はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

タイフーン

2006年06月30日 | 映画(2005-06年公開)


何しろタイトルに負けず劣らず、
映画の描く世界観もスケールが大きい。
まさしくフィリピン沖で発生する台風(Typhoon)が
東アジア全域を襲いながら北上する様(さま)に重なる。

細部に至るまで一切手抜かりない本作のような
ハードボイルドなアクション大作が、
なぜ韓国で作れて日本では作れないのか?
ひとつには、やはりこの映画で描かれているように、
「南北分断」という韓国が置かれているような状況の緊迫感が
差し迫って日本にはないからだろうか。

日本は良い意味でも悪い意味でも「平和ボケ」な国だ。
今や映画の作り手は戦争を知らない世代が殆ど。
あくまでも想像の範囲でしかない「戦い(闘い)」を
リアルに描き出すのは至難の業だ。
対して、韓国はWWⅡ後に朝鮮戦争を経験し、
今も38度線を境に南北分断が続いている。
北による拉致はこれまで400人以上に及ぶと言う。
同時に脱北者受け入れも数多い。
男性には徴兵制が課せられ、戦闘はヴァーチャルではない。

そんな歴史的・社会的背景もあって、国民の愛国心、
民族意識が日本とは桁違いに強いようだ。
それは国際的なスポーツ・イベントでも露わになる。
特に団体競技では、国家の威信を賭けた気負いが、
選手にも、応援する国民にも顕著のような気がする。

背負っているものが重たい分、登場人物達は皆凛々しく、
熱い台詞もウソ臭くない(日本人が同様のことをしたら、
気恥ずかしくて正視できないだろう)。

戦闘シーンも徴兵経験者が演じているだろうから、
日本の役者の「役作りのための自衛隊体験入隊」とは
当然迫力が違うし、体格の違い(マッチョな人が多くない
かい?さすが同じアジアでも大陸系は違う)
も明らかだ。
そういったものを始めとする諸々の違いが、
韓国アクションと日本のそれとの決定的な差を広げている。

とは言え、別にアクション映画で韓国としのぎを
削らなくてもいいんだけどね。
邦画には邦画の良さがあるのだし。

私がこの作品を見てさらに感じたことを、
作家の村上龍が的確な言葉でコメントしている。
さすがだ。この人は剛胆な視座で、
近年特に良い仕事をしていると思う。
村上龍コメント

私が本作を見たのは4月。
ここ最近は南北融和の兆しが加速度的に見えるが、
朝鮮半島を巡る情勢はなお流動的と言えるのだろうか?
南北対話ムードを、本作で描かれたような離散家族は、
どのような思いで見つめているのだろうか?
歴史の荒波に翻弄される個人の人生は、
どんなに運命に抗っても、
大海に漂う木の葉のように儚い。
そんな哀しさを、本作を見て感じた。

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