こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ストーカーもどき・2

2016年04月12日 00時49分41秒 | 文芸
「ちょっと

売り場

回ってみるかい?」

 辻本が尻をあげた。

せっかちな男である。

趣味が株取引だから、

少しの時間も

無駄にしたくない

きらいがある。

幸平と知り合い、

かなり

柔軟になったとはいえ、

まだまだ固い。

「行ってもええけど、

時間、

まだ早いぞ」 

 幸平は

柱の時計を

振り返りながら

言った。

 三時十五分。

三十分が過ぎると、

弁当や総菜の

値引きが始まる。

まず貼られるのは

二十パーセント引きのシールだ。

それは序の口で、

四時まで待てば、

二十パーセント引きが

半額になる。

幸平らには

それが買い時となる。

「そうけ。

ほなちょっと

ゆっくりすっかい」

「慌てるもんは

もらいが少ないんやど」

 幸平はあげかけた尻を

さっさと元に戻した。

目はレジのキツネに

向けたままだ。

「あんたは、

目当てが違うさかいのう」

 辻本は

ショッピングカートを掴んで

大儀そうに座った。

小さい頃から

足が不自由だった。

「タヌキは、

もう帰ったんかいなあ?」

「いっつも

キツネと入れ違いやさけ、

後退して抜けたんやろ」

「ほな、

わしの方は

楽しみあらへんがい」

 辻本は

タヌキのファンだった。

「別嬪さんやろが、

あのレジの女の子」

 辻本と意気投合した日、

彼は

顔をつるりと撫であげ、

得意げに

しゃべり続けた

 幸平がイオンに

足を向けたきっかけは、

定年退職だった。

何もせず

家でゴロゴロするのは

一週間も続かなかった。

もともと

貧乏性なだけに、

じっとしているのは

性に合わない。

別に家族は

幸平を邪魔者扱いしない。

彼自身の問題だった。

「イオンに行ったら

どないなん。

気が紛れるで。

家電売り場はあるし、

おなか減ったら

フードコーナーや。

便利やんか」

 妻は幸平のイライラを

察知していた。

小遣いを

二千円持たされ、

気は進まないものの、

何もしていないより

ましだと思い

出かけた。

 フードコーナー前の通路に

置かれたソファーで

ぼんやりしていると、

辻本がひょうひょうと

やって来た。

少し

足を引きずっている。
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