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”カウボーイ”の”同性愛”と、
一見相容れないような組み合わせが俄然注目を浴びた本作。
それが、保守的なアカデミー賞では敬遠されたのか、
主要な受賞は監督賞のみにとどまった。
禁断の愛を覗き見る、と言った興味本位な視点で見ると、
肩すかしを喰らうのは間違いない。
あくまでも映像は詩的で美しく、
描かれた愛は切なく哀しいものだから。
短編小説を、アン・リー監督の豊かなイマジネーションで
見事に加筆した、と言っても良いだろうか?
監督賞受賞に甚だ納得の1本です。
実際のロケはワイオミングのブロークバック・マウンテン
ではなく、カナダのロッキー山脈等で行われたようですが、
風景描写がとても美しく詩的。
何気ない田舎道と乾いた街並み、低い地平に大きな空。
真っ青な空に白い雲。緑の牧草地に無数の白い点を描く羊達。
風景は、この作品のもうひとつの主役なんですね。
無言でいて、饒舌と言うか…
そんな中で人間が愛し愛され、悩み苦しみながら、
日々を生きている。
雄大な自然の中の、ちっぽけな人間の営みという対照が、
何とも滋味深く、深く余韻を残す。
始まりは今から40年前のこと。それから20年間に渡る
二人の男性の物語を淡々と綴っている。
世間的には許されない二人の関係を、
大自然の懐が温かく包み込む。
逃れられない生活苦と、自尊心が傷つけられ続ける生活と…
ブロークバック・マウンテンは、
過酷な現実から二人が唯一解き放たれる場所。
以下は少々ネタバレにつき、未見の方はご注意ください。
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歳月の流れは、二人の置かれた状況を否応なく変えて行く。
彼らはそれぞれ異性の伴侶を見つけ、家庭を築く。
それでも年の数日間ブローク・バックマウンテンで逢瀬を
重ね続ける二人。それぞれの家族には残酷な仕打ちだ。
惹かれ合う思いとは裏腹に、共に過ごすことで
二人は互いを傷つけ合い、苦悩を深めて行く。
そして皮肉にも、現世での永遠の別れが、
再び二人の心を固く結びつけることになろうとは…
かつてキリスト教会で聞いた説教に
「神の国はあなたの心の中にある」
と言う一節があった。
ジャックの死によって、二度と行くことのなくなったであろう
ブロークバック・マウンテンは、
その時点で、イニスとジャックの心の中に永遠に在り続ける
真の安らぎの場所となったのだろうか?
映画の最後にフォーカスされる
壁に掛けられたジャックの形見の服と
ブロークバック・マウンテンの写真に、
私の中で哀しみや切なさと共に安堵の思いが広がった。
もう誰も二人の仲を裂くことはできない…
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