ちょうど2~3年前の今頃
夕暮れ時に生前に母の暮らす施設を訪ねた
太平洋を一望できる高台に施設は建っていて海を見果てると
漆黒の遠い海原にポツンと二つ三つ寂しげに漁火が灯っていた
まだ今でも夜焚き(イカ漁)に行っている船があるんだろうか・・と思った
実家の裏木戸から海に向かって2~3分坂道を昇れば遠浅の砂浜が現れる
もう50年も前の僕が小学生の頃
冬になると砂浜の沖は眩いばかりの夜焚きの漁火に埋め尽くされて幻想的な光景が広がる
その夜焚きの漁船の灯りの一つが親父の乗る船だ
イカ漁は夕暮れに出て朝方帰ってくる
だからその時分、僕が小学校へ行く準備をしていると
漁から帰って来た親父がイカ漁の外道の河豚の鍋をつつきながら
晩酌?朝酌!をしている
甲斐甲斐しく世話をするお袋
その頃のお袋はばあさんの営む衣料品店の服の仕立て直しの夜なべ仕事に
冬に備えて幾つもの木の樽に仕込む漬物作り
日中の畑仕事と家事に追われていつ寝ているんだろうかと不思議に思った
じいさんは山仕事に出る前に地下足袋を履いて鎌を砥ぐ
ばあさんはニワトリに餌をくれる
それから50年経って
実家から皆消えてなくなった
家中の柱時計は皆止まっていて
お袋のミシンも姉の使ったオルガンも
兄の使っていたデスクトップのパソコンも
使い手は皆いなくなったけど
僕の思い出と
物だけは残された
もう15年も前に実家で飼われていた猫のミイが庭の池の噴水台に佇む姿だ
御多分に漏れず実家の家の処分に困っている
この池も枯れ池になって泥で埋まっている
戦後すぐにじいさんが闇屋で儲けて建てたんだが
今となっては無用の長物・・・
コンクリート造りの納屋が2棟に隣接してばあさんの営んだ洋服店まであって
それぞれ荷物が溢れている
困った