はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(1)ソーシャルネットワーク(原題:The Social Network,米国,2010)

2011年02月01日 | 映画(今年公開の映画を中心に)
 年頭から、時代に斬り込む映画のダイナミズムを感じさせるような、勢いのある作品の登場である。(米国では2010年9月公開)。現代の世相を描き、人間の不完全さゆえの葛藤を描き、知られざる名門大生のキャンパスライフ(笑)を描いて、見応えがある。

 今や全世界で利用者が5億人とも6億人とも言われる世界最大のソーシャルネットワークサービス(SNS)、フェイスブック。その創業者マーク・ザッカ-バーグが、ハーバード大学在学中にフェイスブックを立ち上げた経緯を、虚実交えて描いたのが本作だ。

 デビット・フィンチャー監督と言えば、CM製作でキャリアをスタートさせただけあって、その独特の映像センスが光る監督だが、今回は過去の作品とは異質の、濃密な会話劇を創り上げ、新境地を開いて見せた。

 とにかく冒頭からエンジン全開のトップスピードでまくしたてるマーク。場所は大学近くの、とあるパブ。マークと、そのガールフレンドでボストン大生のエリカが向かい合って腰かけている。忙しなくまくしたて、目まぐるしく話題を替えるマークに、エリカは困惑し、不機嫌な表情を隠さない。終いにはボストン大生である彼女を見下したかのような発言で、彼女を本気で怒らせてしまう。

 この冒頭のシーンで、マークの特異なキャラクターが印象づけられたと言って良い。頭の回転がもの凄く速くて、自分の言いたいことだけ言って、相手の話には殆ど耳を傾けない。…噛み合わない会話。

 何だ?!これって端から見れば典型的な自己中じゃん!或いは、シャイで、男性としての自分にイマイチ自信のもてない非モテ男の不器用さの顕れなのか?…にしても、相手と会話のキャッチボールをまともにできない、と言う意味では、コミュニケーション能力に明らかに難ありの人物である。

 同時に彼は天才的なハッカーで、コンピュータの前では並外れた集中力を発揮する。所謂コンピュータ・オタクである。

 その彼が、世界有数のコミュニケーション・ツールを創り上げた、現代の奇跡。何と言う皮肉。

 しかし、まあ、何だね。けだし天才たる者、古今より、どこかバランスを欠く存在であった。一点に集中する余り、その他のことがおざなり(と言うか、人並み以下)になってしまう。常識人としての欠落ぶりには、痛々しささえ感じられる。昔から「天才とナントカは紙一重」とも言われて来たが、あらゆるモノを(そう、人生で大切なものでさえ)斬り捨てながら、並外れた集中力を発揮するがゆえに、凡人がなし得ない業績を残して来た、と言えるのだろうか。

 しかも、どんな分野であれ、天才と呼ばれる人々はその多くが20歳前後で頭角を顕し、後々語り継がれるような何かをなし得ている。凡人の尺度では到底測り得ないのが、天才と言う存在なのだろう。

 そして、天才は天才を知る。互いの魂を求め合うようなところがある。それが、本作では、マークとナップスターの創設者、ショーン・パーカーの関係なのだろう。しかし、その関係は古今東西の天才たちの物語が示しているように、往々にして長続きしない。どちらも強烈な個性の持ち主だけに、衝突が避けられないのだ。

 さらに本作においてショーン・パーカーの登場は、常に現代ビジネス・モデルの先端を行く米国経済界のダイナミズムを垣間見せて、観客を圧倒する。巨額マネーを自在に動かす投資ファンドは、起業のプロセスを根本から変えたようだ。そのアイディアにビジネスチャンスがあると見れば、起業家のビジネス経験、年齢など関係なく、億単位の金をスピーディに投資する。本作では、一見遊び人風ながら、難なく巨額の投資を取り付けるショーンと、生真面目に、旧来型のスポンサー探しに奔走するマークの学友エドゥアルドの対照が鮮やかに描かれているのが印象的だ。

 もちろん、本作では天才ばかりが圧倒的な存在感を見せつけるわけではなく、世界に名だたる名門大の秀才も相当に強かな一面を見せている。一握りの天才がなし得たアメリカンドリームと共に描かれているのは、誰の目にも共和制民主主義の牙城であり、多民族から成る移民立国でもある米国に、厳然と存在する階級社会の様相なのである。例えば、劇中でマークと対立するウィンクルボス兄弟のような、圧倒的な富と、優れた容姿・頭脳・運動能力を兼ね備えた人物は、ザッカーバーグのような天才に嫉妬することはあっても、その絶妙なバランス感覚と財力と階級ネットワークで、米国社会の中枢に君臨し続けるのだろう。

 そういう「頭の良い人達」の淀みない会話に、観客としては全神経を集中させなければ、途端に物語から置いてけぼりを喰うことになる。その緊張感で、見終わった後は暫く脳が興奮状態で、どうにも落ち着かなかった。本作について、誰かにしゃべらずにはいられなかった(笑)。




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