(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)
【週刊 本の発見】過去の鉄道廃線事例から「明日への提言」へ
『日本鉄道廃線史~消えた鉄路の跡を行く』(小牟田哲彦・著、中公新書、本体1,050円、2024年6月)評者:黒鉄好
タイトルだけ見ると、鉄道ファン界隈にありふれた廃線跡「歴史探訪」系の本のように思える。だが、単なる廃線跡の訪ね歩きに終わらせず、路線ごとの廃線史を鉄道政策の中に位置付けて検証し、ローカル線の明日につなげたいとの意欲が見える。
まず興味を惹かれるのは、この手の新書としては異例の7枚に及ぶ巻頭カラー写真と時代ごとの鉄道路線地図である。巻頭カラー写真では廃線後の各線の悲喜こもごもの風景が登場する。放置された線路跡をエゾシカが横断する北海道・石勝線夕張支線(2019年廃止)と放置された車両が草むす石川県・のと鉄道能登線(2005年廃止)の写真からは「悲」の強い印象がある。衰退が止まらない地域、過去の災害と比べても復旧の遅い地域と一致しているのは決して偶然ではない。「鉄道の扱われ方を見れば、その地域全体に対する国の扱い方が見える」ことは私自身、全国各地を鉄道で訪問し、何度も実感している。
私がかつて国鉄闘争に関わっていた頃、ある国労闘争団員から「昔は鉄道で日本列島の地図が書けたが段々難しくなっている」と聞いたことがある。7枚の路線地図を見ると、本州、四国、九州の形は現在でも鉄道でほとんど描けるのに、北海道だけが原形を留めていない。北海道「独り負け」がローカル線問題の現在地だ(今後はわからないが)。
鉄道路線の廃止を許可制から届出制に変更した2000年の鉄道事業法改悪によって、廃線がそれ以前と比べて増えたことを筆者はデータで示す。鉄道事業者が線路や路盤も含めて管理する「上下一体」方式では、廃線後に線路が撤去され、数十年後に再度、線路が必要になっても難しく、筆者は線路を残すことの重要性を訴える。保存車両の運行などと並んで「特定目的鉄道」制度(国が事業免許を与える観光専用鉄道。2000年の鉄道事業法改正で新設)の活用を提案している。
筆者は、ローカル線を含めた鉄道ネットワークを維持するため、廃線パターンの類型化が必要ではないかと主張しており、私はこれに同意する。廃線に至る要因を解消しなければ廃線阻止はできないからだ。本書を読破してみると、大まかに戦後前半期(1970年代まで)は道路の充実と自動車の普及による廃線が、また戦後後半期(1980年代以降)は地域衰退がそのまま鉄道の自然死につながる形が多いことが見えてくる。
現在まで続く「地域衰退型」廃線に関しては、鉄道事業者だけで対策を講じるのは不可能だ。地方の過疎対策、東京一極集中の是正を含む政策パッケージが必要であり、政治を転換する必要がある。衆院で少数与党となった2025年は千載一遇のチャンスである。
英国では、政権を獲得した労働党が民営化した鉄道の再国有化を掲げている。このような国際的動向も踏まえつつ、民営化JRが公共交通機関としての役割と両立しなくなるのであれば、民営化を再考するという発想が出てくるのは当然のことだと指摘。鉄道維持に向けた国の関与を求める。これらは、過去の拙著「地域における鉄道の復権」「次世代へつなぐ地域の鉄道」で指摘した私自身の問題意識、解決の方向性とも一致している。
廃線に減便、駅窓口の削減、割引切符の相次ぐ廃止・改悪などJRへの市民・利用者の不満はかつてなく高まっている。民営化からの脱却へ突破口を切り拓く2025年にしたい。