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美しい映像も、ドラマチックな主題歌も、確かに素敵なんだけどね…
私達、大丈夫なのかな?
ディズニー・アニメ『アナと雪の女王』は全世界で空前のヒットを飛ばし、その興行収入は歴代5位の12億3261万$(約1200億円)だそうだ(因みに一位は『アバター』の27億8227万$)。
日本では7月末現在で、観客動員数1973万2446人、興行収入は250億円を突破。興行収入が250億円を突破したのは2001年のジブリ・アニメ『千と千尋の神隠し』以来で、実に13年ぶりとのこと。しかも、まだロングラン公開中で、夏休み期間中に、歴代2位の『タイタニック』の262億円を抜くのではないかとも言われている。
実は本作の字幕版を、私は公開初日の3月14日(金)に見ている。アニメを公開初日に見るなんて、私にしては珍しいことだ。
ディズニー社は公開数ヶ月前から、主題歌"Let It Go"の一部を映像付で、映画館で何度も流していた。雪の女王エルザが氷の城で、力強く、高らかに歌い上げる主題歌は、美しい映像も相俟って、そのサビの部分を、映画館に来る人々の脳裏に焼き付けた。私のように映画館へ毎週のように通う人間には、効果てきめんであったことだろう。公開1カ月前にはダメ押しにフル・ヴァージョンを流していたので、すっかり洗脳?された私は、映画公開前に主題歌をソラで歌えるような気分にさえなっていた。
それで初日に馳せ参じたのであるが、本編のアニメ自体は、映像こそ現在のディズニー社の最高水準の美しさではあるものの、物語自体は捻った展開もなく、特に瞠目すべきものでもなかった。見終わった後には、雪の女王として運命づけられたエルザの苦悩と自尊心を歌い上げた主題歌シーンの高揚感だけが残った。
映画館の暗がりから出て、明るい照明の下で、私は夢から覚めたような不思議な気分に陥った。ディズニーの夢の魔法が解けてしまったのか…翌日には物語の筋をあらかた忘れてしまった。
私の記憶から『アナ雪』が消えかかった頃、映画館では前代未聞の出来事が起こっていた。上映中の館内で、観客が劇中歌を合唱すると言うのだ。元はアメリカで始まった、もちろん、ディズニ-社公認のイベントである。その告知が周知徹底されていなかったこともあって、知らなかった観客からはクレームがついたこともあったと言う。そりゃあ、そうだ。まさかの展開なのだから。
公開から既に5カ月、未だに『アナ雪』フィーバーは続いている。先日発売されたブルーレイは、わずか3日でミリオンセラーを記録したらしい。
しかし、ここで冷静に考えてみる。本家本元の米国での興行収入は4億0061万$(約400億円)で、米国内では歴代19位の興行成績である(その上には「アベンジャーズ」や「バッドマン」等のアメコミ原作映画がズラリと並ぶ)。世界58カ国で公開されて、全体で日本円に換算して1200億円の興収の内、お膝元の米国が3分の1の400億円と言うのは分かる。しかし、幾ら現時点で世界第二位の市場とは言え、日本単独で250億円て…どういうことだろう?米国と日本の二国の興収で世界全体の半分以上を占めている。奇しくも国連の分担金負担率と同じで、二国の独擅場。
今回の大ヒットは、主題歌制作にミュージカルの楽曲提供で定評のある作曲家夫妻を起用したディズニー社の戦略の勝利とも言えるだろうし、TDR開業30年による日本におけるディズニー文化の浸透(その前段として、日本の敗戦<→自己否定>と進駐軍の駐留による米国文化<万歳!>の浸透があるが…)の成果とも言えるのかもしれないが、たかがアニメに(と言ったら語弊があるかもしれないが)、こんなに入れあげて、皆さん一体どうしちゃったの?大丈夫なの?もっと関心を持つべき大事なこと、他にあるんじゃないの?(→"音楽"や"映像"が人間の心に与えるインパクトの大きさを、改めて思い知らされる現象とも言える。為政者が、プロパガンダに映画をよく利用するのも頷ける)
客単価が高いのか、それとも、リピーターが飛び抜けて多いのか?或いは、その両方なのか?いつだったか、テレビのインタビューで小学生連れの母子が「もう7回は見ました」と目を輝かせて答えていたが、いくら何でもディズニー社に貢献し過ぎだろう?これは極端な例としても、「今、ヒットしているから」「今、売れているから」と言う理由が、消費行動を促している傾向は、現在の日本で顕著だ。ベストセラーランキング、ヒットランキングに名を連ねた商品が、さらに売り上げを伸ばす現状。
果たして、個人が、何の考えもなしに(或いは、"心地よさ"と言ったムードで)大勢に追従する行動性向は、危険ではないのか?大衆が持ち上げる偶像に対して、「大きな流れに乗ってさえいれば自分の選択は間違っていない」と言う、根拠が曖昧な信頼を抱いてはいないか?
「情報」によって「行動の最適化」を図る。それは、情報化社会が強化した人間の行動性向なのかもしれないが、逆に言えば、入手する情報によって、自分の行動がいかようにもコントロールされる危険性を孕んでいるとは言えないか?ネットに流布する情報は言うまでもなく玉石混淆で、それを鵜呑みにすることの危険性は指摘されて久しいが、所謂「トレンド」や「ブーム」への関心は、自分自身を含め多くの人々の中で高く、その潮流が巨大であればあるほど、その実体を知らずに盲信し、追従してしまう傾向が強いように思う。しかも、その傾向が年々強まっているのを感じる。
そう言えば、ツイッターやLINEのような短文入力の影響なのか、所謂ヤフコメのコメントも1行どころか10文字以内のコメントが、最近増えたように思う。俳句より短い文字列の中に、一体どんな考えや思いが込められると言うのか?普段から自分の頭で考える習慣なしに、思考力は育たない。思考力なしに、判断力は身につかない。そうなれば、ますます大勢追従型の人間が増えて行く。これは日本だけの問題ではないのかもしれないが、とどのつまり、政治の独裁体制を生み出す土壌になりかねないと、個人的に危惧している。
今1度、冷静に世の中の流れを見極めるよう、心がけたい(反省を込めて
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