鉄道軌道法改正目指す JR只見線復旧へ方針確認 自民国会議員連盟(福島民報)
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災害により運休している赤字ローカル鉄道の運行再開を目指す自民党の国会議員連盟は15日、東京都の党本部で会合を開き、豪雨被害で一部区間の不通が続くJR只見線の復旧に向け鉄道軌道法の改正を目指す方針を確認した。
同法は鉄道事業者が赤字である場合に限り、自然災害で被害を受けた路線の復旧事業費のうち4分の1以内を国が助成するよう定めている。只見線を運営するJR東日本は黒字で適用対象外になるため、法改正により被災した赤字路線の復旧に取り組みやすい環境を整える。(以下略)
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当ブログと安全問題研究会が何度も国交省に要請してきた「黒字鉄道にも災害復旧費の国庫補助を」が、実現に向け最初の小さな一歩を踏み出した。自民党国会議員団が、災害復旧費の国庫補助を赤字事業者に限るとしてきた「鉄道軌道整備法」を、黒字鉄道事業者にも適用できるよう改正する方針を確認したのだ。
ちなみに、引用元の福島民報の記事は法律名を「鉄道軌道法」としているが、正しくは「
鉄道軌道整備法」だ(ネットか六法全書で調べればわかる法律名すらきちんと調べて書かないところがこの新聞らしいし、何度も誤報をやらかして平然としている福島民報らしい)。その鉄道軌道整備法は、次のように定めている。
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(補助)
第八条 1~3 (略)
4 政府は、第三条第一項第四号〔注:洪水、地震その他の異常な天然現象により大規模の災害を受けた鉄道であつて、すみやかに災害復旧事業を施行してその運輸を確保しなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの〕に該当する鉄道の鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるときは、予算の範囲内で、当該災害復旧事業に要する費用の一部を補助することができる。
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この規定が、「災害復旧費の補助は赤字鉄道事業者のみ」の根拠だが、自民党国会議員団は、これが黒字鉄道であるJRの路線の災害復旧を遅らせている要因と見て、今回、その改正を建議した。2011年7月の福島・新潟豪雨で不通となったまま再開のめどが立たない只見線の復旧を福島県側から強く求められたことがきっかけだが、政権与党である自民党が改正を建議したことで、法改正が実現する可能性が出てきたといえる。
当ブログと安全問題研究会は、黒字鉄道事業者にも災害復旧費を国庫補助するよう過去に何度も国交省へ要請してきた。これは、当ブログと安全問題研究会の独善的な要請などではない。国鉄を分割民営化するための関連法案が可決・成立した参議院国鉄改革に関する特別委員会で、1986(昭62)年11月28日に行われた附帯決議(
国会会議録参照)で、次のように決議されているのだ。
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○委員長(山内一郎君) 安恒君から発言を求められておりますので、この際これを許します。安恒君。
○安恒良一君 私は、ただいま可決されました日本国有鉄道改革法案外七案に対しまして、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、民社党・国民連合及び新政クラブの各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。案文を朗読いたします。
日本国有鉄道改革法案、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律案、新幹線鉄道保有機構法案、日本国有鉄道清算事業団法案、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法案、鉄道事業法案、日本国有鉄道改革法等施行法案並びに地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
政府は、本国鉄改革関連八法案の施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。
1 (略)
2 各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと。
3~13 (略)
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この附帯決議は、当時、この特別委員会で可決されており、橋本龍太郎運輸相、葉梨信行自治相(いずれも当時)はこの附帯決議の「趣旨を尊重する」と発言している。国民の足であり公共交通である旧国鉄を引き継いだJR線について、災害復旧がスムーズに行われるよう財政措置を行うことは国会が示した意思なのだ。
インターネットでは、(おそらく大都市部の住民が中心であろうが)只見線の国費での復旧など不要、廃線でいいとの意見が強いが、こうした主張は間違っている。国鉄を分割民営化する関連法案が審議されていた当時も、メディアを中心に「山手線の営業係数(100円の売上をあげるために必要な経費)は45、北海道のローカル線は3000」「毎日、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に耐えながら通勤している我々が、どうして北海道の熊しか乗らないようなローカル線を支えなければならないのか」などといった首都圏のサラリーマンの声を毎日放送するなど、国民を「国鉄分割やむなし」に誘導する世論操作、キャンペーンが行われた。
しかし、そうした世論操作に対し、当ブログは有力な反論を提出することができる。そのひとつが、農林水産省が毎年この時期に発表している都道府県別食料自給率だ。最新のデータ(平成22年度確定値、23年度概算値)は
こちら(PDF)から確認することができる。23(2011)年度の数値は東日本大震災や福島原発事故の影響を含んでいる上に概算値なので、震災・原発事故の影響を受ける前の確定値である22年で比較すると、北海道が174%であるのに対し、東京はわずか1%(いずれもカロリーベース)である。この数値は、国鉄分割民営化が問題になっていた80年代末期から大きく変わっていないはずだ。
「毎日、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に耐えながら通勤している我々が、どうして北海道の熊しか乗らないようなローカル線を支えなければならないのか」と考えている東京都民に対し、地方はこう反論すればいい。「それでは、東京都民は誰のおかげで毎日、たらふく飯が食えているのか?」と。
JRが国鉄であった頃、東京は確かに「満員電車に耐えるサラリーマンの犠牲」で北海道や九州のローカル線を支えていた。しかし一方、北海道や九州は東京都民の食料を生産することで東京に「お返し」をしていた。こうした中央と地方との助け合いを破壊したのが国鉄分割民営化だったことは、これらのデータから明らかである。首都圏のネット民で「ローカル線など廃止でいい」と主張している人たちは、地方産の食料を一切食べず、東京産の食料だけを毎日食べていればよい。助け合いを拒否して暮らすとは、そういうことである。
当ブログと安全問題研究会は、以上のような理由から、ローカル線を廃止すべきだとは考えない。今回の自民党国会議員団の知恵を現実的な法改正につなげる努力をすべきである。国鉄「改革」以来四半世紀、問題を放置してきた政治が、ようやくその処理に取りかかろうとしているのだ。当ブログと安全問題研究会は、JRを初めとする黒字事業者にも災害復旧費の国庫補助が可能となるよう、法改正に向けた国交省要請等の行動を考えている。