TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉で日本側の交渉責任者だった甘利明・前経済再生担当相の現金授受問題が不起訴処分になったことで、甘利氏は再び政治活動の場にもどった。
アメリカ大統領選で共和党の候補者に確定しているドナルド・トランプ氏はTPP反対を声高に叫んできた。一方、民主党の候補者に確定したヒラリー・クリントン氏は予備選挙出馬以来TPPに批判的な態度を示してきたが、6月21日、オハイオ州で行った演説で、ついに再交渉を求める考えを表明した。
先ごろワシントン・ポスト紙が行なった世論調査では、トランプ、クリントン両氏について、選挙民の多くが2人とも「嫌い」と言い、第3の候補者の出現を望んでいる。だが、それは無理な話で、トランプ氏かクリントン氏のいずれかが次の大統領になるだろう。
そういうことで、いずれ、新しい米国大統領の下で、米国がTPP再交渉を求めるか、批准をしない、という事態になる公算が大きい。
睡眠障害から回復したばかりの甘利氏は、さぞかし激しい徒労感に襲われたことであろう。
クリントン氏はオバマ政権の国務長官時代にはTPPの推進派だった。CNNのサイトの記事によると、クリントン氏は国務長官時代に45回もTPP推進の発言を公の場で行っている( ’45 times Secretary Clinton pushed the trade bill she now opposes’)。面白いので、一読をすすめる。
米国メディアの見方は、というよりも一般の常識的な観測では、大統領候補クリントン氏の豹変は、TPPで米国の製造業がダメージをうけるであろうという不安から米労働者の間に保護主義的な気分が広がっていることの反映である。TPPに断固反対した方が票になるというヨミである。
日本国の安倍首相は、消費税増税再延期はない、と断言しておきながら「新しい判断」だと言ってしゃあしゃあと再延長をきめた。ヒラリー・クリントン氏も米大統領選の民主党候補確定者として「新しい判断」を下したのであろう。
6月22日の朝日新聞夕刊は再交渉について「ありえない話だ。仮に求められても応じる考えは全くない」と日本の安倍首相が語ったと報じた。
TPP交渉の経過が厚いヴェールで閉されていたので、調印まで進んだTPPがご破算になったらどうなるのか、不勉強なこのコラムの筆者にはきちんと説明できない。そこで、TPPが大筋合意したときのウォールストリート・ジャーナル紙の説明を転用しよう。「米ピーターソン国際経済研究所は、交渉が始まったばかりのTPPを分析した2012年の報告書で『TPPの最大の受益者は日本であると見込まれる』と述べている(2015年10月6日、WSJ日本語サイト)。
TPPについては、日本では米国の一人勝ちにつながると、反対論もあった。お金のことに関しては日本では「とらぬ狸の皮算用」、英語圏では ‘Don't count your chickens before they're hatched.’ というから、どうなるかはやってみないところがある。
はっきりとわかるのは、こういうこと。政治家は都合次第で平然と前言を翻す。参院選が始まった。ご用心、ご用心。
(食2016.6.23 花崎泰雄)
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