青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設に対し、原子力規制委員会がろくな審査もしないまま「合格」の審査証を出そうとしている。現在、この問題に関するパブリック・コメントの募集が行われている。締切(6/12まで)が明日に迫っており、当研究会も本日、意見を提出した。
できる限り多くの人から「反対」意見を集中させることが必要である。当研究会のように長文である必要はない。短文でもかまわないので、できるだけ多くの人に意見提出をしていただきたいと思っている。意見提出は、
こちらから。
以下、参考資料と当研究会の意見をご紹介する。
<参考資料>
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意見募集要項(日本原燃株式会社再処理事業所における再処理の事業の変更許可申請書に関する審査書(案)に対する科学的・技術的意見の募集について~原子力規制委員会)
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日本原燃株式会社再処理事業所における再処理の事業の変更許可申請書に関する審査書(案)(原子力規制委員会)
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日本原燃株式会社再処理事業所再処理事業変更許可申請に関する審査(案)の概要(原子力規制庁)
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日本原燃株式会社 六ヶ所再処理施設 審査状況(原子力規制委員会)
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<当研究会が提出した意見>
1.基準地震動に対する評価について(「審査(案)の概要」該当箇所7~16頁、審査書案該当箇所27~46頁)
<意見>
この審査書案では、施設の直下または施設付近にある限られた狭い範囲の活断層及び基準地震動のみを考慮して、安全性に問題がないとしているが、近年活発になってきているより広範囲の地震及び津波の影響、また震度等を考慮すると、安全とした評価は誤りであり撤回すべきである。
<理由>
審査書案では、再処理施設から半径30kmの範囲内にある活断層を抽出し、審査して問題ないと結論づけている。しかし、再処理施設に甚大な影響を与える地震は施設直下で発生するものだけとは限らない。再処理施設のある青森県三八上北地方で、福島第1原発事故(2011年3月11日)以降、震度5弱以上の地震に限っても、2012年5月24日(青森県東北町で震度5弱)、2016年1月11日(青森県南部町で震度5弱)、2019年12月19日(青森県階上町で震度5弱)とすでに3回発生している。また、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が行った長期評価では、「青森県東方沖及び岩手県沖北部~茨城県沖」の沈み込んだプレート内の地震について、M7.0~7.5程度のものが22.0~29.4年周期で発生することを見込んでおり、その直近の発生は2012年12月7日であるとしている(注1)。
今回、審査の対象となった再処理施設については、日本原燃の現在の計画通りに進んだ場合でも、稼働開始は2021年の予定であり、稼働期間は40年間を見込んでいる。前述した地震本部の長期評価通りに推移するとすれば、「青森県東方沖及び岩手県沖北部~茨城県沖」の沈み込んだプレート内を震源とするM7.0~7.5程度の地震は、直近の発生からすでに7年半経過していることを考慮すると、2021年~2060年における稼働期間中に最低でも1回、場合によっては2回発生することが予想される。このような地域に設置されている施設を合格させることは認められない。
注1)
「令和元年12月19日15時21分頃の青森県東方沖の地震について-「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第84報)-」気象庁
2.津波による損傷の防止について(「審査(案)の概要」該当箇所19頁、審査書案該当箇所61~67頁)
<意見>
審査書案は「耐震重要施設及び常設重大事故等対処施設の必要な機能が損なわれるおそれがないことから、津波防護施設等を設ける必要はない」としているが、過去の再処理施設のずさんな運営によるトラブル、福島第1原発事故における津波の影響、この種の施設で事故が発生した場合に与える巨大な影響のいずれをも踏まえておらず、はじめに結論、合格ありきのずさんな審査といわざるを得ない。この面からも合格の審査書は撤回すべきである。
<理由>
