はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

市民講座「異文化交流」その2

2016年12月27日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)

 8日(木)から始まった地元自治体主催の市民講座「異文化交流」の第2回を、15日(木)に受講しました。折しもこの日は、ロシアのプーチン大統領来日の日でもありました。

 今回のテーマはロシア共和国で、日本人男性と結婚後来日して10年の白系ロシア人女性によるスライドを使った講義と、同じく日本人との結婚を機に来日して3年の白系ロシア人女性によるロシアの民俗楽器バラライカ生演奏の2本立てでした。

 最初のスライドトークでロシアの人々の日常の暮らしをご紹介くださった講師の女性は、ロシアの伝統的な刺繍が施された綿地の民族衣装を身に纏ったナタリアさん。小学4年生を頭に3人のお子さんを持つ母親で、地元の国際交流センターで講師も務めておられる方です。人柄の良さが窺える優しい顔立ちと静かで丁寧な語り口が印象的。日本で3人の子育てをされて来ただけあって、達者な日本語でのトークでした。

 ロシアでも比較的南のシベリア南東部に位置し、「世界一透明度の高い」ことで知られ、1997年には「世界(自然)遺産」にも登録された神秘の湖、バイカル湖畔にある町で生まれ育ったナタリアさん。1時間近くに渡ってロシアの風土や人々の暮らしについて、豊富な写真を交えながら楽しいクイズ形式で紹介してくださいました。

 まずロシアの国土面は17,125,187㎢(日本の45倍!)、人口は1億4,600万人(日本:1億2,700万人)ですから、ロシアの国土がいかに広大で、人口密度が低いかが分かるかと思います。

 ロシアは182の民族から成る多民族国家で、人口の約80%は白ロシア系なんだそうです。確かにオリンピックでは白人からアジア系まで多彩な人種がロシア代表として顔を見せています。

 旅行記や映画でも有名な、極東のウラジオストックから首都モスクワまでを結ぶシベリア鉄道は、ウラジオストックーモスクワ間を時速80kmと比較的のんびりとした速度で走行し、始発から終点までの移動に1週間を要するそうです。時速80kmなら、車窓の景色を楽しめそうですね。

 私もかつて長崎-横浜間やトルコのアンカラーイスタンブール間を列車で移動したことがありますが、何れも夜行列車で一晩限りだったので殆ど車窓の景色を楽しむことは出来ませんでした。車窓の景色の移り変わりを楽しむことができるとは言え、7日間かけての列車の旅なんて想像もつかないですね。

 さて、話題はナタリアさんの故郷にあるバイカル湖へと移ります。バイカル湖は世界屈指の生物多様性を誇るそうで、約355属1,334種が生息し、内1,017種が固有種なんだとか。

 近隣には私も小中学生時代の「地理」の時間に学んだ森林地帯「タイガ」が控えており、その総面積は世界の森の20%にも及ぶそうです。このためタイガは「世界の肺」と呼ばれているのだとか。もう片方の肺はアマゾンでしょうか?

 近年は森林火災により、この貴重なタイガの内、日本の面積の30%に相当する面積が1年間で焼失し温室効果ガスの発生源になっているだけでなく、海外への木材の輸出を意図した森林伐採でも、その減少が危ぶまれているとのことです。

 ところで、バイカル湖は3つの世界一を持っていることをご存じでしょうか?実は世界一は「透明度」だけではなかったのです。

 「世界最古」の湖で、元は海溝であったものが地殻変動等で約3,000万年前に海から独立し、徐々に淡水化したのだとか。

 そして「世界一深い」湖でもあり、その深さは1,647mにも達するそうです。

 周知の通り、ロシアは冬の寒さが相当厳しく、ロシアの人々には周到な冬支度が欠かせないのだそうです。厳冬に備える為、特に衣服では動物の毛皮・皮革を多用するのが伝統的なので、被服費が大きな出費となるらしい。そんなロシア人のナタリアさんが来日して驚いたことのひとつが、1種類の靴で1年の殆どを過ごせることなんだとか。

 草木も凍る冬季でも子ども達は皆元気で、屋外でスキーやスケート、さらに各町に氷で作られた冬季限定遊園地で遊ぶのだとか。

 また、ロシアでは多く家族が町から離れた山裾に「ダーチャ」と呼ばれる菜園付きのセカンドハウスを所有しており、そこで春期から秋季にかけて収穫した野菜や果物や木の実を保存食として加工し、地下のカーブに貯蔵して冬に備えるのだそうです。

 因みにロシアの主食はパンとジャガイモで、ロシア伝統の料理や食材であるボルシチピロシキ、カテージチーズやサワークリームは日本でも既にお馴染みですね。

  ロシア独特の祝日としては、2月23日にメンズデー、翌3月8日にウーマンズデーと、日本のバレンタインデーやホワイトデー(そもそもどちらも海外から伝来の記念日ですが…)に相当するものがあるようです。

 また、イースターの9日後は「両親の日」と定められ、この日は家族総出で墓に出向き、そこで食事するのだそうです。ちょうど同時期に隣国の中国や中国から伝来した習慣を持つ沖縄でも「清明祭」と呼ばれる行事で同様のことをするので、何だかんだ言っても地続きなロシアと中国は、「死者を尊び、家族の絆を重んじる」と言う意味では同じ文化圏なのだなと言う印象を持ちました。

 最後に、ロシアの文化で日本とは大きく異なる興味深い事柄は以下の3つでしょうか?

