(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に投稿した記事をそのまま掲載しています。)
311子ども甲状腺がん裁判は9月11日、東京地裁で第11回口頭弁論が行われ、傍聴券を求め若い支援者らを含む207人が並んだ。
*写真=入廷行進する関係者
弁論では、甲状腺の半分を摘出した原告の1人が証言。「福島原発事故から半径100㌔圏内に住んでいた。自分の住む地域が高線量だと思っておらず、30~40分かけて自転車で通学や買い物に出かけた。原発の方角を向いた窓を換気のため開けていた。目の前の道路を自動車が通るたび、地面から粉じんが巻き上げられていた」と当時の被ばく状況を語る。「甲状腺がんと診断された時点で10・6㍉だったがんは手術時には11・6㍉になっていた。手術後は麻酔が切れると傷口が痛んだ。再発、転移のことを考えないようにして自分の精神状態を保った」。緊張しているものの、堂々と落ち着いた陳述だ。
「原告7人を見ると、県民健康調査1巡目でがんと診断されたケースもあれば4巡目まで異常なしだったケースもある」。田辺保雄弁護士は、原発事故との「因果関係否定派」が根拠としているいわゆる「過剰診断論」(過剰な検査をした結果、見つける必要のない甲状腺がんまで見つけたとする非科学的「理論」)をデータに基づき否定した。
只野靖弁護士は「福島県紅葉山に設置されたモニタリングポストのデータを解析すれば、甲状腺がんの原因である放射性ヨウ素131をはじめ、環境中に放出された核種が特定できるにもかかわらず、「国連科学委員会」(UNSCEAR)はその手法を否定。放射線測定目的で設置されているわけではないSPM局(大気中浮遊物測定装置)の濾紙で測定された放射性セシウム137の推定値を使用した」と指摘。原発事故と甲状腺がんの因果関係を否定するためならどんなごまかしでも行う「国連科学委員会」の「非科学委員会」ぶりが明らかにされた。
原発事故と甲状腺がんとの関係を証明する意見書を東京地裁に提出した黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授に対し、東京電力が「放射線の専門家ではない」と主張していることについて、只野弁護士は「黒川名誉教授は高度の学識を持っており、専門家である。東京電力側の主張は黒川さんに対する侮辱であり、今後、このような侮辱は金輪際、やめていただきたい」と怒気をはらんだ声で陳述し、被告席をにらみつけた。
東電は、原発賠償訴訟など他の訴訟でも、被害者のプライバシーを公開法廷で暴いたり、貶める主張を繰り返している。「自分たちの正しさを証明できないので相手を貶める」東電側代理人の、相も変わらずの卑劣な法廷戦術だ。ごみの処理ひとつまともにできない「汚い原子力」と毎日触れている連中は、精神まで卑しくなっていく典型に思える。
◎市民の支援に手応え
報告集会では「裁判は、進むにつれて傍聴者が減るのが一般的だが、11回目の今回、逆に傍聴希望者が増え、200人を超えた」と報告があった。この裁判に対する市民の強い関心と支持に手応えを感じている様子がうかがえる。
「1人の被害者も泣き寝入りさせないため、原発事故が起きたら被害との因果関係があるものと推定すべき」との法学者・我妻栄の言葉を引き、電力会社に原発事故の全面かつ無過失責任を負わせた原子力損害賠償法(原賠法)の成立の経緯が井戸謙一弁護士から紹介された。国会審議時における我妻の発言こそ原賠法の「立法者意思」であり、現在の国・東電の姿勢はこの立法者意思を踏みにじっているという意味でも不当きわまりないものだ。
(報告・文責・写真 いずれも黒鉄好)
*「国連科学委員会」の正式名称は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」。2014年に福島に関する報告書を出している。