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アメフト観戦記や読書日記を綴っていましたが、最近は古墳(コフ)ニストとして覚醒中!横穴式石室をもつ古墳にハマっています。

長屋王横死事件

2013-11-07 19:01:28 | 読書日記
 「長屋王横死事件」
 豊田有恒著 講談社文庫

 結構、立て続けに豊田有恒の小説を読んでますねえ。本書は、奈良時代の「長屋王の変」を扱った歴史SF小説である。ちょっとミステリー小説風になっています。ちょうど「大友皇子 東下り」を読み終えた時に、見つけたのでつい買ってしまった。そういえば、奈良時代を扱った小説って著名なのでは、井上靖氏の「天平の甍」ぐらいで、その他黒岩重吾氏がいくつか小説を書かれていますが、あんまり浮かばない。小説ではないですが、手塚治虫の「火の鳥 鳳凰編」が、奈良時代の大仏建立を題材にしていますね。天平文化の最盛期と言われるのは、ちょうど長屋王の変、この小説では、長屋王横死事件と呼ばれる事件のあとになります。といっても長屋王自身、日本最初の漢詩集「懐風藻」にも何首か漢詩が選ばれていますし、長屋王の奈良の佐保に作った別荘が、当時の貴族、文人のサロンになっていたといわれています。長屋王自身も天平文化の前半を支える人物であったといえます。
 私的には、もうかなり前になりますが、長屋王の邸宅跡が発見されたときの衝撃は忘れることができないものでした。木簡という歴史資料が、社会的に認知されたのは、この時からのような気がします。

 本書は、長屋王の家令であった大伴子虫が 中臣宮処東人を殺害し、死刑になる前に、長屋王の事件について書き残した記録という形を取っています。大伴子虫は、実在の人物で、実際に小説にあるように、長屋王の変から約10年後に、長屋王を朝廷に密告したメンバーの一人である中臣宮処東人を囲碁を打っている最中に口論となり、東人を殺害してしまう事件を起こしている。ただ、小説と違うところは、大伴子虫自身は、死罪にはなっていない。(そのあたりは、続日本紀では触れられていない。)
 ただ、長屋王自身が、無実の罪を着せられたというのは、当時から知られていたようで誣告と書かれています。

 じゃあ、この長屋王を誰が陥れたのかというのが、本書のテーマになっています。

 通常、教科書的には、藤原四子が、政権を握るために、当時左大臣であった長屋王を排斥するために、中臣宮処東人らを使って「長屋王は密かに左道を学びて国家を傾けんと欲す。」と密告をして、長屋王の一族を自殺に追い込んだと言われています。
 もう少し突っ込んでみると、長屋王は、血筋的に天皇の位にかなり近いところにいる人物です。例えば、両親は、天武天皇の皇子高市皇子と同じく皇女の御名部皇女であり、特に高市皇子は、後皇子尊とよばれ、皇太子待遇であったといわれています。また、奥さんは、吉備内親王という人で、元明天皇の娘であり、文武天皇の妹にあたる人です。サラブレット中のサラブレットであり、邸宅跡で発見された木簡には、長屋親王と書かれたものも出土しており、天皇の皇子待遇であったとも考えられます。
 ということは、藤原氏としては、光明子を聖武天皇のもとに入れ、これから、蘇我氏ばりに、天皇家と結びついていこうというのに、藤原氏とは無関係な、むしろ血統的には、天皇家に匹敵する家系の存在は、はっきり言って邪魔な存在であったことは想像はできます。実際、長屋王の王子で、藤原氏の系統の王子は助命されています。長屋王と一緒に自殺したのは、吉備内親王とその子だけになります。
 だだし、生き残った王子も、のちの皇位継承をめぐる抗争に巻き込まれて命を落としてしまいます。(このあたりは、奈良時代の暗黒の一面ですね。)

 ただ、本書では、実際の黒幕は別の人物になっています。男女のドロドロとした情念が、背景にあるとされています。これ以上書くと種あかしになってしまいますので置いておきます。

 長屋王の変の後、一見、「あおによし、奈良の都は、咲く花の 匂うがごとく いま盛りなり」といった華やかな世界の裏側で、権力抗争に多くの皇族が巻き込まれ、命を落とし、天武天皇の系統はほとんど絶えてしまうことになります。

 そして、権力抗争とは無縁であった天智天皇の系統に皇位が継承されることになり、新たな平安の都が築かれていくことになります。

 本書では、行基も重要な人物として出てくるのですが、弓削道鏡ばりの怪僧に描かれています。
 そういえば、行基も奈良の平群に葬られています。長屋王、吉備内親王もそうですね。この時代の墓所として、この地域が設定されていたのかもしれませんね。

 
 
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