はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(17)映画『ボンボン』とは何ぞや

2007年04月29日 | 映画(2007-08年公開)


 アルゼンチン映画なんて滅多に見る機会もないので、近隣のシネコンで上映されたのをこれ幸いと見てきた(と言っても、2週間も前に(^_^;))。一言で表現すると不思議な味わいのある映画だった。特に劇的な展開があるわけでもない。宣伝のキャッチコピーは「アルゼンチン版わらしべ長者」らしいが、別に日本の昔話のような成功物語でもない。ただ、物語の舞台となった、日本から最も遠い国のひとつ南米アルゼンチンの南部に位置するパタゴニア平原にそこはかとなく漂う寂寥感や大陸の乾燥を伝えるような画質のざらつき感、そこで生活する人々の暮らしぶりの描写やそこに流れている悠久の時間が、不思議な感覚をもたらしてくれる。私は大抵映画に非日常感を求めているが、その要求は十分に充たしてくれた。自分が普段目にすることのない風景、感じることのない雰囲気を、この映画では楽しむことができた。
 
チョット情けないボンボン

 タイトルのボンボンとは犬の名前である。スペルを見るとBombonだから、あのウィスキーボンボンやチョコレートボンボンのボンボンと同じ。ドゴ・アルヘンティーノという、アルゼンチン独特の犬種、しかも武骨な狩猟犬によくもまあ、このようなsweetな名前を付けたものである。日本で言うと、その外見が持つ雰囲気は土佐犬に近いか。しかしボンボンは、その立派な血筋に似合わず臆病でとぼけた味わいを持った犬だ。長年働いていたガソリンスタンドをクビになった主人公フアン・ビジェガスが、このボンボンと出会ったことで、ささやかな幸せを得て行く。その変化の控えめさ加減がまた愛おしく、切ない。
                                        空が広い

 驚いたことにキャストは主人公を含め殆どが素人だと言う。しかも実名で出演していたりする。自分とは違う他人を演じながらも、キャストは自分自身を演じてもいるわけだ。演じている他人は、実際の彼らとかけ離れた人物でもないらしい。どこか違って、どこか似通っている。これは監督が当初から意図したことなのか、役柄と自分自身の間を行ったり来たりしている意識の”揺れ”が、絶妙な味を醸し出しているように見えた。特にそれまで10年1日の如く殆ど変化のない日々を過ごしていたはずのフアンの、思いがけない展開の連続に戸惑う表情が、何とも言えないおかしみを感じさせる。彼を取り巻く状況にはアルゼンチン社会の厳しい現実も透けて見えて…「おーい、しっかりしろよ」と見ているこちらは思わず言いたくなるのだが、そんな彼に監督の演出はあくまでも温かい眼差しを送っているように見えた。

 舞台背景、登場人物―まさにアルゼンチンでだからこそ作り得た作品なのだろう。他のなにものでもない個性の輝きを放つ珠玉の1品だと思った。

【チョットひと言】
ドッグ・ショー審査のあっけなさにビックリ?!
一瞥しただけで、その犬の良さがわかるものなの?

映画『ボンボン』公式サイト 




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