はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

本物を見るということ

2006年09月24日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)

『ベルギー王立美術館展』展示作品のラインアップ(展覧会チラシより)

《イカロスの墜落》ピーテル・ブリューゲル〔父〕(?)
16世紀後半 油彩/カンヴァス 73.5×112.0cm 
              
リンクの作品は、「ベルギー王立美術館展」の目玉とも言える
作品らしく、展覧会ポスターやチラシにも掲載されています。
作者ピーテル・ブリューゲル(父)は16世紀フランドルを代表する
画家の一人であり、彼の現存する僅か40点程の油彩作品のひとつ
という意味では、ベルギー王立美術館の収蔵品の中でも貴重な
1点であり、現ベルギー王国の至宝のひとつとも言えます。

目玉とは言え、今回の展覧会は、ベルギー美術の400年を
展観すると言う意図もあって時系列に作品は展示されているので、
この作品は展覧会場に入ると、初っ端から展示されています。
これからご覧になる予定の方は、うっかり通り過ぎることの
ないようにご注意!(^_^)。
児童生徒向けに配布される”ジュニアパスポート”という
鑑賞の手引きには「イカロスは絵のどこに?」という質問が
あるように、主題であるはずのイカロスの墜落の場面は、
意外なところに描かれています。画家の真意を探るという
意味でも興味深い作品なのかもしれません。

ところで、こうしてネット上やテレビ等の画面上で、
或いは印刷物と、様々なメディアを通じ、
私達は自宅にいながらにして、日本のみならず世界の
芸術作品を目にすることができます。
それでは美術館に足を運び、本物を見るということには
どんな意味があるのでしょうか?


私は美術館が身近にない地方都市に育ったので、
美術館デビュー?もかなり遅めでした。
それでも子供の頃、知識だけは豊富でした。
小・中学校の図書館にある美術全集を羨望の眼差しで、
毎日のように眺めていましたから、
どこそこの美術館に、何という作家の何という作品がある、
といったことはいつの間にか頭にシッカリ入っていました。
「大人になったら美術館に行って本物を見るぞ」
という意気込みは人一倍ありましたね。
そういう思いを持ち続けることは大事なのかもしれません。
それによって運を引き寄せるというか、
自分の願いを叶える道が自ずと開けてくるような気がします。
実際、美術全集で知った作品の内、見たいと切望した作品には
大人になってから殆ど”会う”ことが出来ました。

育った家庭は教育熱心とは言い難い家庭でしたが、
父親は絵が上手く、襖に竹林の虎を描くような人だったので、
そういう意味では美術を愛する素地のようなものが
幼い頃からできていたのかもしれません。
本物を目にすると、今度は美術史を体系的に学びたくなって、
とうとう30代半ばで大学にまで入ってしまいました。
卒業後は何らかの形で大好きな美術や美術館に関わりたい、
子供達に美術の素晴らしさを伝えたい、と思っていたところ、
折良く美術館の教育普及ボランティアの募集があり、
書類&小論文審査を経て採用され、現在に至っています。


教育普及事業のひとつであるスクール・ギャラリートークは、
学校単位で児童生徒達を受け入れているので、
学校行事の一環として訪れた子供達全員が
必ずしも美術に関心があるとは限りません。
しかし発想を転換すれば、これはチャンスとも言えます。
こうした行事がなければ、一生美術館に足を運ぶことは
なかったかもしれない子供も中にはいるはず。そんな子供に
美術館がどんな場所なのか知る機会が与えられたのです。

そこで常に冒頭で子供達に話しているのは、
本物を自分の目で間近に見ることの面白さ、大切さです。
様々なメディアを通じて作品を見ることはできても、
それらは目の前の本物の魅力には到底敵うものではありません。
絵画なら、まず実物大であること。想像以上の大きさの
迫力に圧倒されたり、逆に小さいことに驚かされたり。
美術館の照明の下で見る色彩、絵の具の盛り上がり具合、
生々しい筆の跡、絵を縁取る額の意外な存在感など
本物ならではの出会いの感動や発見があるはずです。


私と子供達との出会いはまさに一期一会かもしれませんが、
スクール・ギャラリートークを経験したことで、
子供達にとって美術館がより身近な存在になるのなら、
将来的に、彼らの生活の中の楽しみの選択肢のひとつに
遊園地や映画館と並んで、美術館が加えられるなら、
ボランティア冥利に尽きるというものです。

もちろん楽しむことにスタートの遅い早いは関係ありません。
なぜなら、美術館における作品鑑賞に関しては、
私自身かなり遅めのデビューだったのですから。
自分の人生の中に取込むという意味では、何にしても
スタートが遅すぎるということはないのかもしれませんね。
何かに興味を持ったなら、新たな冒険に踏み出すつもりで、
勇気を持ってアプローチすることが大切なのだと思います。
それが生きることを謳歌するコツなんじゃないかと、
自分の経験に照らして思うわけです。
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