昨日、六本木ヒルズの森美術館で明日6日(日)まで開催中の『村上隆の五百羅漢図展』を見て来ました。
展覧会のチケットを持っていたし評判もなかなか良いので、まだ体調は万全とは言えないながらも見逃すには惜しいと思い、思い切って行って来ました。行って良かったです!面白かった
今回の展覧会、村上氏の展覧会としては日本で実に14年ぶりの大規模個展とかで、今後は日本で同レベルの個展は開催しないと言う話も聞いたので(本当かな?)、見ようか見まいか迷っている人は是非見るべきでしょう。盛期にある村上氏の今を見ることが出来るまたとない機会ですね。
行くのに二の足を踏んだのは、私の住んでいる所から六本木へのアクセスが不便なこと。JRと地下鉄を乗り継がなければならないのです。JRと地下鉄の駅の間も結構離れていて、元気な時はまだしも体調が今一つの時には移動だけで疲れそう。
そこで、品川の駅から都営バスを利用しました。品川の高輪口、5番バス乗り場から六本木ヒルズ行きのバス(反89番)が出ているのです。しかも始発なので座れる確率が高い。帰りも六本木ヒルズが始発なので、帰りは田町駅行きでしたが、やはり座ることが出来ました。細切れに乗り継ぎで、しかも座れない可能性が高い電車利用に比べると格段に楽でした(もちろん体調が万全なら、電車を乗り継ぎ、立つことも厭いません)。
バス利用で六本木ヒルズに行くのは初めてでしたが、ヒルズ内のターミナルから美術館までのアクセスも、案内標識に従って行けば何の問題もなくスムーズでした。運行本数はあまり多くはないので、時刻表で予め調べてから利用すれば、これは便利な行き方かもしれません。
何はさておき百聞は一見にしかず。今回の展覧会はSNSへの画像アップを推奨しているので、会場内では多くの人が楽しそうに写真を撮影しまくっていました。作品自体もインパクト大で面白いのですが、会場にいる人々を観察するのも楽しかったです。それでは私も心置きなく画像をアップさせていただきましょう。
まずは、実物大?の村上隆氏が会場入り口でお出迎え。これはロボットで、時々しゃべるのです。近くにいた人が「これ、中国の仏像をなぞっているんだよね」と言っていました。へえー、そうなんだ。私は映画『トータル・リコール』で、太った中年女性に変装したアーノルド・シュワルツネッガーの変装がばれて、女性の顔が真ん中からパカッと割れて、シュワルツネッガーの顔が現れるシーンを思い出していました。もしかしたら、それ(原作小説?)自体が、中国の仏像にヒントを得ての造形だったのかもしれませんね。
村上隆氏お馴染みのオリジナル・キャラクターDOB君をモチーフにした最新作と金色に輝く彫刻。
「達磨図」
「五百羅漢図~白虎」数多くの羅漢様と共に悪夢を食べるバクが描かれていました。私には表題の白虎より、バクの方がその造形的面白さでインパクト大(笑)。
羅漢様が手に持っているのは長沢芦雪の「方寸五百羅漢図」の模写。今回、会場に現物も展示されていて、拡大鏡で見ることができました。残念ながら拡大鏡を使っても、目の悪い私はあまりよく見えませんでした。肉眼で見えないものをよく描けたものだと思います。
会場には有名人も訪れていました。黒いシルエットが浮かび上がっている人物は雅楽師の東儀秀樹さん?とそのご家族?他にもどこかで見覚えのあるアーティストらしき人を何人か見かけました。
今回の展覧会は制作の舞台裏まで見せてくれています。「五百羅漢図」制作にあたって集めた多数の資料、ラフスケッチなどの展示もありました。
埼玉にあるという巨大スタジオでの制作風景の映像も。今回は常勤の20人のコアスタッフに加えて、全国の美大から公募した学生200人あまりも参加した一大プロジェクトだったようで、芸大時代から長けていたと言う村上隆氏のプロデュース&ディレクション能力がいかんなく発揮されたようです。実際、映画製作の手法に則って、作業を進めたとのこと。だからこそ、全長100メートルに及ぶ大作を約1年と言う短期間で完成することが出来たのでしょう。
展示室内の様子。閉会も迫っているので、チケット売り場は当日券を求める人で長蛇の列が出来ていましたが、そもそも作品のサイズが大きいので、展示室内で作品が見づらいと言うことはありませんでした。大人気の展覧会にしては、鑑賞する際のストレスの少ない展覧会だったと思います。25時まで開館と言うのは、いかにも六本木らしい。
不謹慎ながら、俳優の津川雅彦さんに似ているなと思った羅漢さま。大小サイズもさまざま、表情も、衣服も、持物もさまざまな羅漢さま。全員、黒目の位置が左右てんでバラバラで不思議だったのですが、解説によれば、ぐるぐる辺りを広い視野で見回しているのだとか。全編を通して、色彩の鮮やかさ、美しさも印象的です。
「アニメーターになり損ねて、芸大の日本画科に入学した」と自嘲気味に語る村上隆氏ですが、日本画科で博士課程(初の博士号取得者:論文「美術における「意味の無意味の意味」をめぐって :アウラの捏造を考察する」)まで修了し、今ではマンガやアニメのようなポップな作風の作品で、日本を代表する現代美術家になっています。
現代マンガの源流は「鳥獣戯画」とも言われ、モチーフをユーモラス且つ軽妙に描いた作品は日本美術においては古くから見られたものだし、村上氏が取っている大がかりな制作手法はヨーロッパで古くからある工房制作とも言え、村上氏が行っていることはけっして斬新と言うわけではないのですが(実際、今回の五百羅漢図にしても過去の作家の作品に学んでいるところが多々あるようです。膨大な文献資料を見ても、真摯に学んでいると感じます)、持ち前の構想力で、かつての浮世絵のように消費される娯楽商品に過ぎなかったマンガやアニメのようなサブカルチャーを、美術市場で扱われるようなアートに昇華させ、さらに今回のようなスケールの大きな作品を全世界に向けて発信するに至ったところが凄いなと思います(価値の転換と言う意味では、かつてアンディ・ウォーホルが行ったことを下敷きにしているのかな?)。戦略家ですよね。
今回のプロジェクトへの参加で、村上氏の仕事を間近に見た学生の中から、次代を担うアーティストが新たに生まれるのかなと、期待も膨らみます。
展覧会場の最後に年譜が掲示されていたのですが、村上氏の年譜の下に、同時代の日本の出来事も綴られていました。実は村上氏は私とほぼ同世代で、彼の生きた時代が見事なまでに私自身の生きて来た時代と重なっているので、懐かしさのあまり自分の人生を振り返るが如く、壁2枚に渡る長~い年譜を最初から最後まで読み通してしまいました。
年譜の記述はユーモアに富んでいて、読みながらクスクス笑いがこみ上げて来たのですが、同時に村上氏の小学生の頃からの詳細な記憶に強烈な自己愛も感じられて、その自己愛を満たす為の自己顕示欲こそが、彼の世界的な活躍の原動力なのだろうなと思いました。
世界初公開となった中東カタールはドーハの展覧会場の様子。そこでは、広大な空間の中で、長大な絵巻を見るような感覚で鑑賞出来たのでしょうか?今回の展覧会よりもさらに圧倒されるスケール感だったのだろうなあ(実際、制作にあたり、横山大観の絵巻「生々流転」も念頭に置いたそうです)。森美術館ではスペースの狭さもあって、どうしても別室で分割展示と言う形になったのがチョット残念です。