福知山線脱線事故でJR西の山崎社長を在宅起訴(産経新聞)
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兵庫県尼崎市で平成17年4月、乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故で、神戸地検は8日、業務上過失致死傷罪でJR西日本の山崎正夫社長(66)を在宅のまま起訴した。現場を急カーブに付け替えた平成8年、鉄道本部長だった山崎被告には現場カーブに自動列車停止装置(ATS)を設置するなど安全対策を取らなかった過失があったと判断した。鉄道事故で、企業の安全対策部門のトップが起訴されるのは極めて異例。JR史上最悪の事故は発生から4年以上を経て、現社長の刑事責任が問われることになった。
[フォト]106人が犠牲になった事故現場
また、地検は山崎被告の他に県警から書類送検されたJR西幹部8人と、一部の遺族からの告訴を受けた井手正敬元社長(74)ら歴代経営トップ3人についてはそれぞれ嫌疑不十分、事故電車の高見隆二郎運転士=当時(23)=は死亡を理由に不起訴処分とした。
事故の遺族らでつくる「4・25ネットワーク」はすでに、高見運転士を除き、書類送検や刑事告訴された12人のうち1人でも起訴されなかった場合には神戸検察審査会に不服を申し立てる方針を確認しており、近く手続きに入る。
処分をめぐり焦点となったのは、JR西幹部らが現場で事故を予測できたかという「予見可能性」の有無だった。地検は現場カーブにATSがあれば事故を防止できたと判断。その上で、平成8年12月に半径600メートルから304メートルに付け替えた際、緩いカーブから急カーブに付け替える工事は異例で、さらに完工の直前にJR函館線で、同様のカーブを速度超過で走行した貨物列車が脱線する事故が発生していたことを重視。山崎被告は社内会議で「ATSがあれば(函館線の)事故は防げた」との報告を受けており、危険性の認識があった結論付けた。
山崎社長は当時、安全対策における全責任を負う立場の鉄道本部長で、その前には安全対策室長(当時)も務めていた。地検はATSに対する知識が十分にあったにもかかわらず、函館線の事故を認識しながら現場カーブに設置する判断を下さなかったことが業務上過失致死傷罪の要件を満たしていると判断し、起訴に踏み切った。
一方、不起訴とした歴代幹部8人については役職にかかわらず、実質的にATSの知識や付け替え工事についての詳細な情報を知り得る立場になかったと判断した。さらにJR西の日勤教育については、高見運転士が精神的苦痛を受けた面もあるとしたうえで、事故当日の高見運転士に直接影響を与えたとはいえないと結論づけた。
井手元社長ら3人についても、JR西の取締役会の決議に基づき、安全管理については山崎被告にすべて委任されていたことなどから過失は問えないとした。
地検は今月26日に遺族や負傷者に対し、今回の処分についての説明会を開催する意向で、準備を進めている。
■JR福知山線脱線事故
平成17年4月25日午前9時18分ごろ、兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口-尼崎間で、快速電車が制限速度が時速70キロのカーブに約116キロで進入して脱線。線路脇のマンションに衝突するなどして、乗客106人と運転士が死亡、562人が重軽傷を負った。兵庫県警は8年に現場を急カーブに付け替えた際、自動列車停止装置(ATS)があれば事故を防げたと判断。兵庫県警は昨年9月、山崎社長ら当時のJR西日本の安全対策担当幹部ら9人と死亡した運転士を業務上過失致死傷容疑で書類送検した。また、一部遺族が今年に入り送検対象から外れた事故当時などの経営陣3人を神戸地検に告訴していた。
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関連情報:
神戸新聞記事(2009.7.8)
国土交通省鉄道局長コメント
