンディングも素敵!
おススメです!
原題を直訳するならば、特別なものはどこにもない、と言ったところでしょうか。“死”も“生”の延長線上にあって特別なものではない、人はたとえ死んで姿が見えなくなったとしても、その"存在感"が無くなるわけではなく、残された人々の中で生き続ける…そんなメッセージを私は本作から受け取りました。
日々の事件報道では、恵まれない境遇で育った人間が幼い我が子を死に至らしめたり、何らかの犯罪に手を染める、”負の連鎖"とも言うべきケースを目にしますが、それはそうしたケースが例外的だからニュースになるわけで、おそらく実際には本作のジョンのような人が大半だと思うのです。
つまり、自分が恵まれなかった分、我が子には不器用ながらも精一杯の愛情を注ぎ、日々出来る限りの努力を重ねて誠実に生きる。"負の連鎖"を断ち切る勇気ある人々。
そう言う人々の努力が報われ、彼らが不可抗力で危機的状況に陥った際には救いの手を差し伸べられる社会であって欲しいと切に願います。(了)
【追記】
①マイケル役のダニエル・ラモント君。本作がデビュー作で、オーディションで「100人の中から監督に見い出された逸材」だそうです。撮影当時はわずか4歳。父親ジョン役のジェームズ・ノートンとは本物の親子に見えるほど、父と子の深い絆を自然体で見事に表現した演技力に脱帽です。
②マイケル君は犬とトラックが大好き。劇中何度も登場します。トラックはイギリス英語では”Lorry”なんですね。タンクローリーのローリー。トラックとは言わない。マイケル君が何度も口にしますが、最初、聞き取れませんでした😅。
泣かない?
自分を見つめ直す感動の話しだろうな
幼い子供を遺してく父親の切なさが表紙に出てるね。
映画を見ている最中にウルウルすることは何度かありました。場内では啜り泣く声も聞こえていましたね。
でも、決してお涙頂戴のドラマではないし、哀しいだけのドラマでもないのです。
見ていて、自分も慰められると言うか、励まされると言うか…心が温かくなる映画でした。最後には希望の光も感じられたし。
監督は前作もそんな感じだったので、誰もが持つ哀しみを温かく包み込む作風を心掛けておられるのかもしれませんね。
監督は日本の小津安二郎やベルギーのダルディンヌ兄弟の演出を好んで参考にしているそうです。