コロナ禍になって個人的にショックだったのは、外出制限で旅行に行けなくなったのもさることながら、大好きな美術館や映画館が一時的とは言え休館になったことだ。
そして、コロナ禍で再開した美術館の展覧会は、感染予防措置として「密」を避ける為、基本的にオンラインでの日時予約制になった。
特に東京の有名美術館の企画展は、長期休暇期間ともなれば全国から人を集め、コロナ禍前は平日週末を問わずいつも混雑していた。近年は日本ほど企画展の開催が多くはない中国や韓国からも富裕層が数多く訪れていた。私の友人で、NYのパーソンズカレッジで学んだ在米韓国人アーティストも、日本滞在時、日本の美術展開催の多さを心底羨ましがっていた。
日時予約制になると、日時ごとの来館者数が制限される為、比較的ゆったりした環境で作品を鑑賞できる利点がある。展覧会に足繫く通うイタリア語学習仲間のEさんも、そのことを素直に喜んでいた。
しかし、来館者数を絞ると言うことは、即ち鑑賞者一人当たりの負担額が増えることに繋がる。
実際、コロナ禍前も入場料の値上がり傾向はあったが、それでも1,500円前後で収まっていた。さらに会期の数か月前に「ペア早割チケット」のようなものもあり、2人で2,000円前後で公式に格安チケットを入手することも可能だった。
それが今では一気に500円ほどの値上げで、チケットは2,000円前後になっている。尤も中高生以下は無料としたり、都美のように65歳以上は学生料金と殆ど変わらない割安な料金設定の美術館もあることはある。しかし、その範疇から外れた一般の人間には、かなり割高な料金設定になったことは否めない。
六本木のサントリー美術館は展覧会の規模の違いもあるだろうが、1,300円(前売り)と言う割安な料金を維持している。ただし、日時予約制を取っていないので、時期によってはかなりの混雑だった。その安さにつられて観覧者が殺到したのかもしれないが…
欧米の名の知れた美術館の常設展入場料や企画展入場料が高いのは納得できる。まずコレクションの数自体が桁違いに多く、常設展を見るだけでも1日否数日がかりだし、英国の公立の場合、(かつて帝国主義の時代に世界中から収奪して来たので入手コストがかかっていない)常設展は基本的に無料なので、たまの企画展にお金を出すことには、こちらとしても抵抗感がない。
おそらく、一度上がってしまった料金は簡単には下がらないだろう。それにプラス交通費となれば、個人的には最近、年金生活に突入したこともあって、夫婦二人で行くことにはどうしても躊躇してしまう。
例えば、映画館の入場料は他国と比べて高いと言われても、各種割引制度が充実していて、今でも一般は1,200円で見ることも出来る。ポイントを貯めれば無料鑑賞券もついてくる(それでも一般料金が1,900円と言うのは高過ぎる)。
大衆娯楽の映画と美術館を比べるなと言う声も聞こえてきそうだが、一度は庶民にも身近になった美術館が、コロナ禍をきっかけに再び敷居が高くなるのは残念で仕方がない。そもそも博物館法第一章第一条で、こうした施設は「その健全な発達を図り、もって国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的とする」と定められているのに。つまりは、美術館は一部の特権階級だけのものではないのだ。
その原因のひとつは、国の財政赤字に伴う文化政策の改悪だろう。
近年は美術館のような文化施設にも、民間事業のようなコスト意識が求められるようになった(それでなくとも美術館経営はカツカツで、有期制の非正規職員も多い。大学院で高度な教育を受けても正規の職を得るのは至難)。
因みに(私の知る限り)日本の国立美術館で開催される展覧会は、その殆どが新聞社、テレビ局等のマスメディアや有力企業との共催の形を取っている。こうした外部支援を以ってしても展覧会開催費用を全額賄えるわけではないようだ。
美術館が展覧会を開催するには様々な費用がかかる。思いつくだけでも「国内外から持ち寄る作品の輸送費」「それらの作品が万が一盗難或いは損壊を受けた際に備えて加入する損害保険料(総額1憶円を超えることも←青柳元国立西洋美術館館長談)」「企画展示の設えを行う設備費」「チケットやカタログの製作費」「会期中の監視員や警備員等の人件費や関連イベント開催費」そして「広告宣伝費」等、諸々のコストを超える入館料収入を得て、極力赤字を出さないことが今の美術館には求められる。
国立美術館は独立行政法人格になってから、入館者数実績が厳しく問われるようになったと聞く。実績が悪ければ、文科省からの補助金が減るらしい。こうなると見栄えが良く集客の容易な展覧会(例えば作品や作家そのものにフォーカスして、その研究成果を基に企画するより、「○○美術館展」のように美術館名を前面に出して、その知名度やコレクションの充実度に頼った展覧会)が増えるのは想像に難くない。それで果たして所属学芸員の手腕は十分に発揮されるのだろうか?尤も、それで確実に利益を上げて、地味で多くの集客は望めないが、学芸員が本領を発揮できる学術的価値も高い展覧会に資金を回すことが出来る利点があるにはあるのだろう。
とまれ、美術館に行きたくても、入場料が高過ぎて中々行けないよう😫
以上、一美術ファンからの愚痴でした。
見出し画像は今年、大阪中之島美術館で開催された「モディリアーニ展」で、写真撮影が特別に許可された当館所蔵のモディリアーニ作裸婦像。基本的に美術館の収蔵作品はフラッシュ撮影さえしなければ撮影可のことが多い(それは裏を返せば、企画展でよその美術館から借り受けている作品や、常設展示であっても個人から受託展示している作品は撮影禁止)。
しかし、例えばオランダの「ゴッホ美術館」では美術館所蔵の常設展示作品でも、撮影は禁じられている。他の美術館の感覚で撮影しようものなら、係員が血相変えて飛んで来て怒られる😅