この再処理工場では、2017年8月、発電機の燃料油供給配管が収められている地下1階配管ピットに800リットルの雨水が溜まり、建屋側に流入するトラブルが発生している。この事故は、一歩間違えば配管の水没によって非常用発電機への燃料供給ができなくなり、福島第1原発事故と同じ全電源喪失を招きかねないものであった。
こうした事態が起きたにもかかわらず、再処理施設の非常用電源建屋では、ディーゼル式非常用発電機が1階に設置されているのみならず、発電機に燃料油を供給するポンプや燃料タンクに至るまで地下1階に設置されている。福島第1原発事故で、地下に設置された非常用ディーゼル発電機がすべて水没し、全電源喪失に至った経緯を踏まえれば、これらの施設について、原子力規制委員会は日本原電に対し、高台に設置し直すよう命じるべきである。これら重要施設を地下設置とした日本原電の計画のまま合格とした今回の審査書案は、福島第1原発事故の教訓をまったく受け止めておらず言語道断である。「電源の確保」(「審査(案)の概要」50頁、審査書案265頁以降)の項目では、非常用電源車を用意するとしているが、地下施設がすべて水没するような大規模な事故や災害時に電源車を現場に投入することが果たして可能なのか(電源車投入に当たっては、現場で運転手が急性放射線被曝によって死亡しない程度の低線量に抑えられている必要があるが、大規模事故の際にこのような低い線量が確保されている保障はない)。
また、再処理施設は、事故が起きなくても日本中の原発が1年間で出すのとほぼ同量の放射能を1日の稼働で排出するとされる。このような施設で仮に大事故が発生した場合、商業用原子力発電所とは比較にならない甚大な影響が広範囲に及ぶと予測される。幸い、国際的にも類似の事故の事例は発生していないが、1980年4月15日、フランスのラ・アーグ再処理施設で一時的に全電源が喪失した重大インシデントの際は、工場労働者が「最後はせめて家族と一緒に死にたい」として自宅に逃げ帰る事態になった。そのまま事故となればヨーロッパが全滅する事態もあり得たと、藤田祐幸・元慶應義塾大学物理学教室助教授(2016年死去)は証言している。
このような重大な影響をもたらす施設には、通常の商業用原子炉向けとは異なるより高次元の安全基準を必要とする。しかし、日本原電が行っている安全対策の現状は、福島第1原発事故の結果から当然に予想できる程度の危険を防止できる水準すら満たしておらず、審査以前の問題である。
3.再処理施設の経済性及び実現可能性について
<意見>
四半世紀もの期間、技術的理由で稼働延期を繰り返してきた再処理施設に合格証を付与することは規制機関として無責任であり、また巨額の税金投入が今後、必要と見込まれる点からも、再処理計画は直ちに中止すべきである。
<理由>
当初計画では、そもそも再処理施設は1997年に完成する計画だったが、すでに稼働開始は24回も延期されている。ガラスと高レベル放射性廃液を混ぜてガラス固化体に加工する過程の技術的問題の検証に長期間を要したことが背景にあるが、「審査(案)の概要」はこの点にまったく触れていない。当初計画から四半世紀経っても稼働開始できない施設の実現可能性はないものと言わざるを得ず、このような施設に対し、稼働前提の合格証を付与すること自体が絵空事に過ぎない。
再処理施設の経済性についても、構想段階で6900億円とされた費用は7600億円(1989年3月)、1兆8800億円(1996年4月)、2兆1400億円(1999年4月)と膨れあがっており、これは関西空港の人工島建設に要した費用(1.6兆円)すら上回っている。稼働した場合の総額は19兆円に達する可能性があるとの指摘もある(注2)。稼働できてもできなくても国民への巨額のつけ回しとなることは確実であり、高速増殖炉「もんじゅ」と同様、被害の少ないうちに中止を決定すべきである。
なお、「再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には、青森県、六ケ所村及び日本原燃株式会社が協議のうえ、日本原燃株式会社は、使用済燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずるものとする」と規定した
青森県知事、六ヶ所村長、日本原燃3者連名の覚書が1998年7月29日に締結されている。この覚書は再処理事業が中止となった場合において使用済燃料の「施設外への搬出」を規定したものに過ぎないが、高レベル放射性廃棄物の性質上、搬出先は搬出元の各原子力発電所以外にはあり得ず、日本の商業用原子力発電所の運転続行が不可能になることが中止の決断ができない原因として指摘されている。
しかし、このような状況は決断を先延ばししたからといって変わるわけではない。国の主導の下、青森県、六ヶ所村、日本原燃及び燃料搬出元の各電力会社及びその立地地域との真摯な協議により、この事態に決着をつける時期に来ている。
注2)「
19兆円の請求書-止まらない核燃料サイクル-」(2004年、当時の経産省若手有志が作成したとされる)