写真は「展覧会入場券」を防水防汚用マルチコートでコーティングして作った「栞」です☺️。
30歳の若さで夭折した洋画家、佐伯祐三が、芸大在学時から二度目の渡仏で客死する最晩年までに描いた代表作100点余りを一堂に展示した、東京では18年ぶりの回顧展です。
若き日に試行錯誤しながら何度も描いたであろう自画像、佐伯祐三の名で誰もが想起するパリの街角を描いた風景画、そして数は少ないながらも印象深い人物画。
そのいずれもが紛れもなく、画家として30年の命を燃やし尽くした佐伯祐三自身を投影した自画像であった、との解釈の下、時系列で2つのフロアに所狭しと作品が展示されています。
ゆえに鑑賞者は、順路に従って作品を見て行くことで、洋画家、佐伯祐三の短くも濃密な創作の軌跡を辿ることができる。それは佐伯の画家としての葛藤の記録でもありました。
自画像を多く残した画家としては、オランダのレンブラント・ファン・レインやフィンセント・ファン・ゴッホがよく知られていますが、彼らもまた幾度となく自画像を描くことでその時々の自身と向き合い、その内にある苦悩や憂いや葛藤をキャンバスに記録していたように見て取れます。
技術的に着目したのは線描の巧さ。パリの街並みを描いた作品では、建物の輪郭を、木立ちの枝葉を、そして風景の一部としての人物を、迷いのない線で時に力強く、時に繊細に描いています。
外国人の佐伯にとっては、街に溢れる看板や広告の文字も、街を彩る華やかな紋様のように見えたのでしょうか?多くの作品で文字は独特の存在感を発揮して、佐伯の風景画で重要なモチーフのひとつになっています。
また、作品を縁取る「額縁」がどれもなかなか凝った作りで感心しました。作品で使われている色との対比を考慮した色遣いや趣向を凝らした彫刻で、佐伯祐三の作品を引き立てています。
欧米では「額縁が作品の”格“を決定付ける」とまで言うほど、額縁には拘りを見せる傾向がありますから、さもありなんと言ったところでしょうか。
今回の回顧展は、「洋画家、佐伯祐三を再発見する」とも言うべき魅力溢れる展覧会でした。
敢えてひとつ苦言を呈するなら、コロナ禍も収束しつつあるタイミングと駅構内と言う場所柄で、平日でも館内はかなり混雑していたこと。
私はオンラインで観覧の日時指定(通常なら比較的空いている平日の正午頃)をした上で来館したのですが、指定時間に入場こそ出来たものの、会場内は本来の日時指定の主旨であったはずの混雑緩和には程遠い状況でした。
しかも”駅構内に設けられた美術館”と言う性質上、展示スペースに余裕がなく、各セクションの入口付近にまで作品が展示されているので、人の流れがそこで滞ってしまう場面が多々見られました。
これでは館内のそこかしこで混雑を招く恐れがあるし、最悪、鑑賞者が作品にぶつかる危険性すら否めません。
内容そのものは素晴らしい展覧会でしたが、快適な鑑賞環境と作品保全の観点からは展示方法に疑問が残るものでした。
だから本来なら多くの方々にオススメしたい展覧会なのですが、平日休日に関係なく混雑しているようなので、オススメして良いものかどうか悩ましいところです。
行かれる方は混雑覚悟で😅。
✴︎注:実際の作品はもっと美しい色合いです。下の画像は全体的に茶系の色味が強過ぎて、作品本来の色を再現出来ていません。まあ、ラインナップの参考程度に…