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兵庫県警の書類送検を受けた後、神戸地検は異例の独自再捜査に踏み切った。遺族の無念に応えるための神戸地検の意気込みであり、当ブログはある程度今回の起訴を予想していた。公共交通の事故で運行会社の最高幹部が起訴されるのはきわめて異例のことであり、過去には520名が死亡した日航機事故でさえ関係者全員が不起訴とされ、誰ひとりとして刑事責任を問われなかった。それだけに、今回、1名とはいえ鉄道会社の最高幹部が起訴されたことは巨大な前進である。
しかし、起訴が山崎社長のみにとどまったことに対して、当ブログは強い不満を表明する。とりわけ井手正敬・元社長は安全を崩壊させる国鉄解体に直接係わった国鉄改革「三羽ガラス」のひとりであり、人材活用センターに代表される旧国鉄の 強権的労務政策を引き継いで意思疎通のできないJR西日本の企業体質を作り上げた張本人である。山崎社長がハード面で事故の原因を作り出した責任者であるとするなら、ソフト面で尼崎事故の原因を作り出した最高責任者は井手氏である。今後も、当ブログが井手氏はじめ、最高幹部らの責任追及の手を緩めることはない。
運転士は「日勤教育」等、JR西日本社内を覆い尽くしていた強権的管理体制の犠牲者であり、不起訴は妥当である。しかしながら、不起訴の原因が「死亡」とされたことに対し、当ブログは不満を表明する。高見運転士の名誉を回復するため、不起訴の原因は「嫌疑なし」とすべきである。
事故の遺族らでつくる「4・25ネットワーク」はすでに、運転士以外で書類送検や刑事告訴された12人のうち1人でも起訴されなかった場合には神戸検察審査会に不服を申し立てる方針を確認しており、近く手続きに入ると報じられている。当ブログは、事故の原因究明と再発防止のため、これを断固支持する。
焦点となった事故の予見可能性について、山崎社長は任意の事情聴取に対し「事前の予見は不可能だった」との供述を行ったと報じられている。しかし、山崎社長は尼崎事故以前、JR北海道・函館線で発生した貨物列車のカーブでの速度超過脱線事故に関し、社内会議で「(速照)ATSがあれば防げた」との報告を受けており、これら先行事故の事例から事故の危険性を知りうる立場にあったと考えられる。
さらに、組織としてのJR西日本も同様に尼崎事故の危険性を予見していたと当ブログは考える。なぜならJR西日本は、事故現場の曲線に対して時速70キロメートルの制限速度を設定していたからである。この数値は、旧「普通鉄道構造規則」第10条で定められていた半径250メートル曲線における制限速度の下限値である。事故現場の曲線半径は300メートルであったが、JR西日本自身がこれより半径の小さい250メートル曲線における下限値を制限速度に設定していたという事実こそ、同社が事故の危険性を予測していたことを示すものであり、神戸地検が期待する公判の維持は十分可能と考えられる。
兵庫県警、神戸地検の一連の捜査から起訴へ至る過程の中で浮き彫りになったのは、業務上過失致死傷罪の立件の難しさである。もともと業務上過失致死傷罪は、交通事故や業務災害など因果関係の立証が容易であるものを想定しており、今回のような大規模な公共輸送機関の事故に対応することは困難である。しかし、100名を超える乗客が死亡しながら、因果関係の立証が困難であるから誰ひとり刑事責任を問われないなどということがあってよいはずがない。今後の課題として、業務上過失致死傷罪とは別に、結果の重大性のみで刑事責任を問うことが可能となるような法整備が急務である。
今回の山崎社長の起訴によって、尼崎事故は法廷における刑事責任追及という新たな局面に入った。この節目に当たり、当ブログは、107名(後追い自殺者を含めると108名)の犠牲者遺族に改めて哀悼の意を表するとともに、今なお治療過程にある負傷者の方に対しても、お見舞いを申し上げるとともに1日も早いご快癒をお祈りする。同時に、鉄道事故の再発防止という当ブログに課せられた使命を再認識し、引き続き安全問題に取り組んでゆく。