WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

逃避行

2010年05月19日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 269●

Joni Mitchell

Hejira

Scan10007

 ジョニ・ミッチェルの1976年作品『逃避行』、70年代の彼女の傑作といっていいだろう。素晴らしいサウンドだ。ジョニ・ミッチェルその人が弾いているらしいギターもさることながら、やはり何てといっても、ジャコ・パストリアスのエレクトリック・ベースが印象的だ。ベースをリズム楽器の地位から解放し、サウンドに広がりと奥行きをもたせ、あるいはサウンドそのものの中心となるアンサンブル楽器として、ベースにまったく新しい地位を与えている。

 私のもっているCDの帯には、「すさまじいまでの迫力を小編成のバックとともに気迫に満ちた音で描き出す内面的作品。」と記されている。私もそのように認識していた。ジョニの他の作品同様、歌詞も意味ありげで興味深いものが多く、まったく「内面的作品」というべきものと思っていた。だから、深夜に歌詞カードを眺めながらひとり静かに聴いていたものだ。

 ところが、である。この2~3日天気がいいので、お昼休みに海沿いを車で走ってみたのだが、たまたまナビのカーステレオのHDDからジョニのこのアルバムが流れ、印象がまったく変わってしまった。気持ちがいいのである。爽快である。よく晴れた日の昼休み、海岸通りをドライブしながら聴くジョニ・ミッチェルの『逃避行』。最高だ。もう、「内面的作品」などどうでもいい。私はただ、爽快で心地よいサウンドの中にいる。意味ありげな歌詞もとりあえずカッコにくくっておこう。私の新しいジョニ・ミッチェルの聴き方である。