HIROZOU

おっさんの夜明け

過去に繫がる道

2015-06-04 19:13:40 | メモリー

                         

この世の何処かに過去に繫がる道があるらしい

その道を進めば過去に戻れる

但し戻れるのはただ一度だけ

戻った記憶は失われる

過去に繫がる道はいつ現れるか分からない

道はどこにあって

いつ現れるのか

誰も知らない

あれは50年近く前

僕がまだ小学校の低学年の頃

暑い夏の終わり

台風の去ったあくる日に

年上の従兄たちと海に泳ぎに出かけた

海はまだ台風の余波なのかすごく荒れていて

それでも海の怖さを知らなかった少年たちは海に入った

海に入った途端すぐ滝のような大きな波が彼らを飲み込み

深い海の底に引きずり込んだ

懸命に波の外へ出ようともがけばもがくほど

幼い力は自然の圧倒的な力に成す術は無かった

年上の従兄たちはどうにか陸にたどり着いたが

僕は深い海の底に飲まれたまま沖に流されて

ふたたび生きて海から出られなかった

僕の葬式が営まれた

幼い僕の笑い顔は遺影となった

憔悴しきった両親の顔

両親の記憶の中の僕が幼いままで途絶えた

母が数年前

過去に繫がる道を見つけたらしい

母は迷わずあの日

台風の去ったあくる日のあの海に向かった

僕が海に飲まれて溺れて死んだその日

その瞬間に

まさに僕が波に飲まれた時

母は叫んだ

「誰か助けてぇ!うちの子を助けて」

波の音を掻き消すかのように叫んだ

その声に気付いた近くで泳いでいた大学生が僕を助けあげた

こうして僕は死ななかった

死んだ過去が無くなったんだ

50年前の

過去に繫がる道をたどって行った母が過去を変えた

幼いままで途絶えた父の僕への記憶が現在の僕に繫がった

しかし過去に繫がる道を辿った母

一途にその道が見つかる事を願った母から

僕の幼い頃を含めて

一切の記憶が消えてしまった

母の中の僕がいなくなったんだ








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