 1.ロシアでは結婚する際、カップルは「ザックス」と呼ばれる戸籍登録機関に正装で出向き結婚の申請をしても、その後1カ月間は仮登録期間とみなされ、互いを十分に吟味する時間に充てられる。

 そして1カ月後、互いの関係に納得した上で再びザックスに出向き、申請書にサインをして初めて正式に結婚が認められるのだそうです。

 それでも、統計によれば結婚したカップルの実に8割が離婚してしまうロシア(離婚率の高さは世界一)。平均寿命の短さ、学生結婚の多さ、アルコール依存の問題、大家族制度等、ロシアならではの事情がありそうですね。

 2.ロシア人は知らない他人にはけっして笑顔を見せない
 それを聞くや否や、会場にいた人の何人かが「道理で、ロシアに旅行で行った時、店員さんが一様に不愛想だったのね」と納得していました。

 多民族国家ゆえなのか、ナタリアさん曰く、人々は他人を基本的に信用せず、互いに自己主張して譲らないせいでケンカになるケースも多いのだそうです。だから来日10年を超えたナタリアさんは故国から日本に戻って来た時に、日本の穏やかな雰囲気に思わずホッとするのだとか。

 3.ロシア語で「こんにちは」に相当する挨拶は「ズドラーストヴィチェ」と言い、これは「健康でいて下さい」と言う意味。

 世界で日本語の「こんにちは」に相当する言葉はさまざま存在しますが、意味としては大きく3種類に分類されるようです。

 1.「あなたにとって今日と言う日が良い1日でありますように」(英・伊・仏・西・韓、ヘブライ、アラビア等)
 2・「よく食べましたか?」(中国語)
 3.「あなたが健康でありますように」(ロシア語)

 それぞれの言葉の背景に、それぞれの国の歴史や文化や価値観を感じますね。日本語の「こんにちは」は「今日はご機嫌いかがですか?」が語源とされ、相手の気分や体調を気遣う表現から、1~3の何れの意味も含んでいるような気がします。

 講座最後の3グループに分かれての参加者間の意見交換では、「他人に笑顔を見せない」と言うロシア人の文化的特性が、「性善説」に基づく人間関係が構築された社会に住む島国の日本人には衝撃的だったようで、皆さん一様に「驚いた」と言っておられました。

 左写真がロシアの民俗楽器バラライカ。デュオグループ、パフィの「アジアの純真」(井上陽水作詞、奥田民生作曲)の歌詞にも登場するバラライカ。印象的なフレーズで、初めて聴いてから20年以上経た今もその名はしっかりと記憶されていましたが、実物を見るのは今回が初めてでした。

 講座の途中と最後の2回に分けて披露された、もうひとりのナタリアさんによるバラライカの生演奏も、私は生まれて初めて聴くもので、貴重な体験となりました。

 演奏者のナタリアさんは1歳になったばかりのお嬢さんを連れての来場。まだ20代前半と言われても違和感のない、一児の母とは思えない比較的小柄で可憐な女性でした。本国では音楽教師をされていたそうで、バラライカは8歳の頃から演奏を始めたのだとか。

 初めて聴くバラライカの旋律は優しくも、どこか哀しげでした。女性のたおやかな歌声のようでもありました。受講者のひとりで元学校教師の年配女性曰く「かつては学校の音楽の授業で数多くのロシア民謡が紹介された」おかげか、演奏されたどの曲も聞き覚えのあるメロディーでした。

 また、70代以上の年配層の方々は所謂「歌声喫茶」世代で、若き日に夜な夜な都心の歌声喫茶に集っては、ダークダックスを代表とするヴォーカル・グループが世に広めたロシア民謡を全員で唱和した思い出がおありのようで、皆さん、懐かしそうに歌を口ずさんでおられました。


 講座の冒頭でファシリテーターの「ロシアに対する皆さんの印象は?」の質問に、ある年配男性が「北方領土問題があるから、あまり良い印象はないな」と答えておられました。この男性、社会の一線から退いて何十年も経ち、もう何も怖いものなしなんだろうなあ…にしても、こうした場では普通なら躊躇われる発言。間髪を入れずファシリテーターから「この講座では政治的な話題は…」のダメだし?も出た中(後で「人にはさまざまな考えがあって当然」と訂正)、その後の講師のナタリアさんの返答が立派でした。

 慎重に言葉を選びながらナタリアさんはこう言われました。

 「ふたつの国にはさまざまなネガティブな話題があります。私も講師を引き受けるに当たってそのことで悩みましたが、夫には(あまりネガティブなことには拘らずに)未来志向でポジティブな話をすれば良いんじゃない?と言われました。」

 「先の戦争であった悲しい出来事については、ロシア人のひとりとして謝ります。」


 草の根での、個人レベルでの交流の大切さをしみじみと感じた瞬間でした。

 国家間ではいろいろと難しい問題が横たわっているとしても、個々の人間に「違いに理解し合おう」と言う前向きな思いがある限り、相互理解は可能だと思います。出来ることなら、争いのない平和な世界を築きたいですね。